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少年は最強を体現する

第4話です。

 晴天の霹靂、とはまたかっこいいことわざを誰かが作ったものだ。

 こういうのって、なんかこうかっこいい言葉とか難しい漢字とか入ってたら、無理してでも使いたくなるものなんだ。

 と、無駄話をしている暇は俺にはないわけで、今の俺の置かれている状況下がまさに青天の霹靂。ほらこうやってすぐ使いたくなるんだよね。

 柳山市の上空を羽ばたき、天を支配している謎のドラゴン。

 それに立ち向かうのは、派遣された自衛隊とか街の警察官じゃあない。

 ついさっきまで、ちょっと立派な学校に通っているちょっと空気の薄い部活に入っている。ちょっとくらいは才のあるごく普通の学生だ。俺だよ。

 なんでこんなことになったか。それは可愛い女の子に頼まれたからだよ。俺ってかっこいいよね、褒めろよ。

 というわけで、これから俺は命がけでドラゴンを討伐せねばならないわけだが。何も丸腰で行くわけじゃあない。

 なんでも俺には力があるらしくって、それを使えばドラゴンは倒せるらしい。


 グォォォォォォォォォ!!


 そう、俺の姿を捕えたドラゴンが、ちっぽけな虫けらに対しても手なんぞ抜きはしないといった具合に、俺に対して咆哮する。

 俺は思わず数歩後ろに下がる。そりゃあ当たり前、怖いからに決まっている。

 さきほどこいつは、地上に巨大な火球を吐いて下の住民達を焼き尽くしたんだ。

 当然そんなのを喰らえば、俺はあの世行き。まだあの世に行きたくない俺に与えられた選択肢は、死なないように立ち向かうこと。


『星野潤。いいですか、あのドラゴンは何者かの想像化(イマジナリーテクト)によってこの世界で姿形を取っている。つまりあれは天災によるものではなく、誰かの仕業だということを頭の隅にでも置いといてください』


 俺は先ほどレイからもらった通信機で、レイの指示を取る。

 あのドラゴンは誰かの力によって現れた存在。まぁ先ほど聞いたなんとかの実体化とやらが、そうさせているというのはわかった。

 まぁ思う所はたくさんある。どうしてこんなことをするのだとか、どこで操っているのだとか。質問は本人を見つけてからでいい。

 今やるべきことは、このドラゴンを排除することにある。


「んで、俺はどうすればいいんだ? さきほどかっこつけて"インボディメント・チートスキラー"なんて口にしてしまったが……」

『そうです。あなたは世界を救う力を体現する者。扉が囁きかけてきたからその言葉を口にしたのです。ならばこの言葉の意味も、自分に聞けばわかります』


 そんなことを急に言われても、実感がわくはずもない。

 世界を救う力を体現する。もうちょっと具体的にだな……。

 と、色々考えていると、上空のドラゴンの口が真っ赤に発光し始めたではないか。

 これはさきほどと同じ。俺に向かって、あの龍は火球をぶっ放すつもりだ。


「おい姫! このままじゃ俺は死ぬぞ!! 星野潤の丸焼きなんか誰も買わないと思うぞぉぉぉ!!」

『落ちついてください。あなたの丸焼きなんておぞましくて見たくもない。というか想像させないでくださいよバカ』

「こんな時に毒舌吐いてる場合か!! 対処法を教えろ!!」

『だからそれはあなた自身しかわからないんですって。勘弁してください、始まった途端にゲームオーバーなんてゲーム買うだけ無駄なんですから』

「これは現実でしょ姫様!!」


 そんな漫才をやっていたら、上空のドラゴンは空気なんて読まず。

 構わず、大きな火球を俺にぶっ放してきた。


「ああああああああああああ!! こんな時は……何でも防ぐ盾のような!!」


 俺は咄嗟に、ドラゴンの火球を防ぐ盾を想像する。まぁ本来こんな瀬戸際で想像しろって人間やめてるよね。なんか都合よくてごめんね。

 すると、なにやら俺の手元が光りだし、そこから盾が実体化(サモンテクト)し始めた。

 人間一人を覆い隠すほどの盾。だが、それはとても軽く、板っきれのようにペラペラだ。

 こんなのであの火球を防げるだろうか、と、不安もつかの間。

 なんとこの盾は、火球を軽々と受け止めてしまった。

 そして、その火球をあろうことか、跳ね返してそのまま火球がドラゴンに激突した。


 グォオオオオオオオオオオオ!!


 火球が顔面にぶつかり悶え苦しむドラゴン。

 それを俺は、地上から唖然と見上げた。


『どうです? 冒険が始まったらいきなり最強クラスの盾が装備されていました。そんな気分でしょう?』

「あ、あぁ。正直それじゃあつまんねぇな」

『気にしてはいけないものです。世界を救うんですから、律儀に装備を強化していく必要なんてありませんよ』


 そんな言っていいのかわからない事柄をつまらなそうに言うレイ。

 そして、俺はドラゴンを見やる。

 このままドラゴンの攻撃を受け止め続ければいいだろうか。いや、それじゃあ見栄えがない。

 それに防御とくれば攻撃だ。偉い人は言う、攻撃は最大の防御であると。

 俺は次に、ドラゴンどころかなんでも切れる剣を想像する。

 すると、盾が割れるようにはじけ飛び。その代わりに黄金に光り輝く日本刀が実体化された。

 これなら、あのドラゴンの尻尾だろうがなんだろうが切れる気がする。


「さあドラゴン野郎!! こっちまで降りてこいこらぁ~」


 そう、俺は若干引けた声で(いくら力を持っているからといって怖いものは怖い)ドラゴンを挑発する。

 その挑発に、ドラゴンは易々と引っかかる……と思いきや。

 このドラゴン。結構頭いいのか、なんと上空の更に上の方へと上昇していった。

 どうやらこのドラゴン、俺の持っているこの剣がやばいものだと理解したのかわからないが、俺の攻撃が届かない安全地帯を陣取った。

 そしてそのまま、もう一発俺に火球を放った。俺は試してみようかという探究心で、今持っている剣で火球を切り裂こうと思ったらできてびっくりした。


「おぉ、なんでもできるぞコレ。っていうか……降りてこいドラゴン!!」


 続けて挑発をするが、ドラゴンはそのまま向こうの方へ飛んで逃げていった。

 俺はそれを見て。逃げたんだから俺の勝ちだよな? 勝ち! と喜ぼうと思ったが。

 後ろで指示をくれている姫が、それを許してくれそうにない。


『星野潤。このままでは向こうの方にも被害が出てしまいますよ。どうするんですか?』

「いやいやどうするんですかと言われてもだな。撃退したんだから俺の勝ちだろ?」

『この世にはこういう言葉もあります。逃げるが勝ちと。つまりあなたは負けたんですよ。バカ、負け犬、最強(笑)』


 そうストレートに俺を貶し続けるレイ。あんた、女だからって容赦するほど俺っち優男じゃあないですよ?

 だが、このままドラゴンが暴れまわるのはやばい。すぐに追いかけないと。

 この調子でドラゴンに追いつける羽とか想像したら手に入るだろうか……。そう考えたりもしたが、どうも反応がない。

 どうにもこの力。できることに関しては無意識に出来そうと青信号を出すのだが、出来ないことは想像すらさせてもらえないようだ。

 今の所この力は三つ力がある。さしずめ三種の人器。まぁ俺は人間だから、神じゃないから人器で。

 と、走っているとレイから新たに支持が入ってきた。


『もしもし星野潤。今私の部下(メンバー)から、あのドラゴンを操っている人物の情報が入ってきました』

「おっ。じゃあ教えてくれ」

『情報によると、その人物はオタサー『アクアピット』の姫の部下(メンバー)。番場辰巳、HNはドラゴン辰(25)。職業は接客業で、刈り揃えられた短髪の強面の男性だそうです』


 と、ちょくちょくどうでもいい補足を交えながら、男の情報が語られていく。

 つか思ったんだが、相手はオタサーなの? なんか勝負でもしてるんですかあんたらは……。

 要はその男がドラゴンを操っているというわけだ。となると……。

 俺は一つ、ある提案が浮かんだ。


「そしたら、ドラゴンを倒すんじゃなくて、その男を狙った方がいいんじゃねぇか?」

『お~。そこそこ頭がいいのですねあなたは』

「嫌味とかいらないんで、間に合ってます。ドラゴンは大きくて立派……あぁ別に下ネタじゃないけど。つまるところ結構目立つ。そのドラゴンを操作しているのだとしたら、ドラゴンが見えるところにいるはず……」

『そこまで推理できましたか。でもあなたがそう推理をするより早く、もういる場所突き止めてしまったそうです』

「マジで!? お宅の部下(メンバー)仕事が早いなオタクだけに」


 そんな洒落を交えて俺が褒めると、レイはなんかすごい怖いため息を通信機越しに発してきてちょっとびびる俺。

 となると、そのドラゴン辰がいる場所に向かって、そいつを一発ぶん殴ればいいわけだ。


『ちなみにお聞きしますが、あなたは番場辰巳がどこにいると踏まえてます?』

「場所わかってるなら素直に言ってくれればよかでしょうに……。えぇと、ドラゴンが向かった方向はさきほどいた場所から北東約四十度曲がった柳山市の中心街、第三区。つまりあのドラゴンは何かを中心にしてグルグル回っている。その何かの中心でなおかつドラゴンが見渡せる場所。望遠鏡が設置されている柳山記念市館ビルだ!!」

『ビ~ンゴ』


 そう跳ねたようにレイが言うと。

 俺のすぐ目の前に、法定速度を軽く無視した猛スピードで軽自動車が止まった。

 中には、昼間バーガー屋で出会った姫のオタサーの部下(メンバー)。そのうち三人が乗っていた。


「君が星野潤殿でござるね? 後ろは狭いが乗るでござるよ!!」


 そう、ござる口調で俺に車を乗るよう指示したミリタリー系の男。

 俺はすぐさま後ろに乗ると。後ろには同じく昼まであった巨体の男が乗っていたので、正直座るスペースがなかった。


「星野潤よ。座る所がないので、仕方ない……俺の膝の上に座れ」


 巨体の人に、なんか意味深に聞こえなくもないがそんなことを言われ。

 俺は特にそういうこととかそういう方向ではないことを懸念し、本当に仕方なく巨体の膝の上に座った。ごめんなさいね可愛い女の子とかじゃなくてね。

 そしてそのまま、全力疾走で柳山記念市館ビルへと前進する。

 ここから約二十分で着く。少々色んな事がありすぎた疲れか、座っている所があれでゆっくりできないが、少しくつろぐことに。


「……しかし、あんたらはいったい何なんですか? なんかの組織とか?」


 目的地へ向かうがてら、俺はそんな質問を運転席の男にしてみた。

 すると男は迷うことなく、「健全なオタクのサークルでござるよ!! にん!!」とか言いだしてきたので殴りたくなる気持ちを抑えつつ。

 というか健全なオタクのサークルはいいとして、オタクのサークルがどうしてこんな厄介事に首を突っ込んでいるのか。って高校生の俺が剣持って戦ってる時点で言えた義理ではないが。

 あの如月レイって女。見た感じタダものじゃなさそうだし。

 そういったことを考えていると、亜tお数分で目的地へ到着する所まできた。

 もうすぐ、こんなことをした犯人と会える。ぶっちゃけ一言言ってやらないと気が済まない。

 なんのつもりかは知らないが、あんたらのせいで……一人の友達が死んだんだよ。


「……虎子、気をつけろ」


 と、目的地が見えてきた矢先。

 さきほどまで無口だった、白騎士風の仮面の男が運転手の人物に警告した。

 気をつけろ。いったいなんの……と詮索しようとした瞬間。

 なんとビルの付近に、さきほどのドラゴンが飛んでいた。そしてこちらを見ている。

 まさかとは思うが、俺たちの接近に気がついたのか……。

 そして、ドラゴンは俺たちの車目掛けて火球をぶっ放した。


「ちょいちょいちょ~い!! やばいでござるーーー!!」


 運転手――虎子と呼ばれた男は咄嗟に右にハンドルを切り火球を回避。

 だがそのせいで反対車線へ出てしまい、流れるように歩道へクラッシュ。

 車の衝突事故にならずに済んだのはよかったが、このままじゃ狙い撃ちに会う。


「あぁ! 拙者の新車がぁぁぁぁ!!」

「今は命の方が大切でしょうが!! 散らばりましょう!!」


 悲鳴を上げる虎子さんを見兼ね、俺は別にサークルの幹部でもないが、咄嗟に指示を出してこの場から散らばった。

 これからドラゴンを欺ける。あとは四人の内誰かが犯人に近づけばいい。

 この場合俺がおとりを引き受けようか、その際あの三人の内誰かがビルへ向かってくれれば……。


「星野潤殿!! "後は頼んだ"でござるよ!!」


 そう虎子が言って、他の二人も同様にその場から逃げ出した。え? あんたらも戦うんじゃないの?

 当然そうなると、ドラゴンの標的は俺一人になる。

 先ほど手合わせしている事もあって、完全に俺がターゲットへ向かっている事がバレバレだ。

 ビルまでは走って五分でつく。ビルの中に入ってしまえば安心。

 なぜなら、犯人自身がいるビルを、ドラゴンが攻撃するわけがないからだ。

 この五分が……勝負か……。


「……第二の実体化(セカンド・サモンテクト)、ヤタノミラー!!」


 俺はそう叫び、盾を取りだした。そして……。

 思いっきりビルまで走った。その間、ドラゴンは俺に向かって攻撃をし始めた。

 俺はその攻撃を次々と跳ね返した。跳ね返し、走る。跳ね返し、走る。あれこれなんの競技かしら。

 するとドラゴンは、さらなる知能プレイを見せつけた。

 なんとドラゴン、俺じゃないところにいる民間人に火球をぶっ放した。てめぇ人間じゃねぇ!! ってドラゴンだから人間じゃないけど!!

 走っても間に合わないと思い、俺が火球が飛んだ方向へ盾を投げて阻止をしようとした。その時だった。

 突如何者かが走って現れ、ドラゴンの火球を剣で受け止めた。

 その人物は、さきほど虎子さんの隣に座っていた。白騎士風の仮面を被った男だった。

 そして火球を受け止め、民間人を守ったその男は、俺に向かって親指を立てた。今度会ったら兄貴とでも呼ばせてもらおうかな!!

 その後、ドラゴンがこちらから目を話している隙に、俺は等々……ビルの中へ突入する。


「待ってろよ、ドラゴン辰ーーーーーー!!」


-----------------------


 そのころ、ビルの展望鏡スペースでは……。


「ドラゴンからの反応がねぇ……。ってことはこのビルの中に……」


 強面の男性が一人、冷や汗を滲ませながら苛立つように呟く。

 そして頭をボリボリかいて、ここから逃げ出す算段を整え始めた。


「ちっ、他のサークルから強化エンブレムまで拝借してこのざま。またうちの姫さん他の所でいじめられるだろうが」


 舌打ちを交え、自らが置かれている環境についても愚痴を言いながら。

 帽子を被りサングラスを装着し、一般人を装いエレベーターへと向かう。


「まぁ機会はあるさ。俺の第一の門(ファースト・ゲート)、チェンジャー・タイプドラゴンなら、下手すれば他の連中の寝首をかけるって」


 そんな風に、自分の能力に酔いそれニヤリと笑う男。


「いやいや、そうは問屋は下ろさないっておじさん」

「!? 誰だ!!」


 そんな男に対して、突如何者かが口を挟んだ。

 男――ドラゴン辰こと番場辰巳は、瞬間的に周りを見渡した。

 声色から察するに少年の声だ。だが、少年らしき人物は見当たらない。

 追い詰められているゆえの幻聴か、そうとも思ったが……。

 すると、その時。突如エレベーターが開いた。

 番場の目の前に、しがない高校生が一人。

 だがなぜか輝く日本刀を持ち、息を切らしてぜぇぜぇ言っていた。

 それを目にした番場は、つい驚いてしまう。


「ぜぇ~ぜぇ~。さて、番場さんはどこか……」

「なっ!?」


 己の名を口にする高校生に、番場はハッとなる。

 間違いない。先ほどまでドラゴンと戦っていた少年である。

 番場はかろうじて、一般人のふりをするのだが……。


「あぁ星野のお兄ちゃん。今目の前にいる男がターゲットだよ~」

「んな!?」


 ふりをしたのもつかの間、正体が潤にばれてしまった。そして……。


「……そっかぁ。じゃあ……最強にお仕置きしちゃってもよかですかコレ?」


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