第三十話 堕天杖
「さて、何故潜入していたことがバレたのか気になるが教えてくれないだろうし。お前が死ねばいいだけだ」
「き、貴様!皆で掛かれぇぇぇ!!」
騎士の一人が早速にやられてしまい、その強さが普通ではないとわかったダリュゲル国王は全員で掛かれと命令を下した。それに合わせて、騎士と魔術師が動く。
騎士は剣と槍を持って突撃し、魔術師は魔法を使う際の詠唱を唱えていた。詠唱は本来なら必要ないが、イメージを作り出しやすい意味があり、詠唱を唱える人もいる。ここの魔術師は詠唱を唱えてから発動するようだ。
「ここは俺一人だけで充分だな」
さっき一人死んだから、ダリュゲル国王も含めて残り14人。それらをジュンだけで相手をする。
両手にはサバイバルナイフを持って、まず騎士の後ろで詠唱を唱えている魔術師を狙う。剣や槍での攻撃を避けて、騎士の隙間を通り抜けるついでに、二人の騎士の喉を切り裂いていく。
「な、止めーーーーがぁっ!?」
「遅いんだよ、近距離に対しての対策はないのもマイナスだな」
近付かれた魔術師が詠唱を止め、怒鳴る前にジュンによってあっさりと倒れてしまう。続けて、魔術師をサバイバルナイフで命を奪っていく。
近付かれただけで、あっさりと終わるなんて国を守る魔術師だと思えなかった。
「何をしてる!!騎士共が、さっさと殺せ!!」
「は、はい!」
残り七人になってしまった騎士達は、ジュンの動きを見逃さないように動いたが…………
「ごふ、は、早過ぎる……」
「お前らが遅すぎるんだよ。帝国の方がまだ戦えていたぞ?」
鎧の隙間を狙い、致命傷を与えていく。騎士達がジュンの手によって鎧の腹下や喉を切り裂かれて、大量出血して倒れていく中、アリアとテレサはそれぞれの思いを表情にしていた。
アリアは憧れの人を見るような眼で、テレサは化け物を見るような眼だった。
ジュンの力は知っていたつもりだったが、騎士と魔術師が十数人もいたら勝てないのでは?と考えていただけあって、その衝撃は凄かった。まさか、無傷で騎士と魔術師を倒していくとは思っていなくて、恐怖が湧き上がった。本当に同じ人間なのか……と思う程にだ。
「ん、攻撃するのか?」
ジュンの眼にダリュゲル国王が攻撃してくるように、堕天杖を掲げていた。堕天杖の先端は怪しく光っており、上には巨大な火玉が出来ていた。
「ははっ、私の堕天杖で消してやるからありがたく思って死ね!!」
「ダリュゲル様!?まだ私達が…………」
「侵入者を殺せない役立たずはいらん!」
「そんな……」
ダリュゲル国王はまだ生き残っている騎士ごとやるようで、堕天杖に込められた魔力はさらに強まって火玉も大きくなっていく。
「うははっ!普通の魔術師では、発動出来ない魔法で焼き尽くしてやる。神器なる、この堕天杖の力を見よ!!」
後のことを考えていないようで、室内でも構わずに直径5メートルもある火玉が放たれる。騎士はその力から生き残れないことに絶望し、アリアはテレサを庇うように”守衛”を発動しようとしていた。
ただ、ジュン一人だけは冷めた眼で向かってくる巨大な火玉を見ていた。
「やはり、偽神器ではこの程度が限界のようだな」
ジュンは夜咫烏を腰から抜いて、一瞬の溜めもないまま火玉に標準を付けた。
ドバッ!!
夜咫烏から放たれた30%の弾が、火玉を飲み込んで消した。
「なーーーー」
「この威力は、魔導武具止まりだな。ただの魔導武具を神器だと思わされてしまうとは、これも魔導武具の効果か?」
一度、神器を見たことがあるなら、この程度ではないと判断出来るのだが、ダリュゲル国王やこの国の人は神器を知っていても見たことがないか、魔導武具の効果で神器だと思わされているのどちらかだと考えた。
「まぁいい。死ね」
「ま、待てーーーー」
ジュンは言葉を聞かずに、ダリュゲル国王の頭を撃ち抜いた。もし、堕天杖のせいで操られている可能性もあるが、ジュンにはそんなのは関係はない。ただ、敵は殺すーー。それだけだ。
「お父様…………」
「これで、依頼は終わったぞ。城に穴を空けてしまったが、ここが爆発してなくなるよりはマシだろうな。杖も貰っていくが、いいな?」
「っ、か、勝手にしなさい。こんな状況を起こした杖なんていらないわ」
テレサはダリュゲル国王が死ぬ前に浮かべた表情を思い出して、悲しくなっていた。だが、それはテレサがジュンに依頼をした結果であり、容赦なく殺したジュンを責められることではない。
ジュンはもう終わったことに、ダリュゲル国王から興味を無くして、堕天杖を手に持っていた。
「そ、それを持っても大丈夫なの?」
「ああ、俺を欲によって堕天させようとしているが、俺には効かないから大丈夫だ。ただ、アリアは触らない方がいいな」
「う、うん」
ジュンは手に持ったことによって、堕天杖の効果が大体わかってきた。堕天杖は欲を増幅させ、保持者の魔法効果を強める力があるようだ。神器程ではないが、魔導武具としてはいい効果のようだ。保持者を欲で堕落させる効果がなければだが…………
ジュンが手に持っても無事なのは、心の力を使う夜咫烏がジュンの心を強化されてあるのもあるが、欲だけで動かされてしまう軟弱な心を持ってないからだ。
「さて、生き残った騎士達よ。お前らはどうする?」
「あ、あぁ……命だけは……」
「お助けを!!」
生き残った騎士は二人だけ。ダリュゲル国王は殺され、殺した恐怖の根源が目の前にいる。怯えて、命乞いをするのも仕方がないだろう。だが、ジュンは手に持った夜咫烏を収め、悪どい笑みを浮かべた。
「一先ず、お前らは殺さないでやろう。運が良かったな?」
「珍しい……」
敵対した敵は殺してきたのに、この騎士は生かしておくのがアリアにとっては珍しかった。ジュンは普通なら殺すが、今の状況を考えて、殺すのやめたのだ。
「さて、お前はテレサ王女のために働くなら生かしてやろう。いいな?」
「は、はい!!」
「あ、ありがとうございます!!」
二人の騎士は十人いた中で若い奴らで、国王の命よりも自分の命が大事なのだ。助かるなら、王女陣へ鞍替えをしてもいいと思っている。ジュンはそれを見抜いていたから、二人を最後まで残していたのだ。
「おい、テレサ。今夜はここまでだ。また明日の昼にここへ来るからな」
ジュンとアリアはここの状況はテレサと騎士二人に任せ、面倒毎に巻き込まれないように、城から立ち去るのだった…………