第八話 喧騒
はい、どうぞ!
ジュンはアリア達に出会ったことで、解放軍の拠点へ向かうことになった。ジュンはただ寝床を借りることが出来れば良かった。
ただ、それだけだったのに…………
「で、隊長とはこの程度か?」
「グッ!」
解放軍の隊長と呼ばれているスキンヘッドの男はジュンに組み締められて、首へナイフを添えられていた。周りには案内していたアリアとトーデルは見ることしか出来ず、他の解放軍のメンバーも手に武器を持っているが、動いたら隊長の首が飛ぶと理解していて動けなかった。
何故、そんなことになったのか、少し時間を遡ることに…………
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解放軍の拠点へ向かったのは、夜が明けてからになった。夜は魔物が活性化する時間帯なので、下手に動くよりも固まって火を焚いていた方がいいとトーデルが言っていた。
ジュンの一日目は野宿になったが、食事はジュンにがアリアのとこへ行く前に殺していた牛の魔物がいたから問題はなかった。
頭が撃ち抜かれている牛を見て、二人は驚いてどうやってやったのかと聞かれたが、秘密としか言わなかった。
トーデルは「魔法?いや、傷跡は銃みたいだが…………改造銃か?」と考え込み、アリアはキラキラした目で憧れの人のように見てきた。
ジュンが魔物と戦って無傷で勝っていたことから結構の実力者だと判断したようだ。
二人から聞いたことだが、魔物には三つの階級があって、三級魔物が一番弱くて、次が二級魔物、一番強い魔物が一級魔物と呼ばれる。
三級魔物は何人かが組んで、一体を倒せる程度で、二級魔物は軍隊で動く必要がある強さを持つ。
最後に一級魔物は、高位魔術師が百人ぐらいか、『神器』を持つ神器使いが必要になるのだ。
神器使いと言っても、強さはまちばちなので、一人では勝てない時もある。
一級魔物はそれぐらいの強さを持つが、それを相手に出来る神器使いも化け物クラスである。それが人間同士での戦争で使われているから、この世界が荒れているのも仕方がないだろう。
ジュンが倒した牛の魔物は三級魔物だが、普通の人間が一人で倒すのは無理である。
そんな話をしたりして、夜を明かしたのだった。
陽が出てから、ジュン達は動き始めた。解放軍の拠点はあと半日ぐらい歩いた先にあると聞いた。
ジュンは何故、アリアとトーデルが半日もかかる場所まで離れていたのか気になったので、聞いてみた。
「あぁ、その近くには獣人の集落があって、食糧を売って金に換えていたんだ」
「商売か」
「そうだ。金がないと何も出来ないし、こっちの解放軍は食糧を集めるのが上手い人が多いからな」
「狩人、薬草集めが上手なの」
二人が組んで、食糧を売ったのはいいが、途中から運悪く山賊に出会ってしまい、離れ離れになっていたわけだ。
「アリアは構えから素人じゃないのはわかるが、数が多かったから勝てなかったのか?」
「…………ぷぅっ、一人か二人なら負けないもん」
アリアは頬を膨らませて、言い訳っぽいのを言っていた。
「あははっ!こいつはロンから刀の使い方を教えて貰っていたみたいだが、得物がこれじゃね……」
トーデルがアリアの背中にある剣へ目を向ける。神器の『白桜』だけが掲げられている。
「成る程な……。なら、別の刀を持たせてやればいいじゃないか?」
「俺もそう言ったんだがなぁ」
アリアに二つの刀を持たせるには力が足りないし、邪魔になるし、アリアが…………
「絶対にお兄様の形見を置いて行かないの!」
「だってさ」
手放すのが嫌だから役に立たない神器を持っているのだ。つまり、アリアは武器無し状態…………腰にナイフを一本掲げているが、刀と同様に上手く使えるわけでもない。
「まぁいい。俺には関係ないことだしな。あと、山賊のくせに魔術師が二人もいたからアリアが普通の刀を持っていても厳しかっただろうな」
「二人の魔術師が……?俺のとこに三人が来たが、魔法を使ってこなかったが……うーん、よく考えれば神器を知って狙うのもおかしいな」
アリアが持っている神器は見た目ではわからないのに、山賊は刀を狙ってきた。さらに魔法使いも二人を準備してからだ。
山賊は刀を奪えば、大金持ちになれると言っていたから、裏に誰かがいたのは間違いない。
ジュンは失敗したなと、舌打ちをしていた。
「一人は残せば良かったか……」
「いや、いい。後はウチらの偵察組に任せるわ」
「ふむ、役職が決まっているんだな?」
「うん。私とトーデルは強襲組になるの。あと数人のメンバーがいる」
アリアは自信満々に言い切る。アリアが強襲組だというのがジュンは意外だった。
トーデルに目を向けてみたら、笑いを浮かべているだけだった。
(うーん、アリアがそう言っているだけの可能性があるか?)
よくわからなかったが、アリアは強襲組だと言い張っているようだ。山賊が死んだ姿を見ても表情を変えていなかったことを思い出した。
(この歳でもう殺しをやってるか……。改めて、この世界は凄いと思うな)
そこまで考えていたら、解放軍の拠点だと思える場所に着いたようだ。
「そこが拠点の一つになるぜ!!」
向こうを見ると、大きな岩が包むように中には建物があった。上手く岩に隠れており、近付かないとわからない拠点だと思えた。だが、ジュンはそこへ近付く前に立ち止まった。
「それはいいが、武器を下げろと命令しやがれ」
横へ目を向けると、木の上に隠れて狙撃をしようとしている人がいた。ジュンがこっちに気付かれたことに動揺しているのが見て取れた。
「シャオウ!止めろ!!」
「おい、そいつは解放軍へ入りたい奴か?」
木の陰に隠れていた人がもう一人いて、武器を向けてはいないが、警戒は高かった。
もうすぐで解放軍の拠点があるのだから、その警戒は正しい。見たこともない人を簡単に近付かせるわけがないからだ。
「トーデル副隊長、何故、前もって連絡もせずにその男を連れてきたのですか?」
「トーデル副隊長……?」
「言ってなかったっけ?俺は副隊長なんだよー」
「聞いてねぇぞ」
まさか、トーデルが副隊長と呼ばれるぐらいに偉いとは思えなかった。
意外な真実を知った瞬間だったが、トーデルは隊長と話をしたいと話を付け、これからジュン達は隊長の元へ行くのだった…………