第二話 ただ酔い来る、サキュバスの淫煙
ボッティの犬種を間違えたので、修正しました。
ボクサー犬→ドーベルマン
なお、ボッティの身長は2.1m程です。
しばらく歩くと、2人は路地裏を出た。
薄暗い路地裏を出たはずなのに、なおスラムの街の中は暗かった。
汚染された空気、舞い上がる砂埃、飛び交うハエ達。
この場に在るもの全てが、ここの貧しさを物語っていた。
「そいやボッティ」
「なんだ?」
カッレーが何かを思い出したようにボッティに話しかけた。
「助けてもらったお礼をしたいと思うっす」
「礼? 別にいい。俺はただそう言う性格なだけだ」
「いやー、助かったんすっからちゃんとさせて欲しいっす。ちょっと待つっす」
カッレーはそう言うと傍らのカバンを開けた。
中にはパソコンの他に、腕時計や写真などが入っていた。
カッレーはその中から携帯を取り出すと、電話番号を押し、どこかにかけた。
「しょっしー。あ、しょっしー。旦那に代わってくれる? ……しょっしー、旦那。俺っす俺。いやー、ちょっと北のスラムまで迎えに来てくれるっすかね。あ、そう言う事っす。で、ちょっとお客さんがいるっすが………あ、分かったっす。じゃ、あじゃらっさー」
カッレーはそう言い、電話を切った。
「どうしたんだ?」
「ちょっと知り合いに迎えに来てもらうっす。その時に、あんたも一緒に超都市に来て欲しいっす」
「超都市って………ウナにか?」
「そっす。あー……ちょっと身なりは整えた方がいいっすけどね」
「俺は別に構わないが………まあ、一緒に行こう」
「じゃあ決まりっすね」
ボッティがそう答えると、カッレーは満足そうに頷いた。
「あら、ボッティ。その男はあんたの連れかい? あんたとうとうホモに目覚めたのかい?」
その時、どこからか茶化すような声が聞こえてきた。
「全然違う。なんか用か? リリナ」
リリナと呼ばれた女性は、壁に寄りかかり、腕を組んでいた。
本来は黄金の毛を持つ犬種のリリナだが、スラムの空気に当てられ、その毛は茶色くくすんでいた。
「フッ。そっちの男に用があるのさ。せっかくいい男なのにねえ。あたしが食ってもいいか?」
「え?」
リリナはタバコを摘み、カッレーに近づき、顎をくいと上げさせた。
「ちょっ………」
「フーッ。やっぱり、可愛いじゃないの。割と童顔だねえ。どうだい。あたしと一夜を過ごす気はないか?」
リリナがそう言いながら舌なめずりをした。
甘い香りを孕んだ煙がカッレーの顔に吹きかけられる。
しかし、言い寄られたカッレーは顎に当てられた手を振り払った。
「お、お断りするっす!」
「そいつに手を出すな。今俺が救ったばっかだ」
「ちぇっ。つまんないね」
リリナはボッティに向き直ると、タバコを咥え直した。
「ところでボッティ。まだあんたはあたしを抱く気にならないのかね? ほれほれ。ラブラドールがラブドールになってあげるって言ってるんだよ?」
リリナが細い目をし、自分の襟を前に引っ張る。
見えそうで見えない絶妙なバランスでボッティを誘惑する。
ボッティはその魅惑的な谷間に目もくれず、面倒そうにため息をついた。
「何度も言ってるが、俺はお前を抱く気は無い。分かってるだろ?」
「ふん。あんたもつくづくつまんないね。女に関心が無いなんて、男としてどうなんだ」
リリナはやれやれと言うように首を振った。
「別に苦労はしてないがな」
「ふふっ。そんなんで人生楽しいんかね」
リリナは短くなったタバコを地面に落とし踏み潰すと、新しいタバコに火を点けた。
リリナが言ったように、ボッティは女に興味がない。
生まれつき、オスとしてメスに発情するという事が無いのだ。
「こ、この人は誰っすか?」
「ラブラドールのリリナだ。こいつに喰われると骨と皮以外残らないぞ。気をつけろ」
「はぁーい♡ 鬱憤が溜まったらいつでも相手してあげるわよ」
リリナはカッレーに手を振った。
「結構っす。……あ、ボッティ。迎えが来たっす」
3人がキキキッ、と言う音がした方を見ると、スラム街に似合わない黒塗りの高級車が街の中央に停まった。
「あれか?」
「そうっす」
スラムの住人の注目が黒塗りの高級車に集まる。
すると高級車の扉が開き、中から白いスーツに身を包み、汚らしく太ったコーギーの男とガタイのいい黒服のブルドックが出てきた。
「はあ、なんで私が3Kが揃いに揃った場所に来なきゃダメなんでしょうか……」
コーギーの男はそう言い、自分の顎を撫でた。