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鬼影  作者: 森風 しゅん
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1.少女と鬼と、影。

親友の凪々鴻さん(以降、凪さんと呼びます)と書いたリレー小説になります。

お題は、アヤカシ・学園もの・恋愛だったと思います。

随分前に完結したのですが、せっかく完結したのだから読んでいただきたいと思い、掲載します。


 椿は影鬼が嫌いだった。


 影を踏んだら鬼になるという、古典的な遊び。

 それを誰かが始めたら、決まってそいつをボコりに行っていたものだから、椿が影鬼に誘われることは無くなった。

 影踏み鬼に興じる子供達を遠目に見ながら、椿はいつも思っていた。

 皆、影の中に潜むモノがどれほど恐ろしいか知らないくせに。

 それを踏もうと必死になる姿は滑稽でしかない。

 だけど、その一方で子供達の輪に加わることも出来ない自分が惨めでもあったのだ。


「──昔のあたしは可愛かったもんだわ」


 すらりと伸びる白い足を地面に叩きつけて、椿は口端をつり上げる。

 綺麗に磨かれたローファーの爪先に踏みにじられているのは、傷だらけのケモノだった。

 踏みにじられた痛みか、悔しさか、怒りか、あるいはその総てなのか、黒いケモノは金属を引っかくような咆哮を上げる。

 途端、柳眉をしかめ、椿は言った。


「うるさい」


 その言葉と共に椿の影がゆらりと陽炎の如く揺らめく。

 と同時に影を突き破るように鋭利な爪が現れ、一瞬の内にケモノを椿の影に引きずり込んだ。


『じゃあ、今は可愛くないのか?』


 静まり返った辺りに響く、しゃがれた声。

 椿は流れるような亜麻色の髪をかきあげて妖艶に笑う。


「そうよ。今は可愛いんじゃなくて、美しいの」

『……そうか』

「そうなの。今のあたしはまさに完璧。一片の不足も無いわ」

『…………そうか』

「なんか間があるわね」

『………いや、気のせいだろう』


 若干疲れたような声音の応えに、椿は苛立ちを滲ませる。


「あたしに何の不足があるって言うの! 美しく、賢く、強いあたしに!」


 そう、椿は美しく、賢く、そして何より強いのだ。

 だってその身の影に――鬼を飼っているのだから。

 だから怖いものなど一つも無い。

 そう、無かったのだ。

 あの少年に出会うまで。


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