第十五話 強襲
はい、どうぞ
森の奥には、解放軍の拠点から離れたジュンと監視のために着いて行くチェリーの姿があった。
しばらく歩いた後に、チェリーから声を掛けてきた。
「貴方も解放軍に入ればいいのに……。アリアも凄い懐いていたし」
「あ?俺はもう誰かの下に着くのは勘弁だからな。強い弱いに関係なくな……」
「あら、弱い人の下に着きたくないと聞いたけど、強い人でも?」
ジョバンニにはそう言った方が早かったから、そう言っただけで本当は誰かの下に着くつもりはなかった。
「お前はどうして解放軍に入ったんだ?」
「私?殺したい人が帝国にいるからねー」
「ふーん、他の人も似た者か?」
「そうね。アリアみたいに仇討ちも入れば、現状に不満があって入った人もいるわよ」
解放軍は、帝国の『覇』を制する政治について行けなくて、民に『覇』を強要して実力主義を通す帝国を終わらせるために作られた組織である。
東の大陸でも、アステミス王国に対する敵対戦力がいると噂で聞いたことがあるが、大陸が違うため、あまり話は聞かない。
「それで、仲間を集めているってわけよ」
「ふーん、でも帝国には勝てないだろ?」
「うん、今はね。神器使いがいるかいないで大きく違うからねー」
解放軍に神器使いはいるのか?と聞いてみたが、そこまでは教えてくれなかった。ジュンは解放軍に入ってもいないから、教えなくて当たり前だろう。
だが、解放軍に神器使いがいるのは間違いないとジュンは思う。ではないと、解放軍が決起するには実力が違いすぎるからだ。アリアは認められてはいないが、『神器』を持っていた。
ただ歩くのは暇だったから、チェリーと会話を続けていたが、後ろから誰かが来ていることに気付いた。隠そうとも思ってない走りで近付いているから、敵じゃないと思うが、警戒だけはしておく。
そして、現れたのは…………
「アリア?」
「ジュンお兄様!」
「アリア!?ゲール隊長はシャオウと一緒にいなさいと言っていたでしょ!!」
「ま、まだ作戦は開始されてないから、大丈夫なの……」
さらに、アリアはちゃんとトーデルにジュンへ少しだけ会いに行くと伝えたから大丈夫だもん……と呟いていた。その呟きが聞こえていた二人は呆れていた。
「ゲール隊長とシャオウに黙って来るなんて……」
「トーデルが、なんとかしてあげると言っていたから大丈夫!!」
「そういう問題じゃなくてね……」
チェリーは頭を痛そうにこめかみに手を抑えていた。トーデルはどう誤魔化すつもりなんだ?と考えているだろう。
「で、何の用だ?」
「ジュンお兄様……これを」
小さな包み袋を渡された。中身を見てみると、帝国で使われている通貨で、金額はそんなにないが、宿を一週間ぐらいは借りることが出来る額が入っていた。
「お礼を返せなかったから、私のお小遣いで少ないけど……」
「お礼はいいと言ったが、これは助かる」
今のジュンは無一文なので、宿に泊まれる額を貰えただけでも充分だった。アリアはこれを渡す為だけに隊長に黙って抜け出したわけじゃないだろう。他に何があるのか、アリアの口から出るまで待ってあげた。
だが、アリアはその言葉を言い淀むように、口を閉ざしてしまった。暫くして、アリアはーーーー
「あ、ありがとう……、今まで助けてもらったり、教えてもらったりして……」
ジュンはその言葉に違和感を感じた。心のことを他の人よりも理解しているジュンだったからこそ、気付いた違和感だった。
表情も笑顔だったが、ジュンは悲しそうな顔にしか見えなかった。
「バイバイ……」
アリアはペコっと頭を下げて、元の道を辿って帰っていった。姿が見えなくなるまで、ジュンはずっと見ていた。
そして、イライラしてきた。
「……行くぞ」
「わ、なんで機嫌が悪いの?」
「知るかよ」
チェリーの顔を見ずに、アリアと反対側を歩いていった…………
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アリアが勝手にシャオウから離れたことはやはり怒られた。ゲール隊長からは拳骨を貰い、アリアの頭にコブが出来ていた。
トーデルがなんとかすると言っていたが、役に立ってはいなかったようだ。
「はぁ、もうこんなことをするな」
「わかったよぅ」
今は、アリアはシャオウと一緒で他の仲間とは別行動をしていた。光が立った場所を決戦場所とし、待ち伏せをする解放軍の本隊と狙撃を受け持つシャオウにシャオウを護る護衛役としてアリアが設置されている。
本隊は二人以外の全員が出る手筈となっており、11人が待機している。その中には、ゲール隊長とトーデル副隊長、ジョバンニの姿があった。
狙撃をするシャオウはジュンのようにキロ単位で狙撃をする腕はないので、せいぜい500メートルが限界である。確実に撃ち抜くために、300メートル離れた場所にアリアと一緒で身を潜めている。
「あと少しで、偵察部隊が到着致します!」
「よし、向こうの方が人数が多い。だから、真正面から出るのは数人だけで、他は隙を見て囲め。魔道武具を持つ人がいても、シャオウが撃ち抜く」
真正面に出る囮役は、二人。ここにいる解放軍の中で一番と二番の地位を持つ男達が出る。二人は魔法を使えるので、真正面に出た瞬間に魔法を使う。
単調な魔法は戦いになれている兵士には効果が薄いが、それが合図となり、他の人が囲むといった作戦になる。
「そろそろ来ます」
「ああ、トーデルもいいな?」
「ええ」
解放軍としての働きが始まる、小さな戦いだが、世界の流れを作り出す程に大きく動くことになる。
帝国の偵察部隊の姿が現れ、光が立った場所を調べていく。ここから、ゲール隊長とトーデル副隊長が真正面から現れ、魔法を使う筈だった。
なのに、魔法が発動されたのは、一つだけだった。それは帝国の兵士には当たらず、空に消えていった。何故なら…………
「やれやれ、計画を前倒しになるなんてね」
「え、げぶぇあーーーー」
トーデル副隊長がゲール隊長をナイフで背中を刺していたからだ。魔法が放たれたことにより、解放軍の仲間が現れるが、状況を読めてはいなかった。
帝国側は解放軍が現れるのがわかっていたように、陣を敷いて囲む解放軍へ剣を向けていた。
「さて、解放軍…………いえ、反乱軍を消す仕事を始めましょうか」
「はっ、トーデル様の言う通りに反乱軍を潰せ!」
トーデル様、そう呼ばれて、ゲール隊長を刺したことから解放軍の皆はトーデル副隊長の正体を理解していくのだ。
トーデル副隊長は裏切り、それか元から帝国を裏切っていなかったということになる。トーデルは懐から白い手袋を取り出して嵌めていた。
「き、貴様……」
「失礼ですね、私は貴方程度に呼ばれる筋はありませんよ。帝国第九位神器使い、『トーデル・ライドム』。それが私の肩書きです」
「な、神器、使いだと……」
急に自分が神器使いだと言われて、正常な反応を返せないのは仕方がないだろう。まさか、仲間だと思っていたトーデル副隊長が帝国の神器使いだと思わなかったのだから、その衝撃は凄かった。
「この『白銀神器』のNo.42、『白絶』で反乱軍を片付けてあげましょう」