第三十二話 報酬
お待たせました!
まだ忙しいですが、書けたらドンドンと載せていきたいと思います。
メルデア王国での起こったことはテレサ王女の手腕によって、収束されていった。
約束通り、昼にはジュンとテレサが向き合っていた。報酬の話である。
「改めて、お礼を言わせて頂きますわ」
テレサは心の整理が付いたのか、いつも通りのようにしていた。内心ではどう思っているかはわからないが、お礼を言って頭を下げていた。
「お礼は良いから、宝庫室に案内な」
「ジュン!お礼はきちんと受けようよ!」
ジュンは口だけのお礼などには興味ないし、報酬さえ貰えば充分なのだから。アリアが注意するが、テレサはジュンの性格を理解しているのか、諦めたように溜息を吐いていた。
「はぁ、わかりましたわ。宝庫室に案内するから着いてきて下さい」
テレサはすぐに宝庫室へ向かい、ジュンとアリアはそれに着いて行く。
しばらく、歩いて行くと地下の宝庫室に着いた。扉の鍵を厳重にしている所から宝庫室だとすぐにわかる。
扉を開くと、中は金が沢山置いてあり、珍しい武器や防具なども置いてあるのが見えた。
「さあ、どれか好きなの二つだけ持って行きなさい」
「うわぁー、ジュンはどれにするの?」
アリアは初めて見る宝庫室に目を奪われていた。ジュンは暫く宝庫室の中を見渡して…………
「む?」
目に付いた物があった。宝庫室の中でらしくはない物であり、ボロボロの指輪を見つけた。
その指輪が気になって、近づいてみたが何も魔力もない、ただの指輪だとわかる。
「あ、その指輪は……」
「ん、何か知っているのか?」
「あ、はい……私の母が付けていた指輪です…………」
テレサの母は既に亡くなっており、その原因は火事。前にここは一回火事があって、テレサの母が亡くなったのだ。今は作り直したから、火事の跡は残ってはいないが、遺体から見つかった指輪だけは保管された。
ダリュゲルからにしたら、焦げた指輪は嫌な思い出だから目に入れたくはないと思ったが、大切な母の形見でもある。
だから、捨てずにここに保管していたわけだ。
「すいませんが、それは……「ほれよ」え?」
ジュンは手に持った焦げてボロボロの指輪をテレサに投げて寄越した。
「それは、お前にとっては大切な物だろう。大切な物は厳重な場所へ保管じゃなくて、手元に置く。それが一番で当たり前のことだ。忘れるな」
「ジュン……は、はい……ありがとうございます……」
テレサはもしかしたら、ジュンに持って行かれてしまうのでは?と少し思っていただけ、まさかの励ましを貰って驚愕していた。そして、指輪を掴んで少し涙が出てしまった。
アリアはうんうんと頷いて、内心ではジュンの株が上がりまくっていた。
(宝庫室に形見を保管するとか、王族のやり方は違うなー)
ジュンはどうでもいいことを考えながら、宝庫室の中を探っていた。そしたら、面白い物を見つけた。
「これは…………」
これはこれでもと、厳重に施された箱を見つけた。鎖が巻いていて、錠が掛かっていた。錠を開けないと開かないようだが、ジュンはこの箱から強い魔力を感じていた。それも黒い魔力を…………
「あー、凄い厳重だね」
「アリア、魔力を感じないのか?」
「え、うん」
アリアの様子が普通だったことから、疑問を感じた。アリアは魔法を使えなくても、魔力ぐらいは感じ取れる。テレサの方も見たが、反応は何も変わってなかった。
つまり、禍々しい気配を放つ黒い魔力を感じているのはジュンだけのようだ。
「面白いな…………、俺の報酬はこれだ」
「え、これを?」
「鍵はないみたいですが、いいのですか?」
本が入る箱に付いた錠を開ける鍵はないと言うテレサ。それでも、ジュンは問題はなかった。
「構わない。あとで、自分で開けられる」
「なら、いいですけど……アリアはどうしますか?」
「うーん、欲しいのないからお金でいい?」
アリアは気に入った物が無かったから、お金をもらう事にしたようだ。子供のお小遣いにしては、多過ぎるほどの金額を貰ったが、アリアは沢山食べるからそれぐらいは貰っておいた方が良いだろう。
「よし、やることは終わったし、俺達はメルデア王国を出て、別の街へ行くか」
「え、昨日来たばかりなのに、もう出て行くのですか?」
「うん、やる事は終わっちゃったからねー」
「そうですか……また来るときはここへ寄ってきて下さいね」
テレサは微笑みを浮かべて、ジュン達を送り出す。父親であるダリュゲルを殺したことに恨みを持っているということはなく、この国を救ってくれたことに感謝を抱いているようだった。
こうして、メルデア王国を出て行くジュン達であった…………
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ここはメルデア王国から離れた森で、次の街へ向かっている途中。
「ねぇ、さっきの箱は何が?」
「そうだな、ここでやるか」
アリアにとっては、厳重に保管された謎の箱にしか見えなくて、どうしてジュンがそれを選んだのか気になっていた。ジュンのように禍々しい気配を放つ黒い魔力を感じないのか、疑問を浮かべていた。
「この錠と鎖は金属のように見えて、ただの金属じゃないんだ」
「え?」
ジュンは錠と鎖が金属ではないと言われて、アリアは更に混乱してしまう。どう見ても、ただの金属にしか見えない。
ジュンは魔法の袋から奪った堕天杖を取り出した。
「やはりな…………」
「どういうこと、杖と何の関係が?」
「よく見ろ、材質が全く同じだ。それに、俺とお前の神器と同じ〈粘銀水〉が使われている」
そう、堕天杖と鎖、錠は神器と同じ〈粘銀水〉が使われている。それだけでは、ジェイドが作った神器だと判断するには早計である。〈粘銀水〉は神器にしか使われてないというのはないだろうが、ジュンは堕天杖と錠の両方を手に入れた時から確信していた。
「堕天杖の先を見てみろ」
「あ、複雑な形をしているね……」
「そうだ、この形が錠の形に似ていないか?」
地面に置いた封印された箱に向けて、堕天杖を持つ。近くに寄せてみると錠と堕天杖の先の形が合うような作りになっているのがわかる。
「つまり、この堕天杖は鍵にもなるわけだ」
「それが……」
「刺すから、下がってろ」
アリアはジュンの言う通りに少し下がって、ジュンは堕天杖を錠に向けて突き刺したーーーー
ガチャッ!!
鍵が開いたような音がしたかと思ったら、錠は消えて鎖が堕天杖へ巻き付き始めたのだ。
「ジュン!?」
「大丈夫だ。…………やはりな」
ジュンはすでに堕天杖から手を離しており、被害は全くない。鎖が堕天杖に抱きついて融合し始めた。融合する際に光を放ち始めたが、目を手で覆う程ではなかった。
その光が収まると、堕天杖は元の形を残してなかった。ジュンぐらいの高さがあった堕天杖は五十センチにも満たない複雑な形をした棒みたいになっていた。複雑な形は芸術的に見えて、実用的な杖には見えないが…………
「鎖も堕天杖の一部だったか…………いや、名前が変わってんな」
ジュンは浮いている杖を手に持つと、夜咫烏の時と同じように情報が頭の中へ流れ込んだ。
この杖はもう堕天杖ではなく、別の物に変わっていた。そして、その保持者はジュンに選ばれーーーー
「『黒神器』のNo.36、『鳴雷杖』か」
こうして、ジュンは二つ目の神器に選ばれることになったのだったーーーー