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バケモノ×ケンゲキ  作者: 伏見 七尾
参.犬神欠点
22/89

その九.抑圧の石炭袋

「え?」


 想像だにしていなかった言葉に吹雪は戸惑う。

 霖哉はしきりに顎を撫でつつ、ひどく言い辛そうに言葉を紡いだ。


「なんというか……誰かの助力を借りることを極力避けたいと考えているというか……なんだか、自分よりも人のことを優先しているような」

「……そうですか? 一応、座右の銘は『人に迷惑を掛けない』ではありますが」

「ふぅん……」


 霖哉は眉を寄せ、しばらく考え込んだ。


「……もしかして、おまえの兄貴って結構わがままな奴だったりしないか」

「え、えぇ。傍若無人を形にしたような人間ではありますが。それが何か?」

「なるほど。まぁ、それだけが原因ではないだろうが」


 どこか納得したように霖哉は深くうなずいた。

 一方の吹雪は唐突な質問の意図が理解できず、首をかしげることしかできない。


「……あくまで感覚の話だが、おまえはなんだか窮屈そうに見える」

「窮屈……?」

「あぁ……まだおれとお前はそれほど長い期間過ごしたわけじゃない。それでも、時々そんな状態で苦しくないのかと思う」

「そんなに苦しそうに見えますか? 何故でしょう……」


 吹雪は唇に指を当てて考え込む。

 そんな吹雪に対し、霖哉はゆるゆると首を横に振った。


「考えても無駄だ……多分、自分じゃ意識できていない。あまりにもその窮屈な環境に慣れすぎて、当たり前のものとしか考えられない」

「え、えぇ。さっぱり思い当たりません」


 吹雪はぎこちなくうなずいた。

 故郷にいたときが窮屈だったのか、あるいは紅梅社中で働いている今が窮屈なのか――まったくそんなことはない。

 霖哉はどこか上の空の様子でグラスを揺らした。氷がカラカラと音を立てる。


「……さらにおまえの場合は、おまえ自身がその窮屈さを作り出している気がする」

「私自身が?」

「あぁ……まるで自分で自分を絞め上げているような」

「――っ」


 自分で自分の首を絞める――夜中に見た夢が鮮やかに脳裏に蘇った。

 吹雪は一瞬大きく目を見開き、そしてゆっくりとうつむく。

 霖哉は氷をかき混ぜ、肩をすくめる。


「全ておれの想像の話だ。あまり気にしなくていい」

「……例えばもし、本当に私が自分で自分を絞め上げているとして」

「ん?」


 霖哉は首をかしげた。

 吹雪はややうつむいた状態のまま、ちらと彼の顔を見上げた。


「どうすればいいと、思いますか?」

「――っ」


 一瞬、虚を突かれたように霖哉が息を呑んだ。

 何にも興味を持っていないように見えて、その実あらゆる物を見ている。そんな鋭い眼を持った彼ならば、その答えを知っているのではないかと思った。

 そんな吹雪の期待をよそに、霖哉の顔は元のけだるげな無表情に戻る。

 肩をすくめて、彼はグラスの中の氷を摘まみ上げた。


「どうすればいいんだろうな」

「あら……貴方なら、てっきり知っているものだとばかり」

「おれは愚鈍だ。それに」


 霖哉は氷を口に放り込み、がりりと噛み砕いた。


「……おれも抑圧の中にいることには変わりない」

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