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鬼影  作者: 森風 しゅん
8/16

8.アヤカシ来たりて。

 それは確かな違和感。

 ずしりと纏わり付くような重い気配。気管を直接締め付けられるような息苦しさが、自分の身体が緊張していることを伝える。


 久人は懐中電灯を握り締めて、彼女、椿の足元を照らす。昼に感じた違和は、今はない。

 次いで天井や壁際の暗がりがうずくまる角にライトを走らせる。──いない。


「ひ、久人……?」


 突然ちょろちょろと光を動かす久人に、友人が当惑しきった顔を向ける。

 クラスメイト達も青ざめた顔で久人を見上げてきた。


「お、おい藤村、なにしてんだよ……?」

「さっきの、まだいるわけ……?」

「……」


 迂闊なことは言えない。どうやら彼らは、なにも感じていないようだから。

 久人ひとりの思い違いならいい。

 だが。


「なにしてるのよ。早く出て行きなさいって言ってるでしょ?」


 苛々と椿が脚を鳴らす。

 彼女は──気付いている。


 久人が口を開こうとした途端、風を切る、感覚がした。

 そして同時に、けたたましい音を立てて窓ガラスが1枚、粉々に砕けた。


「きゃあぁああっ!!」

「う、嘘だろ?! マジで?!」


 砕けた破片は、けれど久人達を襲わない。外側にほとんどが散ったようだ。つまり。


(逃げた……もしくは、足場にした)


 心臓が早鐘のように脈打つ。どうしたらいい。危険だと、判っているのに身体が動かない。

 クラスメイト達は、床にへたり込んですらいる。


 相手が人間であろうとお化けであろうと、既に関係ない。

 恐怖を抱いた時点でお化けは存在し、そして現実に窓ガラスは割れた。

 強風の所為にするには、今夜の天気は穏やか過ぎる。


「派手にやってくれるわね……」


 椿が呟くのが聞こえた。

 咄嗟に彼女の方を見ると、目が合った──気が、した。

 彼女は長い髪に弧を描かせると、「シャクヤ」と呪文のような言葉を紡いで、とん、と床を一度踏み付けた。


 空気が、更に密度を増したような心地がする。

 けれどその中で、椿の動きだけが軽くて鋭い。


「そんなとこで寝るくらいなら、さっさと帰りなさい!」


 彼女の叱咤に、呪縛が解ける。我に返った彼らは、転がるようにして廊下を駆け出した。

 そしてそれは久人も同じで。


 久人は気付けば、彼女の細い二の腕を掴んでいた。

 窓から差し込んだ月明かりに、椿がさっきの友人ととてもよく似た表情をするのが判った。


「な、なにするのよ。放して。あんたもさっさと帰りなさい、邪魔よ」

「君も、だ」


 初めて真っ直ぐに彼女の目を見た気がする。


「あ──あたしはいいのよ」

「たぶん、危ない」

「っ、判ってる! あたしはッ──!」


「ッ?!」


 彼女が何かを叫ぼうとしたそのとき、久人の背後の窓が再び割れた。

 今度は大量の破片が、背中に当たるのを感じた。


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