第二話 選択
本日二話目!
今、純は夢でも見ているのか?と自分の眼を疑っていた。街がある方向へ向かって歩いていたが、初めて見る景色に目移りしてしまう。
昼間なのに、遠くにホタルの光のような物が見えたり、変な形をした花が近づいてきた小さな虫を素早い動きでパクッと咥えていたり、雲がないのに、雨が降ってきたりと不可不思議な景色に純は疲れているのかなと考える程に、地球ではありえない景色があった。
(他のもそうだが、アレはあり得んだろ!?)
純は咄嗟に木の影へ隠れていた。何故なら、向こうにハリネズミがいたからだ。
普通のハリネズミだったら、純は隠れる必要もなかったが、今回はそういかない。
二メートル超えのハリネズミがいたからだ。
それだけではなく、口には大きな牙が出ているのが見えた。こんな化け物は地球には絶対にいないと判断出来た。
「何故、そんな化け物が?自然に生まれたとは考えにくいし、研究や実験をした結果で生まれたのか?」
純は研究などの結果によって生まれたのかと考えるが、それどころではなかった。
ハリネズミの化け物がこっちへ向かって歩いているからだ。ハリネズミの化け物は正確に、純がいる木の影へ向かっていた。鼻が良いのか、先程、隠れていたのが見えていたのかわからないが、純は出来るだけ戦いを避けたいと思っている。
今、持っているベレッタやサバイバルナイフが効くかわからないし、怒らせるだけで終わってしまう可能性もある。さらに、ベレッタで撃った時、音でハリネズミみたいな他の化け物が現れるのもあり得る。
(なら!)
ハリネズミの化け物は純がいた木の影を覗いたが、そこには誰もいなかった。ハリネズミの化け物は鼻を動かして、純の匂いを探したが、ここで途切れているのがわかった。
ハリネズミの化け物は首を傾げながら、この場所から離れた。
(ふぅ……、戦いは避けられたか)
純は隠れていた木の上へ一瞬で飛び上がったから、匂いが上まで続かないで途切れたのだ。
気配を探ってみると、ハリネズミの化け物はすぐにここから離れていたのを感じたのでホッと息を吐いた。
「銃があるといえ、未知数の化け物の相手じゃなぁ……」
純は一応、手持ちを確認することに。腕には腕時計があり、腰にはサバイバルナイフが二本、ベレッタが一丁、ポケットにはライターとコンパスと非常食1日分と拳銃の弾が15発の弾倉が三セット。
弾は拳銃にセットされている弾倉も合わせると、60発分はある。純はサバイバルナイフでの戦闘能力も高いので、人間相手ならここまで不安にならないが、さっきの化け物相手に戦おうとは思えなかったのだ。格の違いを本能から理解していたからかもしれない。
純はやはり本能に従って良かったと喜ぶことになるのは後の話である…………
(まさか、と思うが…………)
純は一つの可能性を思いついていた。だが、すぐに信じられなくて、木の上から降りてすぐに街が見える場所まで走っていった。もちろん、化け物や獣がいない所を選びながらだが。
そしてーーーーーーーー
「はっ、ははは…………」
森を抜ければ、街が見えるはずなのに、目の前は草原だけで街などは無かった。純はその景色を前に乾いた笑い声をあげていた。
純は理解したのだ。否定もしようがないぐらいに。そうーーーー
「マジで、ここは別の世界かよ…………俺がトリップした?」
純は異世界へ行ってしまう話も小説でだが、聞いたことも読んだこともある。しかし、まさか自分が体験することになるなんて、一ミリも考えてなかった。
この時、純は周りの警戒も忘れて、しばらく茫然としていたが、運良く魔物や獣に見つかる事はなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
茫然していた純は数分後に気付いて、森の中へ戻っていた。さらに、魔物や獣から見つかる可能性を少しでも減らすために木の上に登っていた。
純はこれからどうするか考えるために、腰を落ち着かせている。
(ここが異世界なら、もう連絡は無理だな。なら、元の世界に帰るにはいかないな)
もし、帰れるようになったとしても、確実に連絡の期限である24時間は過ぎている筈なので、処罰が決まってしまう。戻っても、極秘特殊部隊の奴らに追われる可能性が高いので、このまま異世界で暮らしていた方がマシだと考えていた。
だが、そのためにはここでの生活を確実にしなければならない。
(この世界で、身分証明書はどうなっている?小説みたいにギルドとかあんのか?)
付け加えるが、純の服装は軍隊が着るような物ではなく、上下が真っ黒で防弾チョッキを着ているような服装である。この世界に来る前はヘルメットもあったが、倒れた時に無線と一緒に落としている。
夜なら目立たなくていいが、真っ昼間では怪しい人にしか見えないだろう。この世界の情報が欲しい純は誰かに聞く必要があるのだ。
(誰かと会話ができれ…………あ、言葉は通じるのか?)
今、気付いたが、言葉が通じるのか?だ。小説ではスキルなどで無理矢理通じているような設定があったが、現実にそうである可能性は全く無いのだ。
(くっ!俺の異世界トリップはヘルモードからスタートしろと言いたいのかよ!?)
ここへトリップさせた奴を恨んだ。もし、人間なら銃で額をぶち抜いてやる所だが、いるのは哀れな被害者だけで、加害者などはいない。
まず、話を聞いてくれる人を探すことだが、草原を見た限りは街の姿がなかった。なら、近くに村や町はないだろう。
食料が1日分しかないのを思い出して、食料と水を求めて川を探すことに。
「まずは、川か。草原には川はなかったのはわかっているから…………」
トンネルと草原があり方向とは別の方向へ向かって歩いていく。こんな自然がある場所に川がないのはあり得ないので、必ず川を見つけられると信じて歩いていく。
ーーーーーーーーーーーーーーー
腕時計を見ると、歩き始めてから二時間ぐらい経っていた。そして、ようやく川を見つけたのだった。
「おっ、綺麗な水だな」
川は透き通っていて、飲むには問題はなさそうに見えた。生水はお腹を壊す時もあるが、純は特殊なので生水どころか、弱い毒ぐらいは問題なかった。
(あの訓練が役立つとはな。極秘特殊部隊に入隊したての頃、知らずに毒入りの食事を食っていて、お腹をよく壊していたな…………)
毒入りといえ、下痢になる程度だったので死人は出ることは無かったといえ、3日は寝込んだ人もいた。純はお腹を壊すだけで済んでいたが。
そのお陰で、毒に対する耐性が生まれていた。
(魚がいれば良かったが、この辺りは浅いからいないか。もう少し深い場所がないか調べるか?)
純は川の上流に沿って歩いて見ると、川とは反対側に怪しい道を見つけた。
「あ?なんで、そんなとこに立て札と二つの道が?…………むっ」
気になった純は立て札の前に行くと、違和感を感じた。何かの道から切り離されたような感覚。まるで、立て札と二つの道が別の世界にあるような…………
それでも、純は違和感を感じたが、危険ではないと本能で理解したので立て札の前に立った。
「所々と掠れてんな。『チカ□ヲモトメル□ノヨ、□ノチヲカ□ルナラマエ□□スメ』か…………って、カタカナ!?」
立て札に書かれていたのが、カタカナだったことに驚愕した。まさか、この世界の文字はカタカナが主流なのか?と思いながら、考えてみる。
(これは恐らく、『力を求める者よ、命を賭けるなら前に進め』と書いてあるんだろうな)
つまり、ヒントではなく進むか戻るかのどちらかを選べと書いてあるのだ。ヒントなしで、前に進むなら命を賭けろとも言えるので、二つの道の中、一つは罠だということだろう。
「力を求めるか、生きていくのに力が重要なのはわかりやすいな。力が手に入るなら、戻る理由はないな」
純は立て札の通りに命を賭けて、前に進むことに決めた。そう、二つの道を選ばずに、立て札の後ろ、道なきの正解を選んだ。
(ヒントではなく、そのまま答えが書いてあるから驚きだものな)
立て札をよく読めばわかるが、立て札には、二つの道をどちらかを選べと書いてない。
だから、立て札の前と言える道なきの道が正解なのだ。証拠に、二つの道には、二体の化け物の姿が見えた。
右は八メートルもある鉄のゴーレム、左は身体中に口が沢山ある化け物で、涎が酸になっていて、下の草が死滅していた。姿が見えた時、純はギョッとしたが、お互いの姿が丸見えでも向こうはこっちのことに気付いてないように見えた。
(正解を選んだから、襲ってこないのはわかっているが、心臓に悪いな…………)
もし、不正解を選んでしまったら、純は間違いなく、死んでしまった可能性が高い。
鉄のゴーレムは銃やナイフは効かないし、涎が酸になっている化け物は酸を使った攻撃で銃やナイフでは防げずにやられていたのだろう。
(しかしな、ここは一体なんの場所だ?森の中のように見えて、別の場所にあるような感じがするんだよな)
二体の化け物の横を通り抜けて、姿が森によって見えなくなった所に、また二つの道と立て札が現れた。またカタカナで書かれていたが、今回は普通に読めた。
「またこのパターンか?何々…………、『右はスライム。左はグリフォン。戦いを避ける道を選べ』か……」
また真ん中を選ぼうとしたが、何かに遮られていて、進めなかった。さらに横の道なきの場所へ向かったが、真ん中と同様に進めなかった。
(戦いを避ける道を選べと書いてあるから、化け物…………いや、魔物でいいか。魔物がいる場所には行っては駄目だろうな)
そう、純の出した考えは正しかった。もし、二つの道へ向かったら魔物とは関係なく、厳重なトラップによって、殺されていただろう。
だが、道なきの場所を選んでも進めないなら、二つの道しかなくなる。
(…………あ、もう一つあるじゃん!!)
立て札には、戦いを避ける道を選べと書いてあるから通りに、道がある場所しか選べない。二つの道の他にもう一つだけの道がある。
それは…………
「さっき、進んだ道を戻れか」
そう言いながら、Uターンをして魔物がいない道を選んだ。戻った道は、既に純が歩いているので、道として機能している。
こうして、純は二つ目の問答に正解したのだった。
(ありゃ、右と左に化け物がいないな。別の道に変わっているということか)
暫く、歩いていくと3つ目の…………いや、最終問題と書かれた立て札と一本の道があった。
最後の道だと知り、気楽になる純だったが、読み進めると固まってしまう。
「なんだ、これは……?」
純が顔を顰めてしまうほどの問題とは?立て札に書かれているのを読み上げると…………
『自分の力である物を破壊して、進め。破壊することで道が開かれよう…………』
次があります!