死の噂 絵里香の場合
これは、フィクションのホラー作品です
「絵里香、遅かったね。」 寝坊したせいで、教室に着いた時には既に朝のホームルームが終わっていたんだ。担任の柴本はもう教室を出て行った後で、クラスは妙にざわついていた中、友達の菜摘が声をかけて来た。
「昨日さあ、帰りの電車が人身事故で遅れてさあ、家帰るの超遅くなって、そんで英語の宿題やってたら、寝るの遅くなって、まじで迷惑だよねえ。」 単純に前日のだるい出来事をまくしたてたのだけど、菜摘の表情が、私のぼやきを聞くにしては、やけにまじだった。それもそのはず、
「その人身事故って、鷺岡君だったんだよ。」 衝撃が走った。鷺岡は隣のクラスだけど、同じ隣の1組にいる友達のきららの彼氏で、私にとっても1年の時のクラスメートで、気楽に喋れる軽い友達みたいな奴だったんだ。
「え、嘘! そんで鷺岡は?」 菜摘に思わず掴みかかる様に訊いた。
「即死だったんだって。」 私を直視して答えた後、菜摘は視線を下に落とした。その肩を掴んでいた私の手の力が抜けた。
「野球部の練習はどしたの?」 帰宅部の私が下校する頃は、グラウンドにいたはずでは?
「昨日さあ、絵里香が帰った後、きららと一緒だったんだ。」 そう云えば、菜摘ときららは家が同じ方向だ。それぞれ文科系の部に入ってるけど、どっちもあまり活動してないみたいだけど、普段きららはよく野球部の練習を見てると聞いてた。
「2人に何かあったの?」 鷺岡のエラーで試合に負けてから、ぎくしゃくしてるとは聞いていた。
「昨日別れたんだって。そしたら、鷺岡君急に元気なくなって、午後早退したんだって。そんで自分ちの駅で降りた後、特急列車に飛び込んだらしいんだ。」 そう云えば、きららはもう彼のことがうざいとぼやいていた。
「で、きららは何て?」
「もう、鷺岡君がうじうじしてるのが耐えられないって。」 そりゃ、勝ってた試合だったからなあ。
「じゃなくって、死んだこと聞いてさ。」
「新聞には男子高校生ってだけで、名前出てなかったみたい。今朝もきららと会った時は知らなかったみたいで、私もさっきのホームルームで聞いたばかりなんだ。」 じゃあ、きららも今頃は?
そのきららと会ったのは、1時間目が終わってからの休憩時間だった。
「何も死ななくっても。」 菜摘と2人で出た廊下で、きららに会うなり私が云うと、
「私のせいだ。」と、きららが泣き喚いた。
「そうだよねえ。普通彼氏が失意で落ち込んでたら、励ましてやんのが彼女ってもんなのにさ。」 それどころか、うざいって突き放すとは。それとは逆に、
「きららのせいじゃない。きららのせいなんかじゃないよ。」 菜摘が慰めて肩撫でていた。いやいや、そうとは云い切れんだろ?と、私は冷ややかにそれを見ていた。
きららは、結局泣き止まないまま、2時間目のベルに急かされて、私達はそれぞれの教室に分かれた。
きららは、2時間目の途中で気分がすぐれないと保健室に行き、そのまま早退したらしい。
「きららね、絵里香に云われたこと気にしてるんだよ。」 きららの帰り支度をしてやって見送った後保健室から戻って来た菜摘が云った。友達とはいえ、クラス違うのに面倒見がいいことで。
「私何も云ってないじゃん。ただ萩尾先輩も、一生懸命自分の後のこと応援してるのに、1度のミスだけで見放すなんて、有り得ないって思っただけ。」 萩尾先輩は、鷺岡のエラーで負けた時のキャプテンで、かっこいい素敵な人だ。
「それが、きららに対する言葉に出たんじゃないかな。鷺岡君のことは可哀想だけど、きららにはこれからがあるんだから、背負わせたら駄目だよ。」
「菜摘は優しいね。」 けど、きららのことは何かうざくなった。
ーーー そして、その日の放課後 ---
校門出るまでに萩尾先輩に会えるかもと期待しながら、教室を出ようとした時、ふと誰かに呼ばれた気がした。教室の中にはまだ10人以上は残っていたので、誰?と思って、声がした気がした自分の机の方へ戻って、周りを見回して見た。でも、誰もそれらしき人はいなくて、ただ隣の空いている席が妙に気になった。そして、次の瞬間、後ろから両手で目を塞がれた。私は、ぞっとした。何故なら、ネットの都市伝説で、それに心辺りのある噂を知っていたからだ。それは、『だーれだ?』と目を塞がれて、身近な人の名前を云うと刺殺され、何も云えなかったりいい加減な名前を云ったら絞殺されるというものだ。そして、それで殺された人は何故か、初めから居なかった人の様に生きてる全ての人から忘れられるらしいという。私はそれを馬鹿馬鹿しい噂と思いつつも、話のネタで、いちゃついていた頃のきららと鷺岡に云ったことがあった。更に、菜摘にも云ったことがある気がする。
「だーれだ?」 女子の声だ。きららは早退していないはずだし、菜摘は先に教室を出て行ってた。あの噂を知ってるのは、他にもいるのか?それとも?
「菜摘、冗談は止めよ。」 恐る恐る云ってみた。すると、
「残念、はずれだよ。」という声と同時にさっと右目が開けられた。 そこでさっと右側から後ろを振り返ろうとした瞬間、背中を刺された。そうはっきり痛みを感じたんだ。
「誰か助けて!」 周りにはまだ10人以上のクラスメートがいるはず。実際、開いた右目には、数人の男女が映ったのに、みんな何事も無い様に、それぞれ喋っていたり、帰り支度とかをしていた。
「残念だね。誰にも聞こえないよ。」 その声と共に、今度は一気に何か所か滅多刺しにされた。必死で振り返った目に映った女子は、見覚えのない奴だ。突然訪れた絶望感の中、私は出血のショックで床に崩れ落ちた。もう塞がれていないのに、真っ暗になって、薄れ逝く意識の中で、頬に流れて来た血を感じた・・・
ありがとうございます。前回全10話くらいと申しましたが、後2話か3話で終わると、訂正いたします。<m(__)m>