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一話 目覚め





 付喪神

 それは、使い続けられた物に宿る神々の事である。

 物を大切に使うことで、彼らは感謝をしていくだろう。

 だが、近年は物を大切にしない者たちが多くなり、使い捨てが多くなった。

 まだ使える物がゴミと化し、付喪神達はその有り難味をいつしか忘れさられていった。

 それだけでなく、彼らを利用し人間は、人類は戦争を起こした……。

 そしてある日、神罰が下った。





 彼は産まれた。いや、目覚めたと言うのが正しいのだろうか。

 所々崩れた、古臭いレンガに背を預け、力なく座り込んでいる少年が目覚めたのだ。

 瞼を二回三回パチパチと開いたり閉じたりする。その視界に広がる世界に、その目は輝き始めた。


「……おー……」


 感嘆の声が漏れる。

 なにせ、彼には何の記憶もないのだ。思い出す記憶すらないのかもしれない。故に、産まれたとも言えるのだ。

 そんな彼にとって、この景色は生まれて初めて見ることになる。

 だが、彼の感動とは裏腹に、町はとても廃っていた。

 道のアスファルトは裂け、所々砂が埋まっている。その道に沿って建てられてる住宅地は五件に一件、壁が崩れていた。

 そんな道を歩く人々も、まるで廃れているかのように俯いている。


「はぁ~……」


 またも声を漏らす。尚も彼の目は輝き、通りかかる人々を目で追っていた。

 そこに、一人の老人が現れた。老人は灰色の帽子を被り、杖をついて、紳士的な服装をしていた。

 老人は少年に気がつき、驚く。しかし、彼は気づいていない。


「君は…………どうしてそこに居るのかな?」


 老人は一瞬戸惑い、彼に顔と目線だけを向けて聞く。彼は、それに笑顔でこう答えた。


「分かりません。ここは、どこなのですか?」


 老人は更に驚いた。だが、どこか納得した表情でそうかと呟いた。

 彼は、驚いてばかりいる老人の顔を見て困惑する。もしかして、迷惑をかけたのか?と。

 老人は、彼に何でもないよと言ったあと、先ほどの質問に答える。


「ここは、死んだ街の外れだよ」


 と。




 彼は何も覚えていなかった。というより、何も知らないでいた。

 ただ、言葉だけが理解でき、その他の名詞はほとんど知らなかったのだ。

 まるで生まれたての子供のように、色んなものに好奇心が湧いている。だが、敬語で話し、ある程度身を弁えているところから、常識を知っている様にも見えた。

 老人は、不思議そうに彼を観察する。彼はそれに気が付かなかった。

 彼の見た目は少年だ。それも高校生辺りの。そう考えると、喋り方に少し子供っぽさが残っているように思えた。

 これらは、老人がポツリポツリ、通り過ぎていくお店について、歩きながら説明してわかったことだ。


「あの……」


 彼は悲しそうに訊く。一体、どうしたのだろうか。そういえば、少し前も暗い表情をしていた。それも関係あるのだろうか。

 老人は訊き返す。


「何だい?」

「……死んだ街って、何故……なのですか?」


 老人は驚愕した。こんな街が多くなった原因が、どういった事だったかも知らないでいたなんて。

 老人は頭を抱えそうになる。が、彼の目を見てそれをやめた。そうじゃないか。名詞自体分からなくなっているんだから、知らなくても仕方ないだろう。


「昔に、色んなことがあったんだ。有名な昔話だよ」

「へぇー、何があったか教えてもらえませんか?」

「まぁまぁ、町長の所へ行って、一つ落ち着けたらね」


 そう言った後、ホットドッグを売っているお店の角を曲がり、少し進むと町長のいる市役所へと辿り着いた。

 彼は、その立派に建った建物を見て、目を輝かしていた。しかし、老人からしたらボロボロの、一世紀前の代物だ。

 老人は本当に何も知らないのだと悟った。


「さて、今から町長に会いに行くよ。これで君の住民票や許可が頂けるからね」

「分かりました。ありがとうございます」


 そう言うと、彼は一人で進み出す。老人は慌ててその行動を止めた。


「あぁ、ちょっと待ちなさい。私も同伴させて貰う」

「な、何故ですか?」

「住むところもないんだろう?」


 その言葉に彼は、歯切れの悪い返事をする。老人は、ふっと微笑んでこう言った。


「私の家で、住み込みのお仕事を頼みたい」

「え? ……良いのですか?」

「あぁ、家事の手伝いが仕事だよ」


 そう聞いた彼は、最初は鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしていたが、段々笑顔に変わっていった。そして、万遍の笑みで、はいと元気よく返事した。


「ふむ、よろしい」


 老人も笑顔でそう言った。



 建物の中へと入り、すぐ左にある受付の娘と軽く話したあと、老人と彼は中央の大きな階段を上る。二階の左端にある階段を、今度も登っていく。どうやら、最上階である五階に町長室があるようだ。

 そして階段を登りきり、少し廊下を歩いた先にその扉はあった。プレートの表記は町長室である。


「失礼するぞ」


 ノックを3回したあと、そう言って入っていった。彼も老人の後に続く。

 そして、中にいたのはカッターシャツのまま、ネクタイを整えている若くて渋いおじ様だった。そう、この方が町長である。プレートを見ていた少年はそう理解する。


「……はぁ……貴方が来ると聞いて、急いで正装に着替えていたのだが……」

「どうやら、遅かった様だね。いや、私達が早かったと言うべきか」

「……後者だね」


 全くと少しぼやきつつ、町長は眼鏡をかけ、ふかふかの黒い椅子に座るよう薦めた。

 その言葉に甘え、彼と老人は椅子に座る。だが、町長の表情は彼を正面に座らせた瞬間、変わった。


「ど、どういう事かね? 彼は――」

「私が連れてきた。何事もないよ」


 彼は話しの内容が分からず、困惑していた。そんな彼に目もくれず、2人は顔を寄せ合い、彼に聞こえにくくしながらこそこそと話を進める。


「……危険な賭けだぞ?どうなるか――」

「大丈夫だよ。私の監視の下、働いてもらうからね。それに―――」

「なおさら悪い。貴方がどうなるか―――」

「彼は、もう記憶がない。思い出すことも無いだろう」


 老人がそう言うと、町長は黙った。二人がそうしている間、メイドのような正装をした女性が水を用意していた。それを少年はありがたく受け取っていた。

 そんなことを気にも止めず、町長は椅子の背もたれにべたりともたれかかり、その顎髭をいじりながらうーん、と考える。


「……君が、子供を連れてくると言う事は……」

「……そういう事になるな」

「……はぁ~……」


 重いため息をつく。それから少しの間、部屋には時計の秒針が動く音だけが響いていた。

 そして町長は、その重い腰を上げる。両手を合わせ、指先だけを合わせたまま離し、両人差し指をクネクネとミミズのように動かしながら答えた。


「よし、分かった。許可をしよう」

「ふぅ、ありがと―――」

「そのかわり、条件がある」


 しかし町長は、その眼鏡を光らせながら言う。眼鏡の奥の瞳には、どこか恨みが篭っていた。


「もし、その少年が『あれ』の予兆でも見せる様な事があれば、全国に報道し、国外追放する」

「え……」


 彼は驚いた。まさか、交換条件が何らかの怪しい行動が起きた場合に、自分の居場所が無くなることとは思っていなかったのだ。顔が真っ青になる。

 だが、老人はそれにコクリと頷いて、こう答えた。もちろん、その反応に少年はさらに青くなる。


「……分かった。それで良い」

「ど、どういう事なんですか? 僕が、何故……」

「色々と、あるんだよ。察しておくれ」

「…………」


 彼は納得できない顔をしていた。しかし、自分の事を理解していないからか、発言はしないまま話を聞く体制になる。


「とにかく、その条件であれば私が保護者であっても良いのだね?」

「……あぁ。手配はこちらで済ます。出来たらそちらに住民票を渡そう」

「すまないね」


 渋々答えた町長はそう言うと、よっこらせと立ち上がって執務机に向かう。その背に老人は、そう呟いていた。

 そして、老人は立ち上がりながら彼の方へと向き、にっこりと微笑んでこう言う。


「さぁ、私の家に来るといい。仕事の説明や、先ほど言っていた昔話について話してやらんといかんしな……」

「ありがとうございます」

「ジェームス・ミルフォードだよ。私の事は、おじいちゃんでもジェームスおじさんでも、なんと呼んでもいいからね」

「わ、分かりました。宜しくお願いします、ジェームスおじさん」


 そして、ジェームスは指先を町長の方へと向ける。


「そして、町長のハワード・ベルティだよ」

「よろしく」

「宜しくです」


 町長ハワードは手を差し出す。 彼は少し戸惑いつつも、ハワードの微笑みを見て握手をした。


「君は?」

「え……?」


 一瞬、質問の意味が分からなかったのか、素っ頓狂な声が出る。彼は慌てて何ですかと問い正した。


「……君の名だよ」

「……分かりません」


 自分の名でさえも、知らんのか。と、そう呟いて頭を抱えた。彼は聞き取れていなかったが、悪い事をした子供の様にしゅんとしていた。


「あぁ、いや、私の独り言だよ。気に病む事はない」

「え? あ、は、はい」


 そのやり取りを見ていたジェームスは、何かを閃いた顔をした。そして、自信のある表情でこう言う。


「君の名を考えていたんだが、ユキというのはどうだい?」

「ユキ?」

「そう、ユキ」


 自分に無かったその名を、ユキと何度も呟いて認識する。

 それを見て、ジェームスはこう続けた。


「東洋の、それも極東の者達がよくつける名だよ。意味は、雪という白く美しい結晶のことを指していて、君は何も知らないから合っているような気がしてね」

「そして、君は髪の色、目の色、肌の色からして日系人だしね」


 そう言って、あ、とハワードは気づく。


「そういや、日本人にはあの紋章があるんじゃないか?」


 ジェームスもそれに気づき「おお、そうだった、そうだった。」といって、腕を見せなさいと続けた。

 ユキは自分の腕を出す。その腕、正確には手の甲から肘にかけてまでに、何か黒い模様がついていた。まるでタトゥーのように。でも、何かの文字のような……。


「これは……やっぱり彼は……」

「大丈夫。もう良いよ。ユキは名の通り日本人だ」


 日本人がどういう意味を持つのか、ユキには理解できていない様だった。それを見たジェームスはこう言う。


「日本人はね、世界を救った者たちであると同時に、世界を滅ぼした者の民族なんだよ」

「え?」

「それで、日本人はこの紋章がついているのさ」


 目を丸くするユキは、なんだか複雑な位置に立っているなぁ、と他人ごとのように思い始める。無理もない。世界を滅ぼしたという事は、ユキの考えるスケールの斜め上を行き過ぎているのだ。


「取り敢えず、帰りなさい。もうここには用は無いだろうし、その話は長くなる」


 ハワードがため息をついてそう言う。ジェームスはおぉそうだったと呟いて、「さぁ、帰ろうか」とユキを連れて行く。ユキは続きが気になり、少し早足で歩を進めた。


「じゃ、頼むよハワード」

「……貴方もですよ」


 部屋を出る際に、念を押してジェームスはハワードに、ハワードはジェームスにそう言った。


誤字脱字誤文乱文御免!

発見次第、連絡をください。

それと、この話以降は亀更新になるかもです。

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