第七話 扱えない神器
本日三話目!
狙われた刀が『神器』だと言われても、刀の様子から眉を潜めてしまうジュン。初めて見る人は大体同じ反応を見せてしまうだろう。
アリアが刀を抜いていた時の姿、刃が潰れていて切れ味がないように見えたし、変わった物といえば、持っ手の先にあるアクセサリーがあるぐらいだ。丸いアクセサリーには模様は無くて、簡素な作りだった。
「これは……お兄様が使っていた『白銀神器』で本来の姿は桜のようにピンク色の波紋があったの。だけど……」
「成る程な」
つまり、使い手は既に死んでおり、アリアは『白桜』に認められていないから、その刀は扱えない神器となっているのだ。
何回も言うが、神器は人を選び、誰にも扱えるわけでもない。
(ふむ、どんな基準で選んでいるんだか?)
ジュンが持つ『夜咫烏』は何故、ジュンを選んだのかもわかっていないから、そこが不思議だと思えるのだ。
ジェイドも自分の思うように神器を作り出せているとはいえない。何故なら、ジェイドは自分用の神器を作れなかったし、この夜咫烏もたまたまジュンを選んだだけだろう。
(考えてもわからないな。今は街の場所を聞いて、コイツらとおさらばした方がいいだろう)
この二人は誰かに襲われるような身分で、さらに神器を持っていることから、一緒にいるとロクでもないことに巻き込まれそうだ。
「まぁいい、ここから一番近いのはルークディア帝国だったっけ?どの方向にあるんだ?」
「大きな街に絞るなら、ここから近いのはルークディア帝国だろうな……」
トーデルは平原がある先に指を指して、平原と一つの山を越えれば、ルークディア帝国に行けると教えてくれる。歩きなら五日は掛かるがなと付け加えた。
それを聞いたジュンは立ち上がって、この場所から離れようとする。だが…………
「む?」
「もう行っちゃうの?」
ローブを掴んでいるアリアの姿があり、その顔は寂しそうに見えた。ジュンは小さな手を無理矢理に振り払うわけにはいかないので、少し話をすることに。
「なぁ、俺は早めに街へ行ってベッドで寝たいんだ。それに御飯もまだだしな」
「……だったら、拠点に来ない?」
「アリア!?」
「拠点って……」
まだ小さいのに、家持ちかよと思ったが、どうやら違うようで……
「ジュンを巻き込むつもりなのか?アリアは」
「…………でも、ジュンお兄様に助けて貰ったお礼がまだだし」
「そういうことじゃなくてな……」
「ジュンお兄様はダメ……?」
アリアは上目遣いでジュンを見ている。その様子にジュンはどうしようかと迷っていた。
一緒にいれば、何かに巻き込まれるのはわかりきっている。トーデルの言葉にそんなのが混じっていたから、間違いないだろう。
「…………まず、お前たちは何者か教えろ。話はそれからだ」
「やっぱりそうなるよな……。聞いたら後戻りは出来ないが、いいか?」
「いいかと聞かれてもわからないな。こっちは何も知らないし」
トーデルはジュンの返事に腕を組んで、暫く考え込んだが話すことにしたようだ。
「はぁ、お前は帝国の者じゃないし、いいか。俺達は元々帝国の人だったが、帝国の政治について行けなくて逃げ出したんだわ」
「そして、帝国は私のお兄様を殺した…………仇を取る相手なの」
「ああ、だから帝国から逃げ出して、解放軍に入ったんだわ」
そこまで聞いて、ジュンは拠点が何なのかわかった。つまり、拠点とは帝国に対しての解放軍の住処っていうわけだ。
「…………アリアは初めて会う人にそこへ連れていくつもりだったのか?」
「アリアはお前のことを気に入ったんじゃねぇのかな」
「気に入っただけで、そんな所に連れて行くなよ。俺が嘘を付いていて、帝国の者だったらどうするんだよ?」
「大丈夫。ジュンお兄様は嘘を言ってない…………勘だけど」
「勘でかよ……」
呆れたジュンだったが、頭の中で損得勘定をしていた。解放軍の拠点へ行くメリットとデメリットを思いつくだけ思い浮かべた。
メリットはここから歩きで五日ぐらいは掛かるルークディア帝国よりも拠点の方が近いことで、さらにお金を払わずに泊まることが出来る。
デメリットは解放軍の仲間だと思われてしまうこと。これは帝国の人に見つかった場合だが。
そう考えれば、デメリットの方が薄いように見える。
「…………解放軍というぐらいだから、何百人ぐらいはいるんだよな?そいつらは認めると思うか?」
「解放軍にもグループがあって、俺達のグループは10人ぐらいだ。仲間になるなら、大丈夫だと思うが、仲間になってもないのに住処を教えるのは流石にな……」
解放軍はいくつかのグループがあり、一つ一つのグループに必ずリーダーが一人いて、あとは何人かのメンバーがいる構成になっているようだ。確かに仲間になってもないのに、解放軍の住処を教えるのは馬鹿がやることだ。
「ジュンお兄様は帝国の人じゃないよね?」
「まぁ、そうだが…………その前に一ついいか?」
「ジュンお兄様?」
「それだ。なんで、さっきからお兄様を付ける?ジュンでいいんじゃないか?」
解放軍のことに関係はないが、さっきから気になっていたことだ。
「……駄目?」
「駄目じゃないが、調子が狂うんだよな……」
ジュンは仕方がないなと思い、数日はアリアのお世話になると決めた。
「後はトーデルがなんとかしやがれよ」
「頑張って」
「俺がやるのかよ!?」
他の仲間に、ジュンは仲間にならないが寝床を借りることが出来るようにの説得はトーデルに任せた。もし、それでも揉めるならジュンがなんとかする必要があるが……
こうして、ジュンは解放軍の元へ案内して貰うことになったのだった…………