第六話 アリア・トレンニア
本日二話目!
スコープを覗くと、刀を構えている少女と、それを囲む山賊のような格好をした男性の五人が見えた。
山賊の一人が手に炎を持っているような仕草をしていたから、あの爆発はあの炎を持つ男がやったのだろう。
図画だけを見れば、か弱い少女に襲いかかろうとする男達のように見えるが、あの爆発では人が耐えられるようには見えなかった。
では、山賊の男達は下品な理由から襲っているわけではなく、殺そうとしている?
そして、さらに近付いたジュンは、少女と山賊の話が聞こえるようになった。
「小娘!あの刀を渡すなら、命だけは助けてやると言っているんだぜぇ!!」
「そうだ、刀のために命を粗末するなんて馬鹿馬鹿しいんだろ?」
「渡さない!お前達にお兄様の形見を……!!」
「はん!知らねえな、刀を奪えば、俺達はあっという間に大金持ちへなれるんだからな!!」
「「「うはははっーーーー!!」」」
話を聞き、どうやら山賊の目的は少女が持っている刀のようだ。少女は13、14歳ぐらいに見え、腰まで長い黒髪で顔は可愛い部類に入るが、山賊の目は少女なんてどうでもいいぐらいに刀が魅力に見えるようだ。
「む、そんなに珍しい刀なのか?」
ジュンから見たら、少女が持つ刀は刃が潰れた刀で切れ味がないように見える。持っ手の先には長い紐に丸いアクセサリーが付いているが、その他に変わった物がない。
(まぁいい、片付けてから聞けばいいだけだ)
ジュンは少女を助けることに決め、狙撃タイプの銃を構えた。
まず、少女へ一番先に向かった男の頭に標準を合わせてーーーー
(まず一人)
10%の弾で男の頭を貫いた。
「な、敵か!?集まれ!!」
まだ無事の者は叫んだ男の周りに集まって、防御の結界を張った。叫んだ男は『空』の魔術師で、敵の得物が銃だと判断して、普通の銃では貫けない防御の結界を構築したのだ。
その間に、ジュンは気配を消してさらに近付いた。
(あれは、防御の結界か?魔法には決まった技や型はないという情報があったが……)
魔術師としての実力は、魔力の量と使い方によって決まる。魔法には決まった技はなく、自分が想像する形を作り出せる。
先程の爆発も、火の魔法から発動されていたが、燃やすというより弾ける方面でイメージされていた。
魔法は自分自身のイメージが強ければ、強くなるがその分の魔力が減ってしまうから、考えて使わなければならない。
(普通の銃だったら、防げると自信がありそうだが、それでは夜咫烏から守れないぞ)
ーーーー30%。
パン!と『空』の魔術師が弾けた。結界の意味はなく、貫いてそのまま魔法使いの頭を…………いや、上半身ごと消し飛ばしたのだった。
「ス、スアロ!?ーーーー出てきやがれぇぇぇ!!」
仲間がやられていくことに恐怖を覚えるが、脚が竦むのを耐えて大声で叫んだ。
普通なら、そんな挑発に乗るはずはないが、ジュンは既に撃った場所から移動していて、木から木にと飛び移ってーーーー
「ほら、出てきてやったぞ」
「っ!?」
「ガァッ!?」
ジュンはフードで頭をスッポリと隠しながら、山賊の男の真上から現れて両手に持ったサバイバルナイフで首を斬り、動脈を正確に狙ったため、即死だった。これであと火の魔法を使う山賊だけ。
「よくも、仲間をぉぉぉぉぉ!!」
手に持っていた炎をジュンに向けて、火炎放射のように襲ってきた。後ろにいた少女が「危ない!!」と心配してきたが、ジュンにしたら火炎放射は驚異ではなかった。
何故なら…………
「何!?」
火炎放射を放ち終わったが、ジュンと後ろにいた少女は無傷だった。ジェイドから貰ったローブが伸びて盾になったからだ。
(思うように動かせるのは便利だな。それに、自動修復もあるみたいだし)
盾になった部分は炎で焦げていたが、少しずつ消えていくのが見える。さらに、このローブの頑丈さはこの程度の炎では燃やし尽くせないようだ。
「恨みはないけど、死んでな」
ナイフを投擲して男の額に刺さり、脳まで到達した。これで山賊は全員が死んだ。
山賊から視線を外して残った少女の方を見ると、警戒するように距離を取っていた。山賊を倒して、火炎放射から守って貰ったといえ、完全に味方だと言える根拠がないから、その警戒は正しい。
今のジュンはフードで顔を隠しているから、顔が見えないと警戒したくなるのも仕方がないだろう。
ジュンは少女と戦うつもりはないので、警戒を少しは解かせようとフードを下げた。
「さて、俺は君を助けたんだが…………って、その顔はなんだ?」
「あ、…………おぉぉぉ」
少女は驚愕したような表情になって、持っていた刀を落としていた。ジュンはその様子に訝しみ、言葉を続けようとしたが、出来なかった。何故なら…………
「お兄様ぁぁぁぁぁ!!」
「おわっ!?」
少女に抱きつかれて、さらに泣かれる場面に陥ったからだ。
そして、横の草むらから人の気配を感じて目を向けると一人の男が草むらの中から現れた。
「おい、アリア!……………………は?」
少女を探していたその男もジュンの姿を見て驚愕していた。
「な、なんでロンが!?」
「ロンって誰だよ……」
「お兄様お兄様!!」
「って、少女の方は聞いてねえな……」
ため息を吐きながらも、泣きながら喜ぶ少女が落ち着くまで、このままにするジュンだった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「うはっ、マジかよ!こんなに似る人がいたとはな!!」
「お兄様じゃないの…………」
少女はジュンがお兄様じゃなかったことに落ち込み、少女を探しに来た男は奇跡を見たような表情に、ゲラゲラと笑っていた。三人共は暗くなってきたので、焚き火の周りに座って囲んでいた。
「誤解が解けて、何よりだ。俺はジュン・ヤガミと言う」
「ロンに似すぎだろうが。俺はトーデル・ライドムだ」
「アリア・トレンニアなの……」
ようやく自己紹介が出来、先に進めるなと思っていたら、アリアと名乗った少女がこっちをジーーと見ていたことに気付いた。
「俺の顔を見てどうした?そんなに面白いものでもないだろうが」
「いやいや、充分面白いからよ!ロンと顔が全く同じなんだから!」
「そんなに似ているのかよ…………。そういえば、ロンって?」
「私のお兄様なの……」
「頼りになって、色々とお世話になったんだがな……」
さっき笑顔だったトーデルだったが、一転に顔を暗くしたことから悟った。
もうこの世界にはいないと…………
「そうか、悪いことを聞いたな」
アリアの頭をポンポンと撫でるジュン。その動作に二人はまた驚く。
「まさか、ロンがやる慰めの方法と同じとはな……。ロンの生まれ変わりじゃないよな?」
「アホ抜かせ、歳を考えればわかるだろうが」
「…………ありがとぅ」
「ん?」
「さっき、山賊から助けてくれて……」
「ああ、気にするな。俺が勝手にやったことだし、打算は無かったと言えないしな」
打算と聞いて、トーデルは警戒を露わにする。
「まさか、アリアに何をさせようと……」
「んなわけあるか、街は何処にあるか聞きたかっただけだ」
ジュンはそろそろ街に行きたかったから、助けた後に道案内を頼もうと思っただけなのだ。
「街?ジュンお兄様はルークディア帝国から来たんじゃないの?」
「違う、遠い所からだ。間違いなく帰れないぐらいにな」
「帰れないぐらいに遠い所って、あんのかよ?」
具体的に言ったって、信じられないだろうから、詳しく話さないでただ遠い所から来ただけと。
「そういえば、あの山賊はなんで刀を狙ったんだ?」
「それは…………」
トーデルは言うか迷っているようで、口を噤んでいた。
「ジュンお兄様なら、大丈夫ような気がするの」
「まぁ、アリアがそう言うなら教えてやってもいいか。なぁ、遠い所から来たと言っても、『神器』ぐらいは聞いたことがあるよな?」
「ああ、神器は神の手を持つ男が作ったんだよな」
「やはり、知っているんだな。すぐに信じられないかもしれないが…………」
トーデルは頬を掻きながら、刀を指してその正体を教えてくれた。
「その刀は、『白銀神器』のNo.10……『白桜』なんだ」