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第二十五話 ボッティ・カルザ

遅れました。


ラキャの妊娠が発覚した次の日の夜の話です。


※時系列

二十一話 → 1週間後、二十四話 → 夏休み終わって二十二話 → 二十三話 → 次の日二十五話(今ココ)



 秋の一歩手前。

 じっとりとした湿気が街を包み込み、まだ寝苦しい夜の空には、眩しく光る淡いオレンジの月が浮かんでいる。


「お、来たか」


 カウンターに座り自分の娘ジュリアをあやしていたリリナは、そう言って入り口に身体を向けた。


「おう」


 そう言いながら店に入ってきたのは、身長二メートルを越すドーベルマンの大男。

 特注サイズのスーツに身を包み、黒革のカバンを手に持っている。

 その大男、ボッティは、しゃがみ気味でのれんを押し、リリナに挨拶をするとそのままカバンを置いて席に着いた。

 リリナが前に見たのはつい数ヵ月前の事だが、カウンター越しに見るボッティの巨体は少し雰囲気が変わったふうに見えた。

 数ヶ月前のボッティは尖ってはいないが、どこか近寄りがたく、とっても無愛想な雰囲気を漂わせていたのに比べ、今のボッティは柔らかく触れやすいような印象を感じてとれる。

 その変わりようは、どこかリリナの夫であるカッレーの変化にも似ていた。

 コイツも色々あったからかなあ、とリリナは思いながら口を開いた。


「久しぶりだな。あんたがウチの店に来るのは」


 リリナはリンネ(会話アプリ)でボッティから店が閉まった後に来るという連絡を受けていたため、ぐずるジュリアを抱きながら待っていたのだ。

 リリナの後ろからは、食器を洗う音が聞こえてくる。

 ボッティが言う。


「ちょっと色々と入り用があってな。もう少し頻繁に来たかったんだが、なにせあんな事が有ったからな」


 あんな事、とは勿論ラキャが襲われかけた事件のことだ。

 ボッティは大きく溜め息を吐いた。


「で、今日は何のようでウチに来たんだい? そんなに複雑そうな顔をして。何か話すことでもあるんだろ?」

「ああ……少し相談したいことがあってな……」


 ボッティは少しリリナから目線を離した。

 リリナは任せとくれというように胸を張った。


「そんなことかい。私で良いなら、なんでも話しておくれ」

「すまない、助かる。昨日病院に行って分かったことなんだが、ラキャが俺の子を妊娠したようで……」

「ちょっとまった」


 突然落とされた核爆弾級……否、水爆級の発言に、リリナが待ったをかけた。

 リリナの脳は理解するのに少し時間がかかったようで、一呼吸置いてからリリナが顔を上げた。


「どういうことだいあんた? 答えな。答えによってはあんたをぶっ飛ばすよ」

「リリナ。答えるから、答えるからどうか落ち着いてそのウイスキーボトルを置いてくれ」


 そう言って、ボッティは完全に致命傷を与える気でいるリリナに言い訳ともとれる経緯を話し始めた。






「やっぱりあんたはロリコンだったのかい」

「違う。ただ俺とそういう関係になったのがラキャだっただけだ」

「やっぱりロリk………」

「違う」


 ボッティは即答した。

 どこか必死に見えるボッティが少し滑稽に見え、リリナは俯いて笑った。


「く………くく………」

「何がおかしい」

「いや、何というか、真顔とのギャップが。ところで、あんた変わったねぇ。数ヶ月前はもっと寡黙でクールな感じだったじゃないか。今は何というか………感情が豊かになったんじゃないか?」

「うむ………まあ、俺もそれは感じている。色んな物の見方が前よりも変わった、と思う」


 ボッティは店を見回し、人がいないかを確認するような仕草をした。


「あまりおおっぴらには言えないが、変な意味なしに、今の俺にとってはリリナが女として魅力的に見える」

「そりゃどーも。口説いたって無駄だよ。私にゃもう一生ついてくって決めた亭主がいるからね」

「口説いてる訳では無いんだがな」


 なぜボッティの感性が前と比べ豊かになったかと言えば、ボッティが今まで知りようの無かった異性に対する感覚というものが様々な感情を連鎖的に奮起させたからだ。

 それは誰もが一緒だろう。

 初めて恋をしたとき、初めて愛を知ったとき、初めて同じ屋根の下で過ごしたとき、初めて一枚の布の下で身体を暖めあったとき、それからのその人の世界はその人にとって違った物となるだろう。

 ボッティはその40年分の波が来たという訳だ。


「で、これからどうするつもりなんだい? 前の市長だって息子の不祥事でクビになったじゃないか。あんたのはある意味もっと悪いんじゃ無いのかい?」

「そうだな……ラキャは産みたいと言っている。ラキャの願いは俺の願いでもあるから、それはきちんと叶えてあげたいと思っている」

「産むのかい………」


 リリナが先程まで母親の耳をいじっていたジュリアを見下ろした。

 ジュリアは、母の腕の中で安らかに眠っていた。


「………でも、問題が山ほどあるんだろ?」

「ああ………俺とラキャは親子だし、歳の差は二周りも離れている。それに、ラキャは高校生だ。病院には俺が父親だと言うことは知られていないが、産むとなるとそれが公になる。俺が市長だからこそ、より広く知られる事になるだろう。マスコミも、批判する者も現れるだろう…………ということは、ラキャには言った。だが………」

「…………ラキャちゃんは産みたい、と」


 その時、少しばかりボッティの顔がほころんだ。

 ラキャがそう言った事に対する喜びか、それとも別の何かか。

 ボッティが続ける。


「だから、俺はラキャの願いを叶える。そのために、俺がラキャの盾になる。市長としてでもなく、社長としてでもなく、父親としてラキャを守る。ラキャと、ラキャのお腹の中の子の父親として」

「………そうかい」


 ボッティの巨体からは、有無を言わせぬほどの迫力が立ち上っていた。

 ボッティの瞳は、正に使命に燃えていた。


「はぁ………」


 呆れたように、リリナがため息混じりにウイスキーボトルを置いた。


「………私はラキャちゃんが幸せなら何だっていいのさ。ジュリアもいるし、ウイスキーボトルは勘弁してやるよ」

「それは有り難い」

「まあラキャちゃんの純白を汚した罪は重いから殴るけどね」


 次の瞬間、ガン、という鈍い音と共にボッティの頭におたまが振り下ろされた。

 真ん中から曲がったおたまが衝撃の強さを物語っている。


「痛いな」

「ラキャちゃんを幸せにしてやんな。じゃないと私がぶっ飛ばしに行くよ」

「ああ。言われなくても解ってるよ」


 その時ちょうど、店の奥から何の事情も知らないカッレーが顔を出した。


「あれ、市長さん。来てたのなら声でもかけてくれりゃ良いのに」


 カッレーは手をタオルで拭きながらリリナの隣に座った。

 この前は社長さんと呼んでいたが、ボッティが市長になったことは知っていたようで、今度は市長さんと呼ぶことにしたようだ。


「ああすまない。すっかり忘れていた」

「おい…………」


 カッレーが肩を落とし、ジト目でボッティを見た。


「どうしたんだい? リーも市長さんも、神妙そうな顔をして?」

「お前は聞いていなかったな。実は…………」






「ロリコンじゃ無いからな」

「いやまだ何も言ってないだろ…………」


 ボッティから事情を聞いていたカッレーが自分の顎を触る。


「まさかあんたとラキャちゃんがねぇ…………割とヤバくねぇか? それ」

「だが、俺はラキャの願いを叶えたいんだ。もうラキャも16歳だ。ラキャの事は、ラキャ自身に決めさせる。それにだ……」

「それに、どうしたんだ?」

「俺も、ラキャの子を見たい」

「そうか………」


 カッレーがリリナの方を向く。


「………経験者から言わしてもらうが、子供って言うのは、そんなに簡単なもんじゃないぜ? 産むって言うのは、父にも母にも、本当に覚悟がいる。子供って言うのは、死ぬまで自分に付きまとってくる存在だ。それを背負いきる覚悟は市長さんとラキャちゃんにあるか?」

「ある」

「即答かよ………」


 カッレーは参ったと言うように両手を上げた。


「……なら、まあしょうがねえな。これ以上は俺は口を挟むべきじゃねえな。あとは、市長さんとラキャちゃんで解決するべきだろう?」

「ああ……」


 ボッティは目を閉じ、ラキャを想った。

 何度も襲いかかる吐き気に耐えながら、ボッティに自分の全てを預けると言った、1人の母親の顔。

 全てを守りきると宣言したあの時、ボッティは確かに父親になった。

 ボッティは目を開けた。


「…………なにかあったら、また相談しに来ても良いか?」


 リリナとカッレーは顔を見合わせ、微笑んだ。


「いつでもいいぞ」

「いつでも、相談しに来な」


 頼もしい相談者が出来たと、ボッティは力強く頷いた。





文章が変かもしれません。

許して。

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