第十一話 コカトリス
はい、どうぞ!
コカトリスが持つ石化成分はタンパク質に反応して、石化反応を起こすと言われている。生き物にとっては危険な存在であり、軍隊で当たる二級魔物の範疇に入る化け物である。
もちろん、三人だけで挑もうとするなんて普通は考えられないことだ。だが、ジュンはそれを狙っている。
トーデルからは舌が蕩ける程に上手いと聞いているから、ぜひ食べてみたいと思ったからだ…………
「やめようぜ、なぁ?」
「ここまで来て、何を言ってるんだ?」
ここは森から離れた場所にある荒野。ここがコカトリスの生息地である。アリアはジョバンニの意見に賛成のようで、ローブを引っ張って歩きを止めようと頑張っていた。
身体の大きさに力が違うから、反対に引き摺られて足跡が伸びていた。
「元から一人でやるつもりだったんだから、離せよ」
「だ、駄目!危険なの!!」
「そう言うなよ、あの化け物は少なくとも、『空』の魔術師がいないと話にならないんだからよ」
『空』の魔術師は結界を作り出すことに特化にしており、壁になる魔法がないと石化攻撃であっという間に全滅という話もある。
ジュンもトーデルからそのような話を聞いたことがあるから、知っているし、対策もある。
「対策?あんのか?」
「問題はない。お前は見ているだけでいい。アリアもな」
「私も……」
どうしてもジュンが戦うなら、アリアも手伝いたいと考えていた。コカトリスは怖いが、ここで恩人であるジュンが死ぬのは嫌だった。ロンお兄様と同じ顔をしているからかもしれないが……
「見つけた」
「見つけちゃったよ……」
大きな身体をした鳥、赤いトサカで喉には石化成分が含まれる喉袋を持っていた。間違いなく、コカトリスだとわかる。
「お前達はここにいろ。アレは一人で充分だ。ジョバンニ、アリアを抑えていろ」
「待っーー」
ジュンはとっくに飛び出しており、アリアも行こうとしたがジョバンニに抑えられていた。ジョバンニはアリアが行っても足手纏いにしかならないから、行かせなかった。
「なんで、止めるの!」
「お前が行っても何も出来ないんだよ。ジュンが言う対策を信じてやろうぜ?…………俺もジュンが勝てるかわからんが」
「離してなのー!」
2人が騒ぐ中、ジュンはコカトリスの死角から音を立てずに走り抜ける。ナイフを抜き、通り抜けるようにコカトリスの腹を切り裂いていく。
「ゴガァッ!?」
「他の魔物よりは硬くないが、このくらいでは致命傷にならないか」
本当ならこんなに隙だらけなら、首を狙うが、コカトリスには石化成分が含まれる喉袋を持っているから腹を狙ったのだ。
(夜咫烏なら、一撃で倒せるけど、威力の調整を間違えたら、食べる部分が少なくなりそうだな)
その理由もあるが、まだ信用をしていない二人が近くで見ている所で自分の実力を余り見せるつもりはない。
だから、ナイフで倒すと前から決めていた。
腹を斬られたコカトリスは、血を垂れ流しながらも、鋭い爪を持つ脚で足蹴りをしてきた。
だが、ジュンはその動きが良く見えていて、届かない距離まで離れて掠らせることもなかった。
「ゴ、コケェェェェェェェ!!」
コカトリスはそのまま、石化成分を吐いてきた。灰色のブレスがジュンへ向かい、そのままでは当たるように二人はそう見えていた。
「ジュンお兄様!!」
「問題はねぇよ」
ジュンの言う通りに、問題はなかった。着ているローブが伸びて、振り回すと、石化のブレスが横へ流される。
「コケッ!?」
「対策とはこれのことだっ!!」
コカトリスが持つ石化成分は、タンパク質にしか反応しないから、赤いローブは石化しない。
防いだジュンは、そのまま、ローブでコカトリスの顔を巻きつかせた。また石化のブレスを吐いてきても、上へ向かうように出口を作ってあるから、ジュンは石化のブレスを気にすることはなくなった。
さらに、視界も防がれているため、前が見えなくてがむしゃらに暴れるしか出来ない。
「石化は封じた。次は、脚だな!!」
ジュンはまず、コカトリスの武器を削ぎ落とし、タフな体力を削っていくことに動く。
「ゴガァッ、コケェェェェェェェ!!」
脚の付け根を狙い、斬り裂いたが普通のナイフでは一撃で斬り落とせなかった。だが、何回もやれば、斬り落とせる自信はあった。
「動物の解体は得意なんだよな」
ジュンはニヤッと笑い、何回か斬りつけて、一本目の脚を落とした。
絶叫を上げるコカトリスは、そのままやられるつもりはなく、脚一本を斬られても立てていたが、わざと倒れて自分の身体で押し潰そうとする。
コカトリスの体調は二メートルぐらいだが、重さは人間の5倍はある。その重さで押し潰されたら、骨一本は逝っていただろう。
だが、ジュンにしたら悪あがきでしかない攻撃は横へ避けるだけでコカトリスの攻撃は無駄に終わった。
「わざわざ、倒れて解体されようとするなんて、いい心掛けだ」
小さくて飛べない羽を一生懸命に動かして、立とうとしても、脚が一本だけでは立てない。その脚もすぐに斬られたため、コカトリスは立つことはなくなった。
「石化の喉袋がある場所はいらん」
ジュンはまな板の上にいる魚を捌くように、いらない箇所、石化の喉袋がある場所から頭は傷をつけずに、石化の喉袋の下を斬り裂いた。
コカトリスにしたら、生きたまま解体されている状態なので、絶叫が上がり続けて痛みが身体を痙攣させていた。
それを見た二人が顔を青ざめて、解体しているジュンに近づいた。
「な、なぁ……、トドメをさしてから解体した方がいいんじゃないか?」
「い、痛そうだよ……」
「あのな、包んでいる頭は外したら石化のブレスを吐いてくるぞ?喉を狙おうとしても、石化の喉袋が邪魔だ。魔物だから心臓がある場所は知らないしな」
だから、大量失血で死んでもらおうと考え、生きたまま解体しているのだ。二人に説明している時も手を動かしていたからか、話の途中で鳴いていたコカトリスは静かになっていた。
ようやく死んだようで、アリアは絶叫を聞くことがなくなったことにホッとしていた。
「しかしな、まさかコカトリスを一人で倒すとはな……。あ、あの魔石が心臓だ」
「これが二級魔物と呼ばれる理由は知らんが、弱かったな。……これが心臓なのか」
ジュンの手の平に収まる赤黒い石、これが魔物の心臓になり、壊されると魔物は死ぬ。
ジョバンニから聞いたが、魔石は様々なエネルギーになるようで高く売れるようだ。二級魔物の魔石となれば、一ヶ月は生活出来る金額になるようだ。
「ジュンお兄様は凄く強いね……」
「コカトリスが弱かっただけだ。アリアも戦い様では簡単に殺せるぞ?暇な時に教えてやるよ」
「い、いい。コカトリスじゃなくて、人間相手の戦い方がいい」
「あー、帝国を倒したいんだったな」
話しながらも、手は止まらず綺麗に捌いていった。わからない部分はジョバンニに聞いているが、綺麗に捌かれていくことに、ジョバンニとアリアは感心していた。
「上手いもんだな」
「前から山で良くキャンプをしていたからな」
「キャンプ?」
キャンプと言う程に生易しくはないサバイバル、ジュンは一ヶ月も無人島へ連れて行かれて、生活をしたことがある。それが年に二回もあれば、動物を捌くのも上手くなるだろう。
昔のことを思い出したジュンはコカトリスの解体に黙って無表情でいるのだった。
その様子を見たアリアは大丈夫……?と心配して顔を見ていたのだった…………