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7話 仕事

 空はよく晴れて、青空が見える。だが、建物の壁に挟まれてその空だけが眩しく見えた。

 ジェームスはある大通りの裏路地にいた。そして、空を睨むように仰いでいると、腕を組みながら壁にもたれかかる青年が言った。


「おい、じーさん。ボーッとしてねぇでさっさと行こうぜ? こんなごみ溜みてぇなクッソほせぇ路地、誰も好き好んでこねぇっての」

「ははは、すまない。最近、家族が増えたからね」


 帽子を被りなおし、青年の方、路地の奥へと歩み出す。青年も持たれるのをやめ、ジェームスの後をついていった。


「へぇ~、ヤったの? その歳で?」

『失礼なこと聞いてんじゃ無いわよ!!!』


 突然、青年の耳から大きな声が響く。青年は一瞬仰け反り、右耳を抑え猫背になりながら「大声を出さないでくれよ……」と呟く。ジェームスはフッフッフと笑うと、「ジェラード、君が私のオペレータで良かったよ」と呟いた。

 すると、ジェームスの耳元から「全くだね」と微笑を含んだ声が聞こえる。それに反応してか、青年はムッとした顔でジェームスを睨んだ。


「じーさん、レミーとジェラードを交代してくれよぉ」

「ハッハ、お似合いなのにかい?」

「『なっ!?』」


 二人の声が丁度、重なって聞こえた。ジェームスにもレミーの声が聞こえたことからわかる通り、青年はまたも体を仰け反らせていた。


「〜かー! インカムの音量、ミスってんじゃねぇのか!? はぁー、畜生、耳がイカれるぜ」


 青年はため息をついて、ジェームスについていく。この分だと、もうひと悶着ありそうだ、とジェームスは笑った。

 そして、暫くするとジェームスは立ち止まった。

 それと同時に青年も静かになり、ジェームスの後ろにつく。


「いたか?」

「あぁ。二人」


 二人の視線の先には一組の男女がいた。男性は女性を抱きしめ、女性はそれに応える。とても中のいいカップルだ。しかし、女性はそのすぐ後ろで空間エネルギーを使用し、ある一点から保存されていた物質、物を取り出したのだ。


「女だな」

「あぁ、彼女が付喪神だ。……動いた」


 二人は様子を見る。しかし、彼女は取り出した物を男性に渡した瞬間、二人はそのカップルの前に出た。


「失礼。その手に持つ御札を、渡してもらおうか」

「なっ!?」「……っ!?」


 男の表情は焦りと驚き、女性には不安と怒りが浮かんだ。


「私達の、邪魔をしないで!」


 女性はキッと睨みながら、男性の腕に組み付いた。


「おぉいおい、その札を使うってぇ意味、分かってんのか? アイテム化するってことだぞ? 法律で禁止されている上に、もう二度と二人が会えることは無いんだぜ?」

「……覚悟は、できている。それに、アイテム化した後の君でも、俺はずっと愛している」「……うん」

「……逆効果だね、シュウイチ。でも、何としてでも―――」


 青年――シュウイチが、挑発するように説得すると、逆に二人の覚悟を決めさせてしまった。

 すると、男は懐からM1911拳銃(ガバメント)を取り出す。それに一瞬で反応し、ジェームスたちもM92F拳銃(ベレッタ)を構えた。だが、予想に反して、男はその銃に御札をつけた。最悪な状況だ。


「……俺は元から犯罪者だった。だが、彼女に会えて、俺は改心できた。彼女を守る為に、彼女をこの銃に宿す。守り通す為に……そして、二人で、遠くに―――」

「じーさん!!!」

「あぁ、頼むよ!」


 二人は男から銃を奪おうとするが、男はそれを避け、引き金を引く。タンっという乾いた音が響くが、二人は間髪入れずに避け、物陰に隠れた。


「くっそ! あぶねぇなぁ!」

「マズイね、これは……」


 彼女の胸の中心から光が放たれ、それが空中に浮いて出てきた。その光の中心は更に移動し、ゆっくりと、男の手の中にある銃に近づいた。


「クソが! 待てっ――」

「ダメだ、近づくよりも結界を―――」


 瞬間、四次元の門(点)が開かれた(生まれた)。

 彼女は蒼い焰のようなものを身に纏い、体の形を幾何学から遠退いた「何か」になり、その四次元に取り込まれる。


「これで……彼女と、ずっと一緒に―――」

「【[《あアア゛ア゛あ゛あ゛亜゛有゛あぁあ゛!?》]】」


 彼氏は涙を流して喜ぶ。が、その声は彼女のものとは思えない叫びによって掻き消された。そして、それに反応するかのように、その門(点)は彼氏から何から、吸収しようとする。


「うがあぁぁぁあががあがぐぐぎぃぃいいいい!?」

「拙い! 早く!」

「できた! じーさん!」


 シュウイチがそう言った瞬間、彼女らを囲むように四角形が地面にでき、四角柱のように白の半透明の結界が天にまで伸びてできた。

 地面まで飲み込もうとする門(点)は、その柱内の空間をもぎ取る。ジェームスは迷う事なくその柱内へと飛び込んだ。


「じーさんが入った。プランBに移行した!」

「あーあ、始末書ものになるかなぁ……」


 シュウイチははぁ、と溜息をついてその結界に触れ続ける。


「早くしてくれよ、じーさん。俺ももたなくなるぜ」




 幾何学のそれ、理から外れたような空間の中に彼女はいた。彼女の背、その遠くに彼氏は歩き、離れていく。

 彼女が血のように朱い涙を流していることから、彼女の心の中の彼は彼女を裏切った様だ。信じきれていなかったからだろうとジェームスは思った。


「こんにちは、お嬢さん」


 ジェームスがそう挨拶をすると、俯いていた彼女がバッと顔を上げた。その顔にはお面が付いていた。赤い涙の伝った真っ白なお面。しかし、ハワードは気にせずに彼女に近づく。


「お面をつけて、何も見ない……何も受け付けないようにしたのか……。でも、私を受け入れてくれてありがとう」


 脱帽し、頭を下げるジェームス。すると、彼女の口元にあたる仮面が割れ、口が見えた。そして、口を開き、


「【『[《あ゛ぁ゛ぁ゛亞゛ア゛……ワタしを裏切ルな、ぁ゛ぁ゛……人間メぇ゛ェェ……許ザない゛ぃ……》]』】」

「人間は裏切ってなどいない。君が弱かっただけだ。……人間に責任を押し付けるな」


 ギロリと普段あまり開かない目を少し開き、厳しい目で睨む。彼女はビクンと動揺すると、自身の両手へとゆっくり目線を落とした。


「『【《あ……ア……在……ア゛……だ、ダッテ……私ハ……ヮた死は……》】』」

「他人に理由を求めるな」


 ピシャッとジェームスが言い放つと、ピキン、と仮面にヒビが入る。両手はわなわな震え、足が崩れてへたり込んでしまった。


「【[……私……ハ……幢スれ發……良かッ……タ…?…]】」

「……」


 ジェームスは目を閉じ、防止を叩いて被る。そこには、先程の怒った表情とは違う、いつもの優しいおじいさんがいた。


「道なら、私が示そう。まずは、答えだ。……君は何もしなければよかったんだ」


 そう言って彼女に近づく。仮面はビキビキと音を立てて割れていき、その白い欠片が涙のように落ちていく。


「何もせず、彼と生きていけばよかった。でも、彼の為に、君の為にアイテム化して……そして君は、彼と『君』を裏切った」

「【『ア゛……あ゛……閼゛……』】」


 パキパキと崩れ落ちていく仮面。彼女の手は何かを掴もうと必死だった。その空中を彷徨う手を、両手で優しく包み込むジェームスは優しい声で言う。


「……終わりに、しよう。君はよく生きたよ。100……何年かな?」

「【『100……百……百……二十……一……年」


 パキンと最後の音を立て、その仮面は役目を終えた。素顔を顕にした彼女は、いろんな憎悪を含んだ声から、人間の、元の女性らしい声に戻っていた。

 目から涙を流し、ジェームスに抱きつく。彼氏の力になれなかった、彼と一緒に居たかったという悔しさ、悲しさからだろう。ジェームスの優しい手で撫でられながら、彼女はわんわん泣いた。


「うわあぁぁぁ……ぁああぁ……」

「……君の『本体』を、破壊するね」


 背を撫で、頭を撫で、まるで孫のように扱う。そしてそう言うと、彼女の背に指で何かの文字を書いた。


「……ぐすっ……あり……がとう……」


 すると彼女は消え、彼女が立っていた所に銃が落ちていた。ジェームスは拾うように、彼女を『持つ』。そして上を仰いだ。

 その瞬間、上も下もどこに立っているかすら分からなくなりそうな、幾何学、理から外れたような世界から、元の三次元のあの蒼い空へと戻った。


「……」


 ジェームスは銃に息を吹きかける。すると、銃はみるみるうちに錆びて、崩れる。そして、その欠片たちは風に流れて消えていった。裏路地から見える空に、高く。


誤字脱字誤文乱文御免!

発見次第、連絡をください。

感想も受け付けてます!

それと、この話以降は亀更新になるかもです。

ついにおじいさんたちの仕事が……!

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