表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼影  作者: 森風 しゅん
2/16

2.少年は少女に邂逅す。

リレー初期。この頃はまだ一話が短かった(遠い目)

 

 彼女は、有名だった。


 人形のような整い過ぎたその容貌で。

 常に学年でもトップクラスのその成績で。

 幼い頃からの武勇伝──もとい、その凶暴さで。

 そして、一切の妥協をもすることなき、その高慢さで。


 校内で彼女の名を聞かない日は、ほとんどないと言っても過言ではない。

 だが、だからと言って、全校生徒が彼女に興味があるのかと言ったら、そうではない。その代表格が、久人だった。


 彼女ばかりではない。

 久人は基本的に、誰にも興味はない。

 寺の息子として生まれて、否応なしに他の子供と一線を画して育てられた久人にとって、他者とどのように関わっていけば良いのかが今ひとつ判らない、というのが正直なところだ。


「久人ー」


 それでも、どこにでもそれなりに構ってくれる奴というのはいて、なんとかやり過ごしてきている。

 いつでも明るい表情の友人は、手に抱えた教科書と白衣を久人に見せた。


「ん」

「次、化学室だろ。行こうぜ」

「ん」


 促されて立ち上がる。

 廊下に出たとき、「そーだ」と友人が声を上げた。


「またやったらしいぜ、椿姫」

「……」


 彼女の、あだ名。

 話を聞いていくと、今度は昨夜、夜の廃屋に入って行くのを見た者がいるのだという。

 そこは幽霊が出るとか呪われてるとか、つまりちょっとした怪談スポットになっている場所だったから、幽霊すらも従えに行ったんじゃないかとか、そんな尾鰭が既についていた。


「……へぇ」

「すげぇよな、姫! マジ真似できねぇよ!」

「前、前」


 夢中になって話す友人の前には、件の彼女が仁王立ちで君臨していた。口には強者、または王者の笑み。

 腕を組んで、顎を上げる恰好すら様になっている。


「や、やあ、椿サン」

「楽しそうね、なんの話?」


 完全に蛇に睨まれた蛙状態の友人が、必死に視線で助けを求めてくる。

 だが哀しいかな、基本的に久人は他者に興味がない。そもそも自業自得であって、彼女の気持ちを考えれば怒られておくのもひとつだろう。


 ふいと視線を逸らした、そのとき。

 彼女の細い足元から延びる、やはり細い影。


「……動いた?」

「えっ?」

「あ?」


 今、確かに影が動いたように見えた。

 そんなはずはない。彼女は動いていないし、風も吹いていないのに。

 そうは思うが、久人が彼女の影から目を離せないでいると、彼女が弾かれるようにして身体の向きを変えた。当たり前のように、影も彼女についていく。


「……なによ。なにかいたの?」

「あ……いや、」


 そんな莫迦な話はない。

 久人が言い淀むと、彼女は──椿は大きな目で久人を睨んで、そのまま長い髪を翻し、立ち去った。


「助かったぁ……!」


 安堵の息を長く吐き出す友人をスルーして、久人は椿とその影を見送った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ