第一話 綺麗な世界の外側に
懲りもせず新連載です。
「ちょ、ちょっとまつっす!」
壁際に追い詰められた男が、対峙する男達に向かって言った。
路地裏の行き止まり。
逃げ場はない。
「へっへっへ、誰が待つかよ! 身ぐるみおいてってもらうぜ」
「そのカバンも貰うぜ!」
「こ、このカバンに入っているパソコンだけは、パソコンだけは止めてくれっす!」
男はカバンを抱きかかえる手に力を入れた。
ここは法の行き届かぬスラムの街。
ここに来たことが、この男にとっては運の尽きだった。
「へえ、パソコンがあるのか! それも貰うぜ!」
「う……………」
男は男達に和解の意志が無いことを知り、地面にぺたりと尻をついた。
「野郎ども! 全部引っ剥がせ!」
「う、うわあああ!」
「待て!」
男達が襲いかかろうとしたその時、吼えるような怒声が響いた。
ビリビリと周囲の空気が振動する。
「く、大入道かよ…………めんどくせえ、ずらかるぞ!」
窮地に現れた大入道と言われた高身の男は、素肌に革ジャンというパンキーな格好をしており、両腕にはめられたトゲ尽きの腕輪は更にパンクさを際だたせていた。
その男は、ごろつきの男達が去っていったのを見届けると、腰が抜けている男に手を差し出した。
「大丈夫か?」
「お、おお。大丈夫っす」
カバンを持った男は大入道の手を取り立ち上がると、尻と尻尾についたほこりをはたいた。
チャラチャラと装飾が多い格好をしている。
ただチャラいように見える装飾のほとんどは、本物の宝石だ。
この格好ではスラム街の住人達に襲ってくれと言ってるようなものだ。
「いやー。助かった助かった。運はまだ俺の味方だった。パソが無事で良かった良かったっす」
「見たところ街の者だな。なんでこんなところに街の奴がいるんだ。ここは無法地帯だぞ? 男色家に食われたって知らないぞ」
「いるんすか」
男は尻尾を股の間にくるめた。
「まさかあんたじゃないっすよね」
「ん? 俺は違うぞ。警戒しなくて良い」
高身の男は首を振った。
「そうっすか」
「まあいい。俺がスラムの外まで案内してやるから、街に帰れ」
「わかたっす」
2人の男は並んで路地裏を歩き出した。
「背高いっすねー。だから大入道っすか」
「ああ。よく言われる」
高身の男は傍らの男の頭部を見下ろした。
「へー。ところで大入道さん」
「ボッティだ」
「へ?」
「俺の名前はボッティ。そう呼べ」
ボッティは腕を組み言った。
「ボッティっすか。俺はカッレーっす」
「そうか」
カッレーと名乗った男は、ボッティをじろじろと見た。
「あんた、ドーベルっすか?」
「ああ。よくわかったな」
「その高身でその模様っていったらドーベルしかないじゃないっすか」
ボッティは2メートルを越える高身長に、茶色地に黒いマスクのような柄をしている。
全身の毛も短い。
「そういうお前は?」
「俺はクレステッドっす。よく変な髪って言われるんっすよね」
カッレーは全身に長い毛が生えてるようで、実は服を着ている下は全て無毛だ。
肌の色は黒褐色なのに対し、手足と頭、そして尻尾の毛は白だ。
「クレステッドのカッレー。覚えておこう」
「ドーベルのボッティ。俺も覚えておくっす」
2人はにっこりと笑った。
1つ言い忘れていた。
この物語に人間は出てこない。
ここは犬が進化した犬人の星レサリス。
その星のあるスラム街に住む独りのドーベルマン、ボッティと血のつながらない娘の物語である。