第十七話 覚醒
『白桜』に付属している丸いアクセサリーが桃色に光り、皆を包んだ。
「何ぃ!?」
迫った魔力の糸は桃色に光っている球体のような壁に弾かれて消えた。トーデルは『白桜』に付属しているアクセサリーが光っていることに気付いて、笑みを浮かべていた。
「ははっ!まさか、土壇場に『白桜』を覚醒させるとはな!!はははーーーー!!」
「トーデル様!神器を発現したとなると…………」
「ははふふっ…………………………、ふう。大丈夫ですよ、アレはまだ一段階の能力を発現しただけで、刀身はまだ輝きを取り戻していないですよ」
指を指して、刀身の方へ目を向かせると、桃色に光っているのはアクセサリーだけで刀身は前から変わらないように、斬れ味が悪い刀身のままだった。
トーデルが言ったように、一段階の能力を発現しただけで、完全に白桜を扱えてないのだ。その根拠に、発動したアリアの顔は汗いっぱいで白桜を支えにしていた。
「はぁ、はぁはぁ…………」
「アリア!大丈夫か!?」
ジョバンニがいつでも倒れそうなアリアの身体を支えていた。顔色が悪い理由は明確である。
今、発動している白桜がアリアの魔力を必要以上に魔力を吸い続けているからだ。本来なら、この桃色に光っている皆を守る光である”守殿”は発動している間は魔力を吸い続けなくても、初めに発動した時に使われる魔力で充分なのだ。だが、アリアは魔力の操作に慣れていなくて、感情のままに全力を込めていたのが悪かった。
発動を止めれば、魔力の無駄遣いはなくなるがトーデルは消した瞬間に攻撃をしてくるのだろう。
「皆は、魔法であそこを攻撃し続けてください!消えたら私が次を張る間もなく、切り裂いてあげますので」
「はっ!」
偵察部隊で魔法を使える者が、解放軍を守っている”守殿”に向けて火、雷、土などが攻撃し続ける。
「あぁっ!?」
「アリア!?」
攻撃されてから、吸われる魔力が増えてきた。”守殿”はこの程度の魔法であっさりと壊されることはなく防いでいたが、それは無傷ではない。
光にヒビが入っていくというのはおかしな表現であるが、実際にもヒビが入っていき、アリアから吸った魔力で修復されていく。
「なっ、修復していくのか!?」
「大丈夫です。修復していますが、魔力は無限ではない。アリアの魔力が切れるまで続ければ、あの光は消えます」
攻撃をしても、修復されていくことに驚く偵察部隊だったが、白桜に詳しいトーデルは”守殿”の弱点を晒すことで、偵察部隊の懸念を消してあげた。
魔法の嵐から守られている解放軍だったが、今は何も出来ないでいた。
打って出ようとしても、光の壁に阻まれて出れず、もし出れたとしても、魔法の嵐によって命を落とすのが見えている。
そう、言葉通りに手を出せないのだ。アリアが頑張っている”守殿”も魔力が切れてしまえば、消えてしまうので時間の問題だと言えた。
「ふふっ、考えてみれば白桜を取り返せても適合者を探し出すのも面倒ですし、もしアリアが帝国のために働くなら、ここにいる者だけは見逃しても構いませんよ?」
「っ!?」
このまま押し切れば、百%はトーデルの勝ちで終わるだろう。だが、倒した後に白桜の適合者を見つけ出すのに、時間が掛かるのもあるから、アリアが帝国に降るなら後が楽になると考えての提案だ。
「ですが、アリアには私の奴隷に落ちてもらいますよ。後から逃がしては堪りませんからね」
「それはそれは……あとで私にも楽しませて頂けますかな?」
「構わない。私の管轄ではなかったのに、動いてくれたのですから、そのお礼ぐらいはしますよ」
偵察部隊の隊長は下卑たような表情でアリアの身体を見ていた。アリアは下卑た男の視線に怖気を感じるが、皆が助かるには帝国に降り、トーデルの奴隷に落ちるしかない。
奴隷に落ちて弄ばれるのは嫌だが、皆が助かるなら…………と考えていたら、
「ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ジョバンニが声を荒げて怒っていた。それに続くようにメンバーの二人もその提案に乗るぐらいなら、死んだ方がマシだと叫び続ける。
「へっ、俺らの解放軍には子供を差し出して、生き延びるような奴らはいねぇぐあぁぁぁっ!!」
「…………そのようですね」
またゲール隊長を踏み躙り、傷痕からは大量の血が流れ出ている。
「なんでなの……?」
「へっ、ザダン様の元で死ねないのは残念だが、子供を差し出して生き延びる程に強かじゃないからな」
「そうよ、私は解放軍に入って後悔はしてないわよ」
「ええ、アリアちゃんもクソトーデルの言う通りにしなくてもいいのよ。私達が生きるために貴女が犠牲になるのは許さないわ」
「み、皆……」
皆は元から死の覚悟をしていた。アリアは自分の犠牲を決意していた心が砕かれ、自分は自分がしたいようにすることに決めた。
「ありがとう……」
皆を守りたい、その気持ちは変わってはいない。だが、現実は非情であり魔力はあと僅かで何回か魔法を放たれたら光の壁は砕かれてしまうだろう。
「いいんだな?弱き者を守って死ぬ。しかも、守ろうとしている者も死なさせてだ」
「い、いい……、トーデル……いえ、お前みたいに堕ちるぐらいなら!!」
「そうか、もう死ね」
トーデルも攻撃に加わることに。神器の力があれば、魔法の何発かは補える。魔力の糸が形を模っていき、一本の槍が生まれた。
「”魔糸槍”!!」
シュッ!と凄い勢いを持って、一本の槍がもう限界に近い”守殿”に向かって放たれた。
”守殿”と”魔糸槍”が激突し、その勝負は何秒もしない内に決着が付いた。バリィィィーー!!と光の壁が割れる音を立てて、槍はそのままアリアの顔へーーーー
周りにいた仲間も槍がアリアの顔へ向かっているのが見えていたが、反応が出来なかった。突き飛ばす暇もなく、代わりに盾になることも出来ない。
アリアは死が迫っている、と理解出来たが消耗した身体では避けることも出来ない。ゆっくり迫っていると感じられたアリアはたった一言だけ発していた。
「ジュンお兄様……」
と。そのままアリアの顔を貫くーーーー
ドバァァァッ!!
前に、魔力の糸で出来た槍が銃声の音と同時に消え去っていた。
「なっ!?」
トーデルの声が聞こえたが、アリアはそんなものよりも、他に聞こえてきた声があり、そこへ向けられていた。そこには、『夜咫烏』を持っている赤いローブの男が立っていた。そう…………
「何回言えば、お兄様を付けるの止めろと言えばわかるんだ?」
ニッと笑って『夜咫烏』を肩に構えるジュン・ヤガミの姿があったのだった…………
ジュンの出番が来ました!!