第十八話 誘い
はい、続きをどうぞ!
少し前に遡る。
アリアとの別れを遂げて、解放軍の拠点から離れたジュンとそれに着いて行くチェリーだったが、急にジュンが足を止めて、
「忘れ物をしたから、戻る」
「えっ?」
と、そんなことを言っていた。そのまま、ジュンは解放軍の拠点がある方向へ向いた。
「ちょっ!?」
「お前は別について来なくてもいいぞ」
それだけを残して、夜咫烏で強化された脚力でこの場を離れる。チェリーが慌てて必死にジュンへついて行こうとするが、
「追いつけない!?早すぎるよぉぉぉーーーー…………」
ジュンはチェリーを振り切り、最後に見たアリアの笑顔を思い出して、イラついていた。
ジュンはそんな笑顔は気に入らないーー。
それだけで、解放軍と帝国が突撃していると思える場所へ向かったのだった。
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現在ではーー
「いつになれば、お兄様と呼ぶのやめるんだ。アリア?」
トーデルの”魔糸槍”を消し飛ばしたのは、夜咫烏を持つジュンの仕業だった。そのジュンは普通に歩いてアリア達がいるとこへ向かったのだった。
「え、ジュンお兄様……「えいっ」あうっ!?」
ジュンはアリアの前に立ったかと思ったら、どキツイデコピンを喰らわしたのだった。額は赤くなっており、痛みから涙目で上目遣いにて睨むアリア。
「何をす……あいっ!?」
「それはこっちのセリフだ。最後にそんな笑顔を見せて去るなんてどういうつもりだ?」
バシッ、ビシバシバシッ!!
ジュンは黙って連続でデコピンを喰らわしていた。皆は戦闘中だったのに、それらを無視してアリアにデコピンをしているのだから、ポカーンとしていた。
「お前は1人で抱えるタイプなんだな。だから、俺に助けを求めずに解放軍だけでやろうとしたんだろ?」
「うっ……」
「まぁ、想定外が起きたみたいがな」
トーデルが向こう側に立っていることから、トーデルは裏切ったか、元から仲間ではなかったのがわかる。
「だって……、ジュンお兄様は解放軍に入らないと……」
「馬鹿か、解放軍に入らなくても、方法はあったんだろ。解放軍の仲間としてではなく、友として、お願いをすればいいだけだろ?」
「あ……」
それなら、誰かの下につくことはなく、ジュンの助けを得られる。でも、敵は神器使いで他に25人の敵がいるのだ。このままではジュンが殺されると考えると、怖くなった。
アリアの表情に気付いたのか、ジュンは先程よりも弱く優しいデコピンをしつつ、微笑みを浮かべた。
「心配すんな。ここからは1人だけで充分だ」
ジュンは敵がいる方向へ向き、トーデルと向き合う形になった。さっきまで惚けていたトーデルだったが、”魔糸槍”を破ったことを思い出して警戒をしていた。
「…………まさか、魔道武具を二つも持っているとは思いませんでしたよ。しかも、使いこなしている風に見えます」
トーデルは、夜咫烏から白絶程の魔力を感じなかったため、神器ではなく魔道武具だと勘違いしていた。
「後から誘いを掛けようと思いましたが、ちょうど良いです。私と帝国へ来ませんか?あれ程の実力をお持ちなら、歓迎させて頂きますよ?」
「今度は帝国へ誘いかよ。もし、俺がここに来なかったら誘いは出来なかったんだろ?」
「いえ、居場所はわかっていましたから」
そう言って、白絶から薄く青白い光が浮かび出る。それは一本だけではなく、十数本も伸びていたのが見える。
その糸は、全ての解放軍へ繋がっていた。
「この糸があれば、誰も逃げられません。この糸を辿るだけで良かったのですよ」
「俺には付いていないように見えるが?」
よく見ると、ジュンだけには付いていなかった。
「まぁ、この魔力の糸はとても薄くて細いので他の者の魔力に紛れて見つけにくくすることが出来ますが、何故か貴方からは魔力を感じないのですよ。魔道武具を使っていることから、魔力はあるはずですが、隠すのがとても上手いのか。それで、貴方に付けたらすぐにバレそうなので、付けませんでした」
何故、ジュンから魔力が漏れ出ていないのかは、ジュンが持つ称号にある。『暗躍する者』は自分の気配、魔力を隠すことが出来る効果を持つ。
「付けなければ意味は…………成る程。だから、チェリーを監視役として一緒に行かせたわけか」
「ええ!貴方に付けられないなら、他の人ごと一緒に行かせればいいだけですよ」
チェリーを監視役として行かせたのは、トーデルがゲール隊長に進言したことであり、事が終われば帝国への誘いを掛ける予定だったのだ。
「ここに来たのは予想外でしたが、宜しければ帝国に来ませんか?貴方は帝国の考えに良く似ていると感じられましたが、どうですか?」
「……まぁ、確かに似ているかもしれんな」
「ジュンお兄様……」
ジュンは弱肉強食の考えである場所で生きてきた。弱者は弱いから脱落して死ぬ。強者は強いから生き残る。そんな世界で生きていたから、帝国の考えはよくわかる。
その言葉を聞いたトーデルは笑顔を浮かべる。
「そうでしょうね。その強さは、誰かを蹴り落として生きていないと手に入らない。それをしてきた私にはよーくわかりますよ!!帝国では、誰かの下につくようにと命令はありません。高い地位を貰うことが出来れば、自分がしたいように生きることも出来ます!!さぁ、一緒に行きませんか!!」
トーデルは断れるのを考えてもないように、手を差し出していた。必ずジュンは手を取ると。
ジュンの答えはーーーー
「断る」
「は?」
答えは否だった。後ろで聞いていたアリアは笑顔になった。反対にトーデルは呆気に取られたような表情だった。
「な、何故……?」
「確かに、強者が生き残り、弱者が死ぬという考えは似ているかもしれないな」
「だ、だったら……」
「だが、それは自分の考えでしかないだろ?」
ジュンは考え方は帝国のと似ているかもしれないと言ったが、行動は違うと言いたいのだ。ジュンは自分の考えを帝国のように他の人に押し付けることはしない。
ジュンは相手が弱者だとしても、帝国のようにただ蹂躙をすることはなく、敵ではないなら関わらない。敵だったら遠慮なく消すが、帝国のように弱者を安易に見下すことはない。
そこがジュンと帝国の違いである。
「俺は俺がしたいようにするが、帝国のように敵ではない弱者を貶めることはしない。敵だけ(・・・・)が俺の排除対象だ」
「…………仕方がありませんね。貴方はロンとは違い、一緒に楽しめるかと思いましたが、残念です」
この話は破断したなら、ジュンは敵となる。トーデルも敵なら容赦はしない。『白絶』を持って、敵を消す。
「魔道武具を二つ持っていようが、今まで熟練してきた神器に勝てない。死ね」
「やれやれ、夜咫烏を魔道武具如きと一緒にしないで欲しいな」
「何?」
ジュンはトーデルを狙わずに、後ろにいた偵察部隊の数人を狙い、引き鉄を引いた。
こっちへ向けられているとわかった『空』の魔術師が強固な結界を張った。普通の銃どころか、魔道武具の威力でさえ、耐える高等な結界が偵察部隊を守る。
結界が魔道武具を防ぐと信じきっていた偵察部隊だったがーーーー
バリィィィィ!!
結界は割れ、『空』の魔術師を含めた数人が消し飛んだ。
「な、何だと!?」
「さっきのが50%。これでも、魔道武具だと言い張るつもりか?」
「ま、まさか…………」
後ろにいたアリア達も驚いていた。さっきの結界はあっさりと破れる強度ではないと見破っていたから、あり得ないと思いながらもジュンの持つ銃に視線が向けられていた。
「俺の神器、『黒銀神器』のNo.4、『夜咫烏』がお前達をあの世に送る名になる。覚えとけ」
この一撃が、神器同士の戦いへの狼煙を上げることになったのだった…………
次回は戦いになります!
続きをお楽しみにしてくださいね!!