その九.抑圧の石炭袋
「え?」
想像だにしていなかった言葉に吹雪は戸惑う。
霖哉はしきりに顎を撫でつつ、ひどく言い辛そうに言葉を紡いだ。
「なんというか……誰かの助力を借りることを極力避けたいと考えているというか……なんだか、自分よりも人のことを優先しているような」
「……そうですか? 一応、座右の銘は『人に迷惑を掛けない』ではありますが」
「ふぅん……」
霖哉は眉を寄せ、しばらく考え込んだ。
「……もしかして、おまえの兄貴って結構わがままな奴だったりしないか」
「え、えぇ。傍若無人を形にしたような人間ではありますが。それが何か?」
「なるほど。まぁ、それだけが原因ではないだろうが」
どこか納得したように霖哉は深くうなずいた。
一方の吹雪は唐突な質問の意図が理解できず、首をかしげることしかできない。
「……あくまで感覚の話だが、おまえはなんだか窮屈そうに見える」
「窮屈……?」
「あぁ……まだおれとお前はそれほど長い期間過ごしたわけじゃない。それでも、時々そんな状態で苦しくないのかと思う」
「そんなに苦しそうに見えますか? 何故でしょう……」
吹雪は唇に指を当てて考え込む。
そんな吹雪に対し、霖哉はゆるゆると首を横に振った。
「考えても無駄だ……多分、自分じゃ意識できていない。あまりにもその窮屈な環境に慣れすぎて、当たり前のものとしか考えられない」
「え、えぇ。さっぱり思い当たりません」
吹雪はぎこちなくうなずいた。
故郷にいたときが窮屈だったのか、あるいは紅梅社中で働いている今が窮屈なのか――まったくそんなことはない。
霖哉はどこか上の空の様子でグラスを揺らした。氷がカラカラと音を立てる。
「……さらにおまえの場合は、おまえ自身がその窮屈さを作り出している気がする」
「私自身が?」
「あぁ……まるで自分で自分を絞め上げているような」
「――っ」
自分で自分の首を絞める――夜中に見た夢が鮮やかに脳裏に蘇った。
吹雪は一瞬大きく目を見開き、そしてゆっくりとうつむく。
霖哉は氷をかき混ぜ、肩をすくめる。
「全ておれの想像の話だ。あまり気にしなくていい」
「……例えばもし、本当に私が自分で自分を絞め上げているとして」
「ん?」
霖哉は首をかしげた。
吹雪はややうつむいた状態のまま、ちらと彼の顔を見上げた。
「どうすればいいと、思いますか?」
「――っ」
一瞬、虚を突かれたように霖哉が息を呑んだ。
何にも興味を持っていないように見えて、その実あらゆる物を見ている。そんな鋭い眼を持った彼ならば、その答えを知っているのではないかと思った。
そんな吹雪の期待をよそに、霖哉の顔は元のけだるげな無表情に戻る。
肩をすくめて、彼はグラスの中の氷を摘まみ上げた。
「どうすればいいんだろうな」
「あら……貴方なら、てっきり知っているものだとばかり」
「おれは愚鈍だ。それに」
霖哉は氷を口に放り込み、がりりと噛み砕いた。
「……おれも抑圧の中にいることには変わりない」




