8話 撤収
「おい、じーさん。……またボーッとしやがって……」
青年―――シュウイチは壁にもたれ、腕を組み、ジェームスと同じように空を仰ぎながら、呟いた。そして、少しばかり時が経ち、ジェームスは仰ぐのをやめた。
と、そこで、ジェームスはシュウイチの足元に人の大きさの黒い袋を見かけた。
「……彼は、ダメ……だったのか……」
「……あぁ、レミーの言うとおりに応急処置をしたが、もう……」
「……すまないね」
ジェームスはシュウイチの肩をポンポンと叩くことで慰める。そしてインカムに手を当て、ジェラードと通話する。
「ジェラード、ジェームスだ。何とか最悪のケースは免れたよ」
『りょーかい。お疲れ様です。……で、いつも通り、本部と繋げばいいのかい?』
ジェームスの、少し疲れた声を聞いたジェラードは、労いながらそう聞いた。ジェームスは二つ返事で頼む。
『それじゃあ……どうぞ』
「本部に報告、こちら『対付喪神特別戦闘班』」
『こちら『付喪神特別対策本部』』
機械のように淡々と話す、男の声が聞こえた。
「結界をひとつ消費した。班員に怪我人なし。ただ……」
『……続けて下さい』
本当に、冷淡な声だ……とジェームスは思った。チラッとシュウイチの方を見る。彼は煙草に火をつけているがレミーと言い合っているのか、少し騒がしかった。でも、ジェームスの視線は彼ではない。
……足元にある、黒い袋に包まれた"彼"だった。
「アイテム化の失敗により、銃型付喪神は消滅。その際の空間エネルギーにより、犯人も死亡。特別清掃班に後処理を要請したい」
『了解。作戦は終了。対付喪神特別戦闘班はその場から撤退せよ』
すると、通話が向こうから切られる音がした。ジェームスは「……了解」と呟き、耳に当ててた指を離し、喪服をパンパンと払った。
「シュウイチ、夫婦漫才の最中に済まないが―――」
「『誰が夫婦だっ!』」
今度はジェームスの耳元から大声が響く。あまりの大声に、ジェームスは耳鳴りが聞こえたのか、インカムを外した。
「グォッホ! ゴホッゴホッ!」
『―――たく、俺のマイクを取るなよな……って、ジェームスさん、大丈夫かい?』
「……あぁ、大丈夫さ。心臓も止まってない……ただ、急に席を立って他のオペレータのマイクを取るのは注意して欲しいところだけどね」
優しい口調で言うジェームス。ジェラードは小さく「済まない」と呟いた。
「取り敢えず、諸君」
「……」
「撤退だ。清掃班が後片付けをしてくれる」
「了解だ―――っと……」
シュウイチはその黒い袋に向かい、何かを想うように……手を、合わせた。……日本人、か……ジェームスは少し呟いて帽子を被り直す。そして、裏路地をそのまま真っ直ぐに進んで行くのだった。
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それと、この話以降は亀更新になるかもです。