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第十四話 開いた傷と再会の一杯

遅れますた。

 周りから金属のぶつかり合う音や、ドライバーの音が響いてくる。

 ボッティは仕事場で、現場監督の男と話していた。

 社長としての現場確認だ。


「……………なるほどな。作業は順調。このペースなら、予定通りに完成するな」


 ボッティがそう言い、電子パッドにメールを打ち込んでいく。

 今作っているのは100階建ての超高層ビルだ。

 このビルが完成すれば、フィールドから入ってきた住民を更に受け入れることができる。

 通り過ぎた作業員が持っていた基材が、ボッティの肩にぶつかった。


「あ、ごめんなさい」

「大丈夫だ。で、このビルは確か免震だったな。あっちのビルと…………しまった」


 ボッティが顔をしかめ、途中で言葉を切った。


「社長、どうかしましたか?」


 現場監督が話しかける。

 その作業員の目線は、ボッティの肩に止まった。


「しゃしゃ、社長!?」

「傷が開いたか…………」


 ボッティの作業服の肩の部分に、赤い染みができていた。

 基材がぶつかった衝撃で、閉じかけていた傷が開いたようだ。

 先日、ラキャがボッティを噛んだ所は、二カ所とも家で適切な処理をした。

 決して浅くはない傷だが、病院に行くわけには行かない。

 ラキャがボッティを噛んだ理由が、()()()()()()()()()で、クゼイが逮捕されたニュースを見てトラウマを呼び起こしてしまったからだ。

 ラキャが奴隷出会ったことは、ばれてはいけない。

 もしばれたなら、絶対に、今まで通りの生活は出来ないだろう。


「す、すぐにさっきの作業員を呼び寄せて来ます!」


 現場監督が慌てて言う。


「いや、いい。浅い傷だ」

「いいわけ無いじゃないですか! 救護班! 救護はーん!」


 その日は大騒ぎになり、ボッティは強制的に作業を中止させられた。






「本当に、ごめんなさい!」


 先ほどボッティの肩に基材を当てた茶色い巻き毛の作業員(プードル)が頭を下げた。

 ボッティは救護班のマルチーズのおばちゃんに肩と腕に新しい包帯を巻いてもらってるところだ。


「気にするな。たまたま基材が当たった所が怪我をしていた所だった、というだけだ」

「はい………………」


 作業員が頭を下げたまま言った。


「はい。これでおしまい」


 おばちゃんが包帯を巻き終えて、医療箱を閉じた。


「やれやれまったく。どうやったら大企業の社長が噛み跡を秘密にしたまま仕事をしてるかね。しかも二箇所」

「………オバちゃん、すまない」


 おばちゃんが呆れたように肩をすくめた。


「この傷について、詳しくは言えない。他の奴に知られて変に掘られるのも嫌だしな。口外無用で頼む」


 救護室にいるのはボッティの肩に基材を当てた作業員と、救護のおばちゃん。

 それとボッティの3人だけだ。

 他にもボッティが血を流したことを知っているドーギニアはいるが、ボッティの肩の噛み跡の事を知っているにはこの3人だけだ。


「はいはい。分かったよ」

「あ、あの………もし破ったら?」


 作業員が恐る恐る手を挙げて言った。


「残念ながらクビだ。オバちゃんも、おしゃべりだからな」

「はい………」

「あたしゃ言うなと言われたことは言わんよ。じゃ、気をつけて仕事するんだよ。社長さん」


 おばちゃんがボッティに念を入れて言った。


「ああ。わかってるよオバちゃん」


 ボッティはおばちゃんに一礼をし、作業員を連れ、救護室を出た。






 その夜。


「おごりですか?」

「ああ。口止め料も兼ねてだ」


 ボッティと作業員は並んで夜のウナを歩いていた。

 光る垂れ幕を持った宣伝ドローンが飛び交っている。

 作業員は、名前をテムズといった。


「それで、その肩の」

「…………」

「ごめんなさい」


 早速約束を破ろうとした作業員は、ボッティに睨みつけられた。


「レビューが良かった店だからな。俺も行った事はない。ビル群の裏路地にある珍しい店らしい」


 ボッティがスマホをスワイプさせながら言った。


「行った事無いんですか」

「ああ。俺はあまり居酒屋は行かないからな。飲むとしたら家でだ」

「へえ。こだわりがあるんですか」

「いや、特に」


 ボッティはスマホを閉じ、ポケットにしまった。

 そして、少し笑みをこぼしながら言った。


「娘が待っているんだ。あいつには母親がいないからな。なるべく早く帰らないと、寂しがられる」


 なんかさらっと重い話をされた気がする、とテムズは思った。


「お嬢さんですか。何才くらいですか?」

「確か……今年で16になった」

「へえ、16……16!?」


 話の流れから完全に幼児か小学生かと思っていたテムズは驚いた。


「ああ。もう高校生だ」

「そ、そうですか」

「ああ………」


 その時、一瞬、ボッティの顔に影が入った。


「ああ、そこの路地に入るようだ」


 ボッティとテムズがビルとビルの隙間に入ると、明るく賑やかな街から、空間に切り替わったように静かになった。


「あそこに灯りが見えるな。あそこが居酒屋か」

「穴場ですね」

「穴場だな」


 店はビルに埋め込まれているような形であった。

 暗い路地裏の中でそこだけがオレンジ色に煌々と光っていた。

 どうやら、マンションの一室の裏口を改装したような構造のようだ。

 入り口の立て看板には、居酒屋ローデュムと書かれている。

 ボッティはのれんを手で避け、中に入った。


「いらっしゃい! どうぞお座りくだしあ!」

「………?」


 ボッティとテムズをカウンターで出迎えたのは、綺麗な毛並みをした小さなラブラドールの少年だった。

 よく見れば、カウンターの内側に足台が並べられている。


「お座りくだしあ!」

「あ、ああ」


 ボッティとテムズは言われるがままに席に座った。

 カウンターでおしぼりを用意している少年を見ながら、テムズが耳打ちをした。


「こんなに小さな子が経営してるんですかね?」

「いや、どうだろうか………聞いてみるか。えーっと。ちょっといいか?」

「はい! おしぼりをどうぞ! ご注文でしあ?」


 少年はホッカホカのおしぼりを2人の前に置き、聞いた。


「ああ、ありがとう。すこし聞きたい事があるんだが………」

「なんでしあ? ぼくが答えれる範囲でならいくらでも答えられましあ!」

「ここは、少年が経営してるのか?」


 ボッティがそう聞くと、ラブラドールの少年は首を振った。


「違うでしあ。ここはおとーさんが経営してるしあが、店番はみんなでローテーションなんでしあ」

「なるほどな。分かった。注文をしよう」

「ありがとうございましあ!」


 ボッティとテムズが注文をすると、少年は手際よく注文通りの物を並べた。

 ビール2つと生うに枝豆、焼き鳥と若鶏の唐揚げ、全てを手際よくこなしていた。


「まさか唐揚げも出来るとは…………味も一級だな」

「ありがとうございましあ! うちは味をめっちゃ頑張ってましあ!」

「美味しいですね」


 ボッティとテムズがしばらく食事を堪能していると、カウンターの後ろの扉が向こうに開いた。


「あ、おとうしあ」

「スワジ。そろそろビールが無くなりそうだからこ…………」


 そこから出てきたのはジャージを着た30代ほどの男だった。

 スワジと呼ばれた少年の父親のようだ。

 男の後ろは普通の家になっていた。

 やはり扉の先は住居になっているようだ。


 しかし、ボッティはそんなことには目は行かなかった。

 顔の周りには毛が生えておらず、頭と手に長い白い毛が生えたその男と、ボッティの目線は、バッチリと合っていた。


「お前………もしかして………」

「あんた………まさか………」


 ボッティが先にその男の名を呼んだ。


「カレーか?」

「カッレーだ」


 なぜか、ラキャをボッティに「プレゼント」したその男は、ビル群の路地裏で居酒屋を経営していた。







カッレー何しとんねん。

感想くだしあ。

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