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第二十三話 ラキャ・カルザ

 私は、真っ白なところにいた。

 360度どこを見ても真っ白。

 私が奴隷だったとき、閉じこめられていた部屋みたい。

 だけど、そこより、なんだか優しく私を包んでくれている。

 冷たくない。

 ふわりと、温かい。


 私は真っ白な世界に小さな光が光っているのが分かった。

 私はそこに駆け寄った。

 小さな光は5つあった。

 ふわふわと、一カ所に集まって浮いていた。

 光は温かく光っていた。

 でも、それは弱々しく、今にも消えてしまいそうだった。

 守ってあげなきゃ。

 私は、その光を両手で包み込んだ。

 私がそうしてあげると、光が少しだけ強くなった。

 喜んでいるのかな。

 私の腕の中の光はふわふわと光っていた。


 ほのかに、温かい。

 優しい光………







「……………さん。カル……さん」


 誰かに肩を叩かれている。


「カルザさん」


 私の名前だ。

 私は目を覚ました。


「カルザさん。親御さんが来たわよ」


 保健の先生がベッドの横にいた。

 お父さんが来たみたいだ。

 私は起きあがろうとして、また吐きそうになった。

 桶にビニール袋をかぶせた物を先生が用意してくれたから、それに吐いた。

 もう胃液くらいしか吐けない。


「6時間目からずっとこの調子のようなので、一回病院に連れて行って下さい」

「はい」


 カーテンの向こうから聞こえた低い声。

 お父さんの声だ。

 ああ、やっぱりお父さんの声は心地いい。

 お父さんがカーテンを開けた。


「大丈夫か?」


 お父さんが低い声で、私を心配した。


「うん………まだ気持ち悪いけど………」


 私がそう言うと、お父さんが頷いて、手を貸して私がベッドから出るのを手伝ってくれた。


「じゃあ、お世話になりました」

「はい。お大事に」


 お父さんが珍しく敬語を使って先生に挨拶をした後、私の通学バッグを持って、私を車までエスコートしてくれた。

 車に乗ると、私はまた吐いた。

 吐いた物が緑色で鮮やかだったから一瞬驚いたが、すぐに胆汁だと気づき、落ち着きを取り戻した。

 胃液も吐ききってしまったということだ。


「大丈夫じゃ無さそうだな。先生から症状は聞いた。このまま病院に直行するぞ。いいな?」

「うん………」

「なるべく揺れないようにするから、我慢してくれ」


 そう言うと、お父さんはゆっくりと車を発進させた。

 確かに少し揺れるが、なぜかベッドで寝ていた時よりも気が楽だ。


 しばらく車に揺られながら、私は口を開いた。


「お父さん………」

「………なんだ?」


 お父さんは振り返らずに聞き返す。

 街並みがゆっくりと通り過ぎていく。


「もしかして、だけど……………」

「…………症状、か?」

()()かもしれない」

「………そうか」


 少しの沈黙が、私とお父さんの間に流れる。


「心配しなくていい」


 お父さんがそう言った。

 車が信号前で止まった。


「………ラキャ」

「………ん」

「……………本当にいいのか?」


 お父さんが分かりきった事を聞いてくる。

 そんなもの、何回も言ったじゃん。


「………いいの」


 私は自分のお腹に手を置いた。

 ミラー越しに、お父さんがその様子を見たのが分かった。


「…………分かった」


 信号が青に変わった。

 お父さんがゆっくりとアクセルを踏み込んだ。




 お父さんが行ったのは、街にある病院の中でも大きな病院だ。

 病院の待合室でも、何度か吐いてしまった。

 もう吐ける物は吐ききったのに、身体が吐こうとする。

 脱水症状にならないように、さっき水を辛うじて飲んだ以外は、何も口にしていない。

 お父さんが横で落ち着かない様子で座っていた。

 時折私が吐くと、背中をさすってくれる。

 長い時間を待っていると、私の名前が呼ばれた。


『カルザさん。ラキャ・カルザさん。5番診察室にお越しください』

「はい」


 お父さんが代わりに返事をしてくれた。

 立ち上がると、また立ち眩みみたいに視界が暗くなったけど、今度はお父さんが支えてくれた。

 なんとか診察室まで行き、椅子に座ると、女の先生がパソコンの画面を見ながら言った。


「カルザさん。昼頃からいきなりの嘔吐と頭痛、ということですが、何回ほど吐きましたか?」

「10回以上だと思います」


 お父さんが答える。


「そんなに多く。分かりました。頭以外に、どこか痛むところはありますか?」

「………いい、え」

「分かりました」


 頭が痛くて、そう答えるのがやっとだ。

 先生がカタカタとパソコンに何かを打ち込む。


「ふむ………感染症の可能性が有りますが………咳はない、と」

「無いですね」

「分かりました。では軽く精密検査をするので、一回口をゆすいでください」


 先生が持ってきた水の入ったコップで口の中をすすぎ、桶に吐き出す。

 その後、綿棒で頬の内側の唾液を拭った。


「では10分ほど待合室でお待ちください」

「分かりました」


 しばらく、私とお父さんはまた待合室で待った。


「この体制が楽か?」

「うん………」


 今私はお父さんに寄りかかった形になっている。

 これなら、普通に座っているよりも頭の重さが軽減されるし、気持ち的にも楽だ。

 そうやって、15分がたった。

 ちょっと検査が長引いているようだ。

 それよりも気になるのが、明らかに受け付けの向こう側がざわついている事だ。

 時折、お医者さんと看護婦さんの目線がチラチラと私とお父さんに向けられるのが垣間見える。


「ねえ、お父さん…………」

「なんだ?」

「なんだか、騒がしいねぇ…………」

「………そうだな」


 お父さんは私の頭を撫でた。

 その口角が、微かに上がっていた。


『か、カルザさん。ラキャ・カルザさん。5番診察室までお越しください』


 少し慌てたように、受け付けの声が待合室に響いた。

 お父さんがさっきと同じように私を支えながら診察室まで連れて行ってくれた。

 そこには、カルテを見つめるさっきの先生がいた。


「………えと……カルザさん。いや、市長……………」

「カルザでいい」


 お父さんが市長ということは、誰もが知っている。

 なにせ、この街の最高権力者だ。

 知らない方がおかしい。

 この病院も税金で経営しているので、遠目で見れば、お父さんが経営しているのだ。


「なんて言えばいいんでしょう…………取りあえず、インフルエンザなどの危険な感染症ではありませんでした………が」


 感染症じゃ無かった。

 それは良かった。

 しかし、困り果てた顔をした先生は、カルテを見つめたまま眉毛をハの字にしている。


「うーんと………」

「なんですか?」


 お父さんが先生に聞いた。

 もう、答えはほとんど分かっている癖に。

 先生は観念したようにため息をつき、カルテを読み上げた。


「単刀直入に言いますと……………ラキャさんは、妊娠しています」

「…………そう、ですか」


 自分の声が震えている。

 もうほとんど分かってはいたけど、いざ正解を聞くと、どうしても胸が高鳴る。

 ほっぺを暖かい物が伝い落ちる。

 私は泣いていた。

 顔に悲痛の色を浮かべながら、先生が私を見ている。


「ラキャさん…………」

「………違うんです……………」

「え?」


 私は、声を振り絞った。


「嬉しいんです………」


 そうだ。

 嬉しくて、ただ、この身に命が宿っている事が、宿ってくれたことが、嬉しくて。

 お父さんが、うつむいて泣いている私の肩に手を置いた。


「………私はこの子を産みます。産みたいです」


 私は、顔を上げて先生に言った。

 それが、私、ラキャ・カルザの覚悟。







さあて、おなかの中の子の父親は誰なんでしょうね(すっとぼけ)

もう少しで最終話かな?

その前に感想欲しい。

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