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バケモノ×ケンゲキ  作者: 伏見 七尾
弐.瘴気漂う大東京
8/89

その五.揺るがす牛頭

 その後二人は二手に分かれ、最上階から順々に化物を探した。しかし六階から四階までは特に異常もなく、ネズミ以外に動く物の姿はなかった。

 そして――今は三階。


「……さて」


 絶句兼若の柄に手をかけ、吹雪は歩き出す。

 三回はかつては飲食店が集まっていたようで、床には食器などの破片が散乱している。どうやらこの近辺で出火したらしく、あちこちが黒く煤けていた。

 他の階と同じくここ階も静かで、犬の声がかすかに聞こえるだけだった。


「野良犬でもいるんでしょうか……?」


 破片を踏みつつ、吹雪は出火場所と思わしき洋食屋の跡地へと向かう。

 扉を開けると、錆び付いた蝶番がやかましい音を立てた。

 内部には椅子や机もなく、がらんとしている。煙が充満したのか、壁や天井は他の区画よりもさらに黒く染まっていた。

 洋食屋跡地の中央に立ち、吹雪は辺りを見回した。

 左手にはカウンターがあり、奥には厨房へと続くと思わしき鉄製のドアがある。

 ドアは半ばほど開いていた。しかしその向こう側は暗く、この場所からは厨房内部の様子を知ることは出来ない。

 吹雪は眼を細め、ドアを見つめた。

 そして絶句兼若の柄をそっとなぞりつつ、ドアに向かって一歩踏み出す。

 直後。そのドアが内側から吹き飛んだ。


「ッ――!」


 とっさに横に一歩移動。

 高速で飛来した鉄の塊は吹雪の白髪を乱し、背後の壁に激突する。


 ――ぎぃいいいいいいん!


 甲高い何かの叫びが耳朶を打つ。その正体を掴む間もなく、厨房の暗闇から今度は拳ほどもあるコンクリートの塊が飛んできた。

 吹雪は眉一つ動かさず抜刀。白刃が閃き、コンクリ塊を粉砕する。


 ――ぶぉおおおおおおん!


 しかし直後、厨房の奥から巨大な影が飛びだしてきた。それはカウンターを破壊しながら現れ、吹雪めがけて飛びかかる。


「あら」


 吹雪はやや驚きつつ後退。

 一瞬遅れ、それまで吹雪がいた場所に大穴が穿たれた。

 その化物は、胴体だけ見れば類人猿の類いに似ていた。その体格は堂々たるもので、南国に住む大猩々という生物を思い起こさせる。

 地面にめり込んだ拳をゆっくりと引き、化物が吹雪を見た。

 その顔は牛に似ている。赤い瞳がせわしなく動き、冠の如き角が天井をがりがりと削る。


「……牛頭ごず、ですね」


 それは怪力を特徴とする化物の一種だ。

 眉を寄せる吹雪に対し、牛頭はぼぉお……と低い声を漏らした。巨大なその手が俊敏に動き、床に散らばっていた破片を一瞬でかき集める。

 吹雪は反射的に地を蹴った。

 牛頭が破壊したカウンターの残骸。その影に回り込み、頭を抱える。

 直後、牛頭は破片を投げ打った。それは即席の弾幕となって一気に空間内に広がり、壁や天井を蜂の巣状に穴を穿つ。

 カウンターの残骸にも無数の破片が叩き込まれ、吹雪の背中にまで振動が伝わってくる。


「力押しの相手はちょっと苦手なんですよね……」


 吹雪はやや顔をしかめつつ、残骸の影から転がり出た。

 それまで吹雪が隠れていた場所が吹き飛ぶ。突進してきた牛頭はすぐさま方向転換し、吹雪めがけて掬い上げるようにして右腕を振るった。

 その一撃を回避。牛頭の腕が完全に振り上がり、その右脇腹が吹雪の眼前に晒される。

 その隙を逃さず、吹雪は前進――。

 突如、轟音とともに洋食屋跡地の入り口が吹き飛んだ。

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