朝の日課
「いや待って兄ちゃん!なんで病院行くのにガソリン持って行くのさ!」
「決まってる。焚火をするためだ!」
「絶対嘘だ!」
その笑顔を見たら信じられるもんか!
親父にぶっかける未来しか思い浮かばねぇ!
色々とずれている親父による様々な被害を受けている俺達兄弟だが、特に兄ちゃんが一番酷い。下着を隠したり、おかずを横から取ったり、隠していたエロ本のことを言いふらしたりと、子供のようないたずらを繰り返すんだ。
しかもこれらをスキンシップと親父は考えているらしい。俺達はその感覚の絶望的なずれに小学生の段階で見切りを付けていた。
「離せ、高明! 今しかないんだ!」
「こんなことで兄ちゃんが犯罪者になったら、俺達の肩身が更に狭くなるだけだろ!」
そして更に、親父の奇行が知れ渡っているご町内でも俺達の立場は微妙だ。親父の一番の被害者と同情されたり、変人の子供として嫌われたりなど、まだ高校生なのに気苦労が多い。
「けどな、それでもあのクソ親父がいなくなるのなら、犯罪者の汚名を被る価値があると思わんか?」
「あると思う。思うけど、実際になるとやっぱり後悔するって!」
一瞬心がかなり揺れたけど、ここで引き下がるわけにはいかない。
「だろ?! だから!」
「あんな親父のことを一生背負っていくのかよ?!」
俺が叫んだ瞬間、兄ちゃんの動きがぴたりと止まる。正に今気付いたという感じだった。
「それは、それで……いやだな」
「だろ?! だから止めてくれよ!」
俺の言葉がようやく届いたのか、兄ちゃんは携帯用ポリタンクを手から離し、その場に崩れ落ちる。
「うう、くそ。今なら手が届くのに」
「兄ちゃん、早く独り立ちしようぜ」
そう、働いてひとり暮らしができるようになったら、もう親父と一緒に生活して困ることもない。あ、遠くの大学に進学してもいいんだよな。この際どちらでもいいや。
「玄関先で何やってるの。ほらどいて。学校にいけないじゃない」
「すまん」
「あ、ごめん、里子」
絶望に打ちひしがれようとしていた俺と兄ちゃんの後ろから、末っ子の里子が制服姿でやって来た。
靴を履く邪魔になっていた俺達は脇へと寄る。
「まったく、毎日似たようなことしてて、よく飽きないわね。お兄ちゃん達も変人だって噂、みんな知っているんだからね」
「「がはっ?!」」
衝撃の事実に、俺は兄ちゃんと共に崩れ落ちる。
「ほら、朝ご飯作っておいたから、食べてさっさと学校へ行く! あ、食器は水につけておいてよ。あと戸締まりもしっかりとね」
靴を履きながら妹は俺達にいつもの言葉を投げかけると、「いってきます」という挨拶と共に出ていった。
残されたのは俺と兄ちゃんはしばらく黙る。
「朝飯、食うか」
「そうだな、兄ちゃん」
冷静になった俺達は立ち上がると、里子の作ってくれた朝ご飯食べに食卓へと向かった。