第二十三話 メルデア王国
はい、どうぞ!!
ジュンは異世界から来て、初めての街だ。ようやく身分証明出来る物が出来るなと思い、街の中へ進もうとしていたジュンはある所を見て、顔を歪めていた。ジュンの目にはメルデア王国へ入ろうとする行列が見えたからだ。
つまり、門で身分確認をしている可能性がある。身分を証明する物を持っていないジュンにしたら面倒なことだ。
「どうするの?」
アリアはジュンが身分を証明する物を持っていないことを知っている。アリアは帝国にいた時、ギルドで身分証明書を作ってあったので、問題はない。
「そうだな……」
考えていた時、商人と門番が話しているのが見え、そのやり取りにジュンの口が少しニヤけた。
「おい、次だ。身分を証明する物を見せろ」
「この子はあるけど、自分のは無くしてしまって証明する物がないんです」
「なら、お前は入ることが出来んな」
「まぁまぁ、そんなことを言わずに…………これを」
誰にも見えないように、門番の手に金貨を握らせた。それに気付いた門番はニヤッと口を一瞬だけ変え、すぐにいつもの表情に戻した。
「理由があるなら、仕方がないだろう。すぐにギルドで更新するんだぞ?」
「ありがとうございます」
笑顔で礼を返して、アリアのてを握って街の中へ入っていった。ちなみに、その金貨はゲール隊長から旅の資金として貰った金貨の内一枚だ。
手持ちにはまだ一カ月は宿を借りることが出来るだけの資金があるので、金貨一枚ぐらいは握らせても問題はなかった。
アリアはなんとも言えない表情をしていたが、ジュンが街に入れなかったら、ギルド登録することが出来なくて困るのはわかる。だが、アリアにしたらさっきのやり取りは複雑なことだった。
「ヤケに大人しかったな?」
「だって、さっきのやる必要あったの?」
「まぁな、さっきのは賄賂と言って、悪いことを黙って見逃して貰うためにやることだ。不法侵入のようなモノだが、夜に黙って侵入、バレて犯罪者になるよりはマシだろ?」
「うん……」
ジュンにしたら、リスクが低い方法を取っているだけで、さっきのが悪いことだと思っていないが。
「この程度で顔を顰めるぐらいなら、解放軍へ戻ったらどうだ?」
「むぅ、私と一緒は嫌なの?」
「嫌じゃないが、これから酷いものを見る可能性があるんだから、生半可な気持ちで着いてくるぐらいなら、解放軍にいた方がマシじゃないかと言いたいだけだ」
「嫌、ジュンから離れないもん。…………覚悟は出来ているんだから」
「そうか」
なら何も言うまいと、目的の場所へ向かった。そう、ギルドで身分を証明する物を作るためにだ。
必要な者は銀貨一枚だけあれば充分だと聞いている。それに、魔法を簡単に教えて貰える場所でもあるので、これから魔法を使えることにワクワクしていた。
「そういえば、アリアは魔法を使えるか?」
「うぅん、適性がなかったから」
「そうなのか」
アリアには適性がなくて、魔法を使えないようだ。だが、神器を扱えるだけでも魔法を使える魔術師よりも強いので、あまり気にしていない。
「確か、ギルドは王城の側に置かれているんだったな?」
ついでに、門番の人にギルドがある場所を聞いておいたのだ。目立つ王城から近いのもあって、迷わずに行けるだろうと進んでいくと、目に留まった場所を見つけた。
(む、向こうの空気がこことは、まるで違いすぎるな?)
見つけた場所とは、路地だったが向こうの敷地はここと違って汚れが目立つような気がした。ジュンは初めて来た異世界の街だったのもあり、気になったことは調べなければ気が済まないと思うようになっていた。
「アリア、向こうを見るぞ」
「えっ、あそこを?」
普通なら自分から行こうとは思わない場所に行こうと言われて、戸惑うアリアだった。だが、さっきの話を思い出して、「なんでもない」と言ってジュンについて行くことに決めていた。
ジュンはアリアが何を言おうとも、路地の道へ入っていくのは決定事項であった。商店などで賑わう道から外れて、細い道を進んでいくと迷宮みたいな路地裏になっていることがわかった。
「へぇ、迷宮みたいだな。しかし、なんでこんな敷居になってんだ?」
何故か、使われていないような建物もあったし、ただの壁のような物があった。壁を見て、ジュンは前の世界にあったベルリンの壁に似ているなと思った。
(隔離している……?)
違和感を感じながらも、ジュンは迷宮を進んでいく。アリアも逸れないようにローブを掴んで着いてきていた。街の中心にある王城が大きかったから、それを目印にしていたから迷うことはない。
そして、迷宮みたいな路地裏を出たら、何故、隔離するような壁があったのか理解した。
「成る程な。スラム街って奴か」
「これは…………うっ、臭い……」
王城が背にしている街、それはスラム街であった。その規模は高い建物の上に登って見ると、街の半分がスラム街になっているのがわかった。
「ふむ、迷宮や壁もここを隠すためか。ここの王国は腐ってんな」
「酷い……」
帝国でもこのような大規模になっているスラム街はない。ここの王国はどんな政治をしているのか?どうすれば、こんな規模のスラム街が出来上がるのか?気になったジュンだったが、そこまで深く突っ込むつもりはなく、…………
「戻るぞ。何があるかわかったしな」
「え、でもこの街は……」
「アリアは俺に王国へ喧嘩を売れと言うつもりか?」
「っ、…………そうだよね。ごめんなさい」
この問題は王国がなんとかする件であり、ジュンが何かやろうとしても、人には限界はある。一人で何が出来るのか、考えてみればわかることなので、不用意な言葉を出したアリアは謝った。
「はぁ、ここに長期滞在する予定だったが、ロクな王国じゃないとわかったなら、予定を変えるしかないな」
こんな規模のスラム街がある街に長期滞在したいとは思えず、ギルドに行って登録して一日だけ休んだらここを出て行くことに決めた。アリアを見ると、頷いてくれたので了承したという意味だろう。
「変なことに巻き込まれる前にここから出るぞ……「助けてーーーー!!」……って、もう遅かったか」
助けを求める声が聞こえ、アリアが向かってしまったからだ。ジュンは仕方がなく、後を追っていくのだった。その行動が大層な出会いになることを知らずに…………
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