第五話 騒めく帝国
本日一話目!
ルークディア帝国
西の大陸にはルークディア帝国があり、ジェイドが作り出した様々な『神器』を持つ帝国でもある。
そんな帝国が、『深淵の森』で起こった現象を感じ取っていた。
「綺麗な光が立っていたな……」
「いやいや!あれは敵の攻撃じゃないんですか!?だったら、軍を進出させないと…………」
部屋に二人組が窓側に立っていて、金髪で美青年は遠くで立ち上がった光に見惚れ、もう一人は軍服を着ていて、胸には中佐の称号を飾っている男性がいた。
「ゼルア中佐よ、敵なら目立つことをするわけがないだろう?それに、被害は森の中でこちらに被害がない」
「い、いえ……それはそうなんですが、デルク大将殿は落ち着きすぎていますよ!?」
「ゼルア中佐こそ、慌てすぎです。そんなのですから、いつか禿げますよ?」
「禿・げ・ま・せ・ん!!」
言っておくが、ゼルア中佐はふさふさな黒髪があり、禿げそうな頭ではない。
この二人は帝国の中でも、偉い立場に立っており、様々な武勇伝を持つ人物である。
「まぁ、あの威力は見逃せんな。だが、ゼルア中佐の言う通りに軍を出したら民が大騒ぎになるだろう。先ずは、偵察の部隊を向かわせよ」
「はっ!」
ゼルア中佐は敬礼を返し、部屋から出て行く。デルク大将はまた窓へ視線を戻した。
「あの光は……『深淵の森』辺りだな。ここから馬でも三日間の距離があるのに、見えるとはね……」
小さく「まさか、神器が…………?」と呟いて、首を横に降る。神器は100個しかない存在であるから、敵陣への攻撃以外で使われるとは思えない。敵なら、森に攻撃する意味がわからない。
もし、魔物に対して使っていたとしても、あんな綺麗な光を出せる神器は帝国にはない。だから、高位魔術師が何らかの魔法を放ったと考えている。
(もし、あれが神器でやったことなら、欲しい物ですね。ふふっ…………)
デルク大将は自分の腰に下げている神器を撫で、欲する眼で光が上がった場所を見続けるのだった。
そして、帝国からすぐに編成された偵察部隊が原因を探るために、『深淵の森』へ向かった…………
光が立った場所は地面が抉れていて、宝樹セラフィティムがあったという事実は消え去っている。
だが、事を起こしたジュンはもうその場にはいなかった。
「…………ふぅ。出来るだけ離れたが、充分か?」
ジュンが撃った『夜咫烏』の威力は思ったより強すぎて、周りへの騒音に眩しい光が広がった。
それのせいで、魔物が集まる可能性が高くなったので、急いでこの場所から離れたのだ。
五キロ程離れたか?と考えながら周りがよく見える草原の真ん中で座って落ち着ける。
(あれ、逃げるに夢中で気にしてなかったが、身体能力の上昇を感じるな…………、これも『夜咫烏』の効果か?)
五キロをあっという間に走り抜けたような感覚に、身体が強化されていることに気付いた。
推測通りに、これも神器が与える効果の一つである。神器を持った者がいるだけで、優位に立てる理由は保持者の全てが強化されて、さらに特別な力を使えるようになるのだから。
(これが神器の効果って訳か。この『夜咫烏』の効果を試さないとな)
息切れも落ち着いてきたので、試すためにモルモットを探し始める。と、広い草原の中から牛みたいな魔物が何体かいたので、それを目標とすることに。
(…………デタラメだな。神器と言う奴は)
目を瞑って、夜咫烏に意識を集中すると、夜咫烏の情報が流れ込んでくる。その膨大な情報からジェイドが言っていた三つの型を抜き出していくと、一つだけ面白い情報を見つけたのだ。
(なんだよ、この銃之型はさらに三つの形があるじゃないか。まずは……)
ハンドガンの形だった夜咫烏は一瞬で遠距離用の狙撃タイプに変わっていた。先程の拳銃は中距離用のバランスタイプ。
もう一つは…………
(銃の先に光のナイフが現れたか。これは近距離用の特攻タイプみたいだな)
銃の先に現れた光のナイフは長さは50センチまで伸縮が可能で便利仕様になっていた。
銃の中にある三つの型を見た後は、狙撃タイプに変化させてから牛の魔物がいる場所へスコープで狙いを付ける。
(強さも選べるか。まず、一番弱い10%からだな)
牛の魔物とは700~800メートルは離れているが、強化された視力は良く見えていた。的を広くするために、急所である頭を狙わずに腹辺りを狙う。
殺気を込めたエネルギーは、引き鉄が引かれると黒い弾が出た。そのまま、牛の魔物の腹へ吸い込まれて…………
当たった瞬間に弾が霧散した。
牛の魔物は何が起こったのかわかっておらず、周りを見るだけで終わった。撃ったジュンの方は、一番弱い弾の威力が大体わかったので、一瞬だけ眉を潜めたが、そんなものだろうと、納得していた。
(一番弱い弾は普通の銃と変わらないんだな)
ジェイドは普通の銃では、魔物の硬い皮膚を破れずに終わるだろうと聞いていたので、すぐに切り替えた。
(次は30%だな)
また引き鉄に指を掛けて、また腹を狙ってバァッ!と撃ち出した。
今度の弾も皮膚を突き破れずに霧散したが、威力が上がっているのでハンマーで殴られたような衝撃が牛の魔物に襲い掛かった。
「ブルォア!?」
スコープを覗くと、牛の魔物は怒りの表情で、こっちへ向かってきているのがわかった。
凄いスピードで突っ込んでくる牛の魔物だが、ジュンは既に次の狙撃の準備を終わらせていた。
「ーー50%の弾を受けてみろ」
先程より大きな音が鳴り、額に標準を合わせて撃ち出された弾は、霧散せずに脳味噌を撒き散らしていた。
頭を無くした牛の魔物は、突っ込んでいた身体を止めることが出来ずに転がり回って倒れた。
続けて、何体か牛の魔物を狙って、狙撃の連射を試してみた。狙撃なのに、連射機能があるのは珍しいと思った。
それに、弾は実弾ではなく、心の力から出来たエネルギー弾なので風に流される心配もないが、距離が長くて連射になると命中力が下がってしまう。
そこは要練習なので、的がいなくなるまで狙撃の練習を続けたのだった。
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「ふぅっ……」
見える限りの場所には、もう立っている牛の魔物がいなくなった。それと同時に弾のエネルギーにしていた牛の魔物への殺気が薄れていることに気付いた。
心の力は無限ではなく、弾を撃ち出す形で感情を放てば、いつかその感情が薄れていく。薄れた感情はすぐに高めるのは難しいが、一日休めば、元に戻るという情報があった。
(心や感情を弾に変えるか、普通は魔力とかじゃないのか?)
その疑問に答えられる者は既にいないので、考えるのやめた。魔力量がわからないジュンにしたら、魔力よりも心の力の方が有難いと感じていた。
心の力なら、魔力よりも感覚的でどれくらい撃てるかわかるからだ。先程みたいに、牛に対しての殺気を弾に変え続けていたら、最後には殺気が薄れているのが理解出来た。
さらに、普通の人間では務まらない極秘特殊部隊にいたジュンは自分の心を上手く操れるのもあり、感情と言うものを理解している。
もしかして、ジェイドはそこまで考えて『夜咫烏』を作ったのか?と考えたが、会ったばかりで自分のことをそこまで知ることが出来ないだろう。
考え事はここまでにして、銃之型とは別の型を試そうと思ったが、頭の中に浮かぶ文字は発動不可だった。
「なに、今の俺では発動出来ないということか?」
ジェイドがジュンに使えない機能を付ける訳がないので、今の自分ではまだ発動出来ないと考えた。
仕方がなく、ハンドガンの形に戻して、これからどうしようかと考えていたら…………
ドバァァァァァン!!
と、森がある方向から聞こえた。何か爆発したような音に、ジュンは何が?と思いながら、森の方へ走っていった。
もし、人がいるなら街が何処にあるか聞けるからのもあり、爆発した場所へ向かうのに躊躇はなかった。
(あれは、魔法か?)
ジュンは木の上へ登って、狙撃タイプのスコープで爆発が起こった場所を見てみる。
そこには、数人の男が刀を構えた少女を囲んでいる状況があったのだった…………