闇の連鎖 きららの場合
怨念と、忘れられたくないという気持ちが、友を闇にひきずり込むとしたら・・・
私のせいで鷺岡君が死んだ。
誰にだって、失敗はあるのに。私は、その1度の失敗で落ち込んでいる彼を慰めてあげるどころか、逆になじって、でぃすった。私に振られた彼は、その日電車に飛び込んで自殺した。私は、心無い最低の女だ。きっと彼は、私を恨んで死んだ。
「きららのせいじゃないよ。」 親友の菜摘だけは、私を庇ってくれる。でも、ユニフォーム姿の彼の遺影の前で、私の涙は止まることを知らなかった。そんな中、お焼香の順番が近づいていた時だった。私の前には、野球部の前のキャプテンだった萩尾さんがいた。その萩尾さんが、突然こっちを振り返って、私を睨み付けた。
「えっ?」 何?何?
「な訳ないよな。」と云って、又前を向いたので、とりあえずほっとしたけど、
「あの君は確か、鷺岡と付き合ってた2年の?」 お焼香や出棺が終わって、涙が止まらない私に、萩尾さんから話しかけて来た。みんながばらばらと帰り始めた市民ホールの駐車場。
「2年1組の火野坂です。」
「火野坂きららさん。」 下の名前までと、涙で腫らした目を丸くすると、
「ああ、鷺岡がいつもそう呼んでたから。」と云われ、納得したついでに、
「あの、お焼香の時、何かあったんですか?」 気になっていたので、訊いてみた。
「だよな。君がそんな悪戯する訳ないしな。」 何か、顔がまじだ。
「何もしてません。でも、何かあったんですか?」 こっちもまじ顔を努めた。涙は急に止まってしまっていた。
「実は、あの時誰かに後ろから両手で目隠しされたんだ。」 その時、前に鷺岡君から聞いたことある恐怖の噂を思い出した。それは、突然目隠しされて、ちゃんと相手を言い当てないと殺されるというものだったから、酷くぞっとした。
「まじですか? あの、あの時、私前見てましたけど、そんなことする人誰もいませんでした。」
「じゃあ、やっぱりあの噂は?」 萩尾さんも知ってるみたいだ。
「『だーれだ』って声したんですか?」
「初め、まじで鷺岡の霊かと思ったんだけど、声は女子だったんだ。そんで、それは『だーれ』で止まって、急に目を開けられたから。」 それでこっちを振り向いたのか。
「え、まじですか? それって、一体?」 誰なんだろう? 噂では目隠しで殺された人は、初めから居なかった人みたいに、生きてる人みんなから忘れられるらしい。 前に殺されて、記憶から消された、前にいた誰かなのか?
「その声に憶えなくて、勿論きららさんの声でもないって、はっきり分かったし。」 いや、まだ疑われてたのか? まあいいけど、それより、まじ怖い! 記憶から消えてるその誰かが、実は私のこと恨んでる人で、今度は私が襲われるかもしれないから。もしかしたら、その人は鷺岡君のことが好きで・・そう考えると怖くてたまらなくなった。
「あの、すみません。失礼します。」 萩尾さんと話してると恐怖が募りそうで限界だったんで、兎に角切り上げた。
「ねえ、菜摘はどう思う?」 その帰り道、歩きながら親友に訊いてみた。彼女は、萩尾さんとの会話を横で聞いていたんだ。
「不思議だね。でも、きららは気にしない方がいいよ。」 菜摘は、私のこと考えて、一生懸命言葉を選んで云ってくれてる様に思えた。でも、疑問はあった。
「ありがとう。でもどうして、そう云い切れるの?」
「だって、声の主は女子だったんでしょ。きっとその人が襲うとしたら、男子だよ。」 その中途半端な慰めは微妙だったけど、このまま暗い話ばかりしていても辛いので、その後は話題を変えて、とりあえず表向きには笑顔取り戻してから分かれた。けど、何かやっぱり気になった。正直次に私が襲われるという不安を払拭し切れないでいた。もし、次襲われたら、私は菜摘の記憶からも消えてしまうんだろうか?そんな不安で一杯になった。だから、菜摘にメールした。
「ねえ、云った通りしてくれた?」 彼女が来た途端念を押した。
「うん、ちゃんとしたよ。でも安心しなさい。私がきららのこと忘れることなんて有り得ないし、そもそも、きららのことは私がちゃんと守ってあげるから。」 その夜、私のわがままで、菜摘に泊まりに来てもらった。そうすれば、襲われることもないだろうし、仮に襲われても、菜摘が守ってくれる気がしたし、最悪私の家に来てる菜摘が私のことを忘れる訳はないと思った。けど、それは甘かったんだ。それも、2人で部屋で話している最中に、
「だーれだ?」って、聞き覚えのない女子の声と共に、後ろから両目を塞がれた。菜摘が目の前にいた時だ。
「菜摘、助けて!来たの!」 菜摘には見えてないかもしれないけど、きっと助けてくれる。
「残念ながら、菜摘には聞こえてないよ。」 そんで、必死に目の前にいるはずだった菜摘を手で探ったけど、いない! どこ行ったの?
「もう菜摘はここにはいないよ。」 その瞬間、殺される恐怖で一杯になった。
「あおい!」 身近に知ってる人の名前を云って刺殺されるのは嫌だったから、当てずっぽうな名前を叫んだ。
「違うよ。」 そう云うと、後ろからの手はずれて、左手だけで両目を塞いで来た。
「たまえ!」 一か八か、又叫んだ。
「違うったら。」 そう云いながら体を寄せて来られるのを感じた。
「さやか!」 もう恐怖で、必死だった。
「あらあら。」 次に空いた右腕を私の首に巻き付けて来た。
「ちずる!」 絞殺されるのも嫌だ!
「駄目だねえ。」 ついに、その腕で首を圧迫して来た。その力は強くて、必死で抵抗しても解けない。もう息苦しさが増して来て、恐怖が絶頂に達して来て、
「一体誰なの!?」 必死で叫んだ。
「だから、それを当てるのがあんだだよ。」 もう、一体!
「くみ! ひかる! かおり! まこ! りさ!・・・」 声が続く限り必死で叫ぼうとした。
「当てずっぽうじゃ、当たらないよ。」 ぐいぐい絞められて、苦しくて、気が遠くなる・・・
やがて、真っ暗な世界に引き込まれた。
これは、フィクションです。次回で、最終話とします。ありがとうございました。<m(__)m>