第十一話 調味料の入った金魚鉢のある日々
リー…………リリリッリリリリリリリッッリリリリリリリジリリリリリッリリリリッッリリリリ…………
今日も、いつも通り壊れかけの目覚ましの音が響く。
私はゆっくりと起き上がり、ながーく伸びをした。
「んー…………ぷあ………おはよう私ー!」
そう起床一番の一声をあげ、目覚まし時計のスイッチを止める。
リリリリリッリッリリ……………リー……………
毎回この目覚ましはなんかこう………ゆっくりと息絶えてくみたいに止まる。
もう、お父さんも社長なんだから目覚ましくらい買い替えてくれれば良いのにー。
私は起き上がり、鏡の前で毛をとかした。
私は少し巻き毛気味なので、朝起きるとよく絡まってる。
10歳の誕生日に貰った櫛で、丁寧に丁寧に毛をほどいた。
ダイニングに行くと、すでに朝食が用意されていた。
お父さんが作ってくれた朝ご飯。
でも、ここにお父さんはいない。
朝早くから仕事なのだ。
「あー、忙しいからって娘とのコミュニケーションの時間もないなんてなー。朝ご飯も一緒に食べれないなー」
私は大きな声で言った。
返事はない。
私は朝食を食べ終わると、通学バックを持ち、玄関で靴を履いた。
「行ってきまーす。黒こしょうちゃん、白ごまちゃん」
玄関の金魚鉢の黒い金魚と白い金魚にそう言って、私は扉の鍵を閉めた。
ウナ市立リーガンハル高等学校二年、生徒会長、16歳。
ラキャ・カルザの朝が始まった。
「あー…………じゃあ、ここからB区まではこんな感じにする」
大きな手に握られた鉛筆がサラサラと線を引く。
無論、俺の手だ。
「では社長。人材はどういたしましょう」
俺は、わかっているだろ? という風に、その男を見て微笑んだ。
「わかりました。そう手配しておきます」
男が部屋から退出すると、俺は椅子を回し、広い窓から街を見回した。
「この街も、発展したな」
そう、独り言を呟く。
空には小型から大型までのドローンが飛び交い、空中バスがビル間を行き来する。
他の超都市との行き来もホバーによって簡単に出来るようになった。
まるで近未来ーー実際には今現在だがーーの街並みは、つい10年より超都市らしかった。
なにより変わったのは………
俺はフィールドに目を向けた。
そこには、立派な道と、いくつかの建設中の建物があった。
フィールドのスラムの人々のための小さな村だ。
あそこにはスラムと違い、通貨があり、市場があり、学校があり、警察署がある。
この計画の基盤は、俺が作った。
フィールドの人々への復興支援。
今まで誰も考えなかった事だ。
考えたとしても財力が無かっただけかもしれないが、財力がある奴はこんな事は考えない。
あそこは教育を受け、経済を学び、普通に生活をする事が出来る。
努力をすればするほど、金が手に入る。
そして、今まで通り、財産を持つ物は超都市に入ることが出来る……………が、あそこで一生を過ごそうという人々もいる程度には、しっかりと村が出来ている。
スラムの人々に最低限度幸せを提供し、経済を回してもらう事で、俺にも金が入る。
その金でまた村を広げ、経済を回させる。
金銭目的でない、と言えば嘘になるが、重点を置いてるのはスラムの人々の生活だ。
スラム出身の俺にとっても、あそこの生活は悪かったからな。
俺は椅子をもう半回転回し、机に向かった。
11年前、この会社に就職したころは、こんな事になるなんて、考えても無かった。
必死で就職先を探していたが、フィールド出身ということもあり、なかなか仕事が見つからなかった。
しかし、この会社は直ぐに内定を貰うことができた。
それから数年は現場で働いていた。
鉄骨を持ったり石材を運んだりしている内に、筋肉がついた。
握力は三桁だ。
社員の間では大入道社長と呼ばれているらしい。
大入道か。
懐かしいな。
かつて大入道と呼ばれていた頃より身長は更に伸び、今は232cmある。
身長232cmの筋肉隆々とあらば、大入道と呼ばれても、まあ仕方ないな。
色々あって、今はこの会社の社長だ。
ウナ市、建設会社ビルデストス(株)社長、40歳。
ボッティ・カルザの朝が始まった。
一気に11年ほど話が飛びました。
新章です。
というより本編です。
空白の11年は番外編で書きたい。
書けたらいいな。
感想ください。