第二十話 焼却済みの復讐心
ルーの名前を何回か間違っていました。
リー→ルー
奴隷商人クゼイ・パヒュルス。
彼は奴隷の売却先を一切話そうとはしなかった。
証拠も見つからず、売られた奴隷の捜査は難航していた。
その証拠は、クゼイがとっくのとうに処分していた筈だった。
しかし、台風が直撃した時、証拠は風に乗り舞い上がった。
そして、絶対に渡ってはいけない男の手に渡った。
ルー・ヴェルディ。
ウナ市立リーガンハル高等学校三年、元陸上部部長。
この超都市の市長の息子でもある。
その時の彼は復讐に燃えていた。
あいつだけは許さない。
俺を貶めたあいつだけは絶対に許さない、と。
もちろんラキャに対しての逆恨みである。
自分が部員に暴力を振るっていたのを目撃され、挙げ句投げ飛ばされたのだ。
この俺が!
そう思っていた矢先に、神の悪戯か、道端に落ちている一冊の冊子を見つけた。
それを拾い中をみたルーはほくそ笑んだ。
これであいつに復讐出来ると。
しかし彼の復讐劇は失敗に終わった。
ラキャの父親、ボッティの手によって。
全ての悪事が暴かれたルーは逮捕された。
ウナ市市長の息子が逮捕された事実は、街に瞬く間に広がった。
市長は辞任。
突然の出来事で、次期市長も決まっていない。
我こそはと声を上げる者は多々いる。
市の職員の決定で市長選挙は3ヵ月後ということに決まった。
そして。
ルーが逮捕されたあの事件から僅か2週間。
夏休みが始まり、街が活気づいている中。
奴隷売買名簿により逮捕された、最初の犯罪者の裁判が開廷しようとしていた。
木槌の音が鳴り響く。
「これより、被告人ボッティ・カルザの法廷を開廷します」
厳かな雰囲気の黒い毛のミニチュアシュナウザーの裁判官が、そう叫んだ。
裁判官の左右には、3人ずつ裁判員が並んでいる。
全員が緊張した表情だ。
この裁判は裁判員裁判。
一般市民の中から選ばれた、6人の裁判員が判決を決める。
「弁護側準備完了しています」
男のパピヨンの弁護士が、ズレた眼鏡を直す。
「準備完了している。検察側も」
高い声で、しかし威圧的に、可愛らしいチワワの検察官がそう言った。
背が足りないためか、足踏み台に乗っている。
こちらも男だ。
「では被告人。前へ」
裁判官が被告人を呼ぶ。
被告人とは、今回裁かれるべき立場のドーギニアのことだ。
被告人と呼ばれた男は席を立ち上がり、証言台に立った。
被告人から少し離れた場所に座っているキャバリアの少女が、不安げにその様子を見つめる。
男はジャージを着ているが、身長が高いので足首が見えている。
「名前と年齢。職業、住所、本籍をお答えください」
証言台に立つのは身長が2メートルを越えるドーベルマンの大男だ。
男は重々しく口を開いた。
「ボッティ・カルザ、40歳。株式会社ビルデスト社長、住所はウナ市37区4-3-5、本籍はウナ市にあります」
ボッティはそう言うと、小さなため息を吐いた。
裁判官が頷く。
「分かりました。検察側。起訴状を読み上げてください」
「はい」
可愛らしい声で返事をした検察官が立ち上がり、書類を手に取る。
「被告人、ボッティ・カルザは11年前、ウナ市にて、被害者ラキャ・カルザを奴隷商人クゼイ・パヒュルスから買い取り、長年にわたりその事実を隠していました。奴隷であったドーギニアは届け出を出し、正式な手続きを受けなければいけないのですが、被告人はそれを提出せず、何食わぬ顔で暮らしていました。これはカプアポリス共和国法第107条第3項の人身売買取引法違反と、第5項奴隷所持法違反の疑いがあります」
検察官が言い終えると裁判官が頷いた。
「被告人。あなたには、黙秘権があります」
「はい」
「それを承知した上でお答えください。只今の罪状に、異議はありませんか?」
「………ありません」
ボッティが静かに言った。
「わかりました………では、弁護側は、どのような意見を述べますか」
「はい」
弁護士が立ち上がり、書類を読み上げる。
「弁護側は、この裁判において、無罪を主張します」
法廷が一瞬ざわつく。
裁判官が木槌を叩いた。
「静粛に。弁護人。被告人が罪を認めているにも関わらず、なぜ、無罪を主張するのか。理由を述べてください」
「はい。被告人は、確かに罪状通りの事をしました。しかし、彼は罰を受けるべき人物ではない………そのことを、この後の証人尋問で知ってほしいです。裁判員の皆さん。彼は、無罪です」
弁護士は裁判員に向かってそう言い放つと、静かに弁護席へと戻った。
「では検察官。今回の被告人の罪の立証を述べてください」
「はい」
検察官が答えた。
「まず一つに、被告人自身の自白があります。自分は奴隷を買った、と、自白をしたのです」
「被告人。間違いありませんね?」
裁判官がボッティに事実を確認した。
ボッティが頷く。
「はい。間違いありません」
次に、検察官は手袋をして一冊の冊子を取り出した。
「こちらは、その自白を裏付ける証拠です。この冊子は、奴隷を金銭で取引をした記録が大量に残っています。驚くことに、これを所持していたのはこの街の元市長の息子、ルー・ヴェルディでした」
法廷がざわめいた。
裁判官が木槌を鳴らす。
「ちなみに、この冊子はルー・ヴェルディの裁判でも証拠として扱われました。既に明らかになっていますが、ここには被告人の自白を裏付ける名前が載っていました」
検察官はある一ページを開いた。
そこには、はっきりとボッティ・カルザと書かれている。
「これは、あなたの名前ですね。被告人」
「間違いありません」
「そして……注目すべきはボッティ・カルザが買ったとされる奴隷の目録………」
検察官が裁判員に向き合う。
「キャバリアの少女、5歳、と書かれています。被害者の年齢は16歳。11年前の情報なので、年齢は一致。そして犬種もぴったり一致している。この少女は被害者であると考えられます」
証人として待機していたキャバリアの少女が、それを聞いてピクリと震えた。
「その冊子に載っている情報が真実だという証拠はありますか?」
「はい。証人がいます」
検察官は台から飛び降りると、警備員に耳打ちをした。
「証人を今から連れてくるので、少々お待ちください」
「今から、ですか? なぜ先に連れてきていないのですか?」
検察官が台によじ登って言った。
「実は、被害者のそちらの少女が、精神的な傷を負っているのです。証人に対して。なるべく長く会いたくない、という、被害者からの要請です」
「なるほど………」
しばらくすると、どこかに行っていた警備員が戻ってきた。
1人の男を連れて。
「証人。前へ」
検察官がそう言うと、男が証言台に立った。
「証人。名前と年齢。職業を」
「はい。クゼイ・パヒュルス、62歳。只今服役中です」
クゼイは、ボッティがニュースで見たときよりも更に痩せていた。
クゼイは寒くもないのに手をすりあわせていた。
その時、何かが倒れる音が裁判所に響いた。
「わうう、わうっ、うう、くーん、ぐるるるっ」
音がした方を見ると、獣のような声を発しながら、被害者である少女が両手で耳を塞いだまま、手足を痙攣させ、床に倒れ込んでいた。
「ラキャ!」
ボッティが弾かれたように飛び出し、ラキャを抱き上げる。
「どうされました!? 被告人!」
裁判官がいきなり倒れた被害者に動揺し、声を上げた。
「わうう、ふっ、ううううう」
「ラキャ。俺だ。よく見ろ」
「ふーっ、わううう……がう…………わ…はあ……はあ、お父さん………ふう………」
どうやら正気を取り戻したらしい少女が、ゆっくりと息を落ち着かせていく。
傍聴席はざわめきを隠せない。
裁判員達も目の前で起こった出来事に戸惑っているようだ。
被告人が被害者を抱き上げた。
そして、被害者が被告人を「お父さん」と呼んだ事に。
しかも、今確かに尋常ではない声を上げていた被害者が、被告人が駆け寄っただけで正気に戻ったのだ。
「い、一時休廷にします。医療班、被害者の介抱を!」
裁判官がそう叫び、法廷は一旦休憩となった。
割と逆転の影響を受けてますが、あしからず。
感想ください。




