第二十九話 潜入
はい、どうぞ!
夜中までにやることをやり、ジュン達はお城の城壁近くにいた。城門には門番と兵士がいるから、それを避けるために城壁近くいるのだ。
「わかっていると思うが、目撃者がいたら俺が消す。そのことに声を上げるなら、ここに残れ」
「……私はジュンについて行くの」
「私も覚悟するわ。頼んだのは私だし、それぐらいの被害を覚悟していなかったら父親の暗殺を頼んでないわよ」
自分から父親であり王国の暗殺を頼んでいながらも、目撃者は見逃せと言うのもおかしな事だ。
「なら、もう何も言わない。行くぞ」
「「はい」」
ジュンは脇に二人抱えて、夜咫烏の強化に頼ったやり方で大きくジャンプをする。流石に一回のジャンプだけで二人を抱えたまま、10メートルはある城壁を超えるのは無理だ。
「ここで『紅霊服』の出番だ」
今、ジュンが着ている魔導武具にようやく名が付いた。その名が『紅霊服』と書き、リーパーと呼ぶ。紅が混ざった死神の服と言った簡単な意味になっている。
その紅霊服を使い、ジャンプしたジュンの足元へ広げて…………
シュッ!
音もそれ程でもなく、周りには聞こえてはいない。空中で紅霊服を足場にして、10メートルはある城壁を超えることに成功したのだった。向こうに見回りをしている兵士の気配がないこともわかっているので、堂々と庭へ着地した。
「説明を聞いたけど、ふざけた身体能力を持っているわね……」
「……兵士はいないみたいね」
テレサはジュンの能力に呆れ、アリアは周りを警戒して、兵士はいないか確認していた。ちなみに、テレサには神器のことを話していないから、テレサはジュンの身体能力が素で化け物だと思っている。元の能力でも充分に化け物クラスだが、テレサはそれを知らないのである。
「今の時間なら、王は寝室だと思うが……」
「いえ、私を殺しに来た刺客が帰ってこないことから何か起こったか察知しているはずです」
「なら、お前を探す兵士に命令を出したりしていて、まだ起きていると?」
「おそらくね」
推測が当たるなら、ダリュゲル国王は王の間にいる可能性が高い。兵士達に命令を出すなら、そこが一番やりやすいだろうし。
(なら、周りに兵士がいるのも考えた方がいいか。兵士はアリアに任せても大丈夫だろうな)
アリアは目撃者を消すことに躊躇しているのは、相手が何も出来ないただのメイドや執事みたいな使用人の場合である。だが、戦える者や武器を持ってこっちを殺しにくるなら、アリアも遠慮なくやれるのだ。
だから、兵士の数が多かったらアリアにも任せると考えながら、ジュン達は中へ入っていく。
「王の間へ向かうなら、そっちの道が一番近いですわよ」
「そういえば、王女様だったな。道案内は任せる」
「貴方は、私が王女様であることを忘れていたのね……」
怒りで怒鳴りたいと思ったが、今は潜入中なので、グッと耐えたのだった。そのテレサを気にしていないというように、音を立てずに先へ進んでいくジュン。アリアは呆れながらも、ジュンの後を着いていく。
見回りをしている兵士から隠れて少しずつ進んでいく。そして、王の間の近くまで着いた。
ここまではただ一人にも見つかっていないので、死んだ者は一人もいない。
「よし、突入するが、アリアはテレサを守っていろ」
「うん」
「すまないけど、お願いするわ」
テレサは戦えないし、一緒に来る必要はないので宿を借りることも考えたが、テレサが一緒に行くと言ったのだ。
自分が頼んだことであり、自分の眼で父親であるダリュゲル国王の死を見届ける義務があると。
ジュンは誰も立っていない時を狙い、大きなドアを蹴飛ばした。蹴飛ばした後に、ドアが吹き飛んで驚いた瞬間を狙って殺そうと考えての行動だったがーーーー
「む!?」
蹴飛ばしたドアの向こうは、炎の魔法がこっちへ襲い掛かってきているのが見えた。ジュンは咄嗟に紅霊服で盾にして防いだ。
「ジュン!大丈夫!?」
「あぁ。まさか、バレていたのか?」
「ふふっ、ネズミが入り込んでいましたね」
王の間には十人の騎士と五人の魔術師が並んでいて、それに守られるように後ろで立っている男がいた。
その男が暗殺対象のダリュゲル国王であり、嫌な笑みを浮かべながら話し掛けてきた。
「我が娘が連れてきたのがたった二人だけだったのが驚きだったが、お前達は罠に掛かったことを悔やみながら逝きなさい」
「お前がここの国王か」
ダリュゲル国王は痩せこけており、健全には見えなかった。だが、その顔にはニヤニヤな笑みを浮かべており、手には真っ黒な杖が握られていた。その杖を見ていたら、ダリュゲル国王が自慢するように話を始めた。
「ククッ、この杖が気になるか?この『堕天杖』は、数少ない神の武器、黒銀神器と呼ばれる物だ!私は選ばれた人間なのだ!!」
堕天杖と呼ばれる杖を恍惚な顔で胸に抱いていた。数少ない神器に選ばれた人間、それがダリュゲル国王の自信ともいえる根源である。
神器を持っているだけでも、選ばれた人間は超常な力を得るのは皆も周知であり、周りにいる騎士や魔術師はダリュゲル国王がいるだけでも誰にも負けるとはあり得ないと信じている。テレサ王女様が連れてきたジュン達がどんな人か知らなくても、負けることは一切も考えていなかった。
その相手に対して、ジュンはただ冷たい眼で見ているだけだった。ジュンが推測していた通りだったからだ。その推測とはーーーー
「……やはり、アイツがそんな物を作る訳がないか」
「アイツ?」
近くにいたアリアだけは聞こえたが、何のことかわかっていなかった。ジュンはその質問に答えず、ジュン達の周りを囲もうとする騎士の一人をーーーー
「か、かぺ……?」
「その程度で神器と呼べないだろう。魔力の量が全く違うしな」
「なーー!?」
既にジュンは動いており、ナイフを騎士の喉へ深く突き刺していた。刺された騎士は何が起こったかわからずまま、変な声を上げて死んだ。
近くにいた騎士はジュンの動きに反応出来ていなかった。
「さて、偽神器使いを殺すことにしようか」
暗殺から戦闘に切り替わり、ジュンがダリュゲル国王を殺すべく、動き出すのだった。