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最強でなければ意味がない

第3話です。

 想像とは、誰にでもできることである。だが、創造はだれしもできるわけではない。

 だからこそ、誰にでもできる想像は、時として個人に力を与える。

 人は想像する。強い己を、夢の己を、掴み取れない理想の先にいる己を。

 そして安心する。想像とは、けして現実にならないからこそ想像なのだと。

 現実として現れる創造とは違う。必ずそれは目の前に、形として現れない。だからけして誰にも迷惑をかけないし、危害となることもない。

 想像とは、人の頭の中にある理想郷は……けして現実にはならない。


 ――故に、それが現実になった時、人々は対処法を見失う。


-----------------------


 突如、柳山市に現れたそれは、天空を支配するドラゴンだった。

 そのドラゴンは、まるで想像の世界の出来事のように、火球を放ちアスファルトを燃やしつくす。

 そして、罪なき人達に危害を加える。

 夢なのか。俺はそれを疑ったが、一向に目を覚まし、普段抱きしめている愛用のぬいぐるみを目にすることはない。

 そう、目が覚めない。すなわち……これはまごうことなき現実。


 グォオオオオオオオオオオオオオオオ!!


 ドラゴンの咆哮は場の空気を揺るがし、耳に響いて耳が痛い。

 俺は逃げようにも、目の前で知り合いがドラゴンの炎に焼かれたショックもあってか、足がすくんで動けない。

 これは間違いようのない、本物の恐怖。圧巻が生み出した恐怖その物。

 俺はただ、がくがくと口を閉じては開けて、この状況に戸惑うことしかできない。


「……これは……なんだ?」


 儚い問いだけが、無残にも俺の口から漏れ出す。

 誰も答えてはくれないであろう、意味のない問いだ。

 ただ叫ぶことも出来ない恐怖が生み出したその問い、そんな意味なきものに、想定外の言葉が返ってきた。


「――空想文化の実体化(ディメンション・サモンテクト)


 突如聞こえた。聞いたこともない単語を。

 俺は声のした方に視線を向ける。すると、そこにいたのは……昼に出会った謎の美少女。

 俺に「世界を救え」とわけのわからないことを言ってきた。あの少女だった。


「お昼はどうも。みすぼらしい学生さん」


 そう、あざとい笑顔を俺に向け、少々の毒を吐く少女。

 こんな時に何を涼しい笑顔で口にしているんだ。お前のどこにそんな余裕がある。その余裕を俺に少し分けろ。

 などと思っていても、それが口に出ない程俺はこの場に恐怖をしている。みすぼらしいか、俺はとてつもなくみすぼらしい。


「あ……あぁ……」

「まぁとりあえず……。死んでしまってはどんなものでも価値は無くなります。それは私にとって困ることになりますので……この場から一生懸命無様に走って逃げてもらえませんか?」


 そう天使のような、はたまた悪魔のような笑顔で俺に言うと。

 そいつは俺の腕を掴んで引っ張り、この場から離れる。

 逃げる途中、反射的な拒絶が俺の中から滲み出て、力強く少女の手を振りほどく。


「まぁ?」

「じ……自分で逃げる。だから引っ張るな、腕が痛いんだよ」


 その場で言うほどのものでもない文句を口にし、俺はドラゴンの姿が消えるところの建物の裏路地まで一生懸命走って逃げた。

 だがあのドラゴンは、この後もただ平坦と街を焼き払うのだろうか。そうすればいずれ逃げ道は無くなる。

 これはあくまで一時しのぎにすぎない。策も何もない、一時しのぎにしかならない命乞いだ。


「くっ……蝶々」


 俺は自分の安全を確認するや否や、あいつの名前を口にした。

 別に最愛の女性を無くしたとかではない。そんな感情ではなく、被害をこうむったあいつの不幸に見返りをせず、自分の命可愛さに逃げ出した男の意地の無さの悔しさだった。

 あいつはドラゴンの餌食になり、俺はたまたまその場で助かり、今は命惜しさに逃げ出している。

 こんな取り柄のない俺のような一般的普通な高校生より、あいつの方が微量だが価値があっただろうに。

 そんな否定的な考えをしなくとも、男である俺が逃げることそのことが愚かしき。

 そう思えど、敵を討とうと思うこともない。これまた愚かしき。


「なんとか、命は繋ぎましたね」


 そう、俺の傍まできた少女が呟いた。

 この状況でも涼しい顔をしている。いったいなぜだ。


「命を繋いだだけだ。繋いだだけで……終わりが見えたわけじゃない」


 俺は皮肉交じりにそう口にした。

 それに対し、少女はその涼しい表情を変えずに、冷静にこう返してきた。


「そうですね。だがその繋ぎが、終わりに結びつくのです」


 決め台詞か、かっこつけか。少女の詩のようなその言葉は、けして俺の恐怖を収めるわけではない。

 が、その言葉が自身に向けられているということはなんとなくわかった。

 昼の世界を救えにしても、逃げて命を繋げろにしても。

 この場でこの少女が価値を見出しているのは、明らかに俺だ。なんでかは……皆目見当がつかないが。


「終わり……ね。その終わりは……俺にあるってのか?」

「なんと。意外と物分かりがいい。ちょっとあなたを見くびっていましたよ」


 なんともバカにするように少女はくすりと笑った。

 どこまでも余裕だ。まるで全ての状況の意味を知っているかのように。

 ……知っているかのように……。いや違う、この少女は……知っているのだ。

 先ほどの謎の単語もそうだ。何故あんなわけのわからない状況が起こったのか、全てを知っているというのか。


「あのドラゴンはなんだ? その……空想文化の実体化(ディメンション・サモンテクト)ってやつとなんか関係があるのか?」


 俺は先ほどの単語を交えて、少女に問う。


「その通り。今、この世界は全ての空想が想像力となり、想像力が限界力となり、現実に実体として現れているのです」

「よくわからねぇ。そんなアニメや漫画みたいな事言われても理解できねぇよ」

「簡単に言ってしまうと。今この世界はアニメや漫画と同じような世界になってしまったというわけです」


 俺の文句に対して、少女ははっきりとそう口にした。

 この現実が、アニメや漫画と同じような世界になってしまった。多分現時点の中二病の皆さんがぜひとも口にしてみたかった言葉ベスト10には入りそうなその台詞。

 最も、あのドラゴンが火球をぶっぱした現状を見て、それが中二病が見てる幻想や幻で済まされる事態でないことは明らかだが。

 だが、それをすぐさま認めろというのも無理だ。


「認めてください。あなたが認めてくれないと、今の状況に終わりが見えません」

「なぜ俺なんだよ……」

「言ったでしょう? 私のために世界を救ってくれと」


 どうやらその頼みも痛い発言ではなかったようだ。俺は頭を後ろからバールのような何かで殴られたような衝撃を感じたよ。そして後ろでヤンデレの美少女が俺に笑みを浮かべてってばっか何を言ってんだ腐れ男子高校生が。

 無論そんな美少女はおらず、隣にいる美少女は銀髪の痛いげな美少女。つかそれでもおかしい話だと思うけどね。

 そんなヘンテコリンな奴に再度頼まれたことを復唱され、俺は半分やけくそになっていた。

 どうせなら夢オチで終わってくれ、目を覚ましたら俺がいつも抱いて寝ているぬいぐるみのギャラッティが、って男子高校生がぬいぐるみとかキモイと笑われても仕方ないんだけどね。


「なにか? 俺が民衆のためにあのドラゴンの餌になれとでも?」

「それは無駄死にです。民衆のためにあのドラゴンをやっつけてきてください」

「もっと無理なこと言われたどうするコレーーー!!」


 俺は少女の無茶ぶりに対して頭を押さえ叫んだ。

 あのドラゴンをやっつけろ? 無茶言うな、自衛隊が戦車を出してもゴ○ラは撃退できなかったんだ。

 それともこいつは俺にウル○ラマンにでもなれってのか? なれっか。三分なんかカップ面で充分なんだ。


「えぇと……。そういえばあなた名前はなんというのでしたっけ?」

「この場合俺の素性を知っていて、「どうして俺の名を?」って俺が返すのが鉄板の流れなのでは!? 名前も知らずに世界救えとか言ってたのか少年のハート傷ついたわ!!」

「この世の億単位の人口の中でなぜあなただけ特別扱いしなければならないんですか?」

「もはや特別でもなかったぁぁぁぁぁ!!」


 俺は自身が世界を救えと頼まれたただの特別でもない普通の一般高校生ですらなかった事実に相当のショックを受ける。

 だがドラゴンは今にも街を破壊しようとしている。もう自分の立場など考えてはいられない。


「星野……星野潤だ」

「では星野潤」

「フルネームっすか!? せめて名前で呼ぶとか雰囲気作ってくださいよ!!」

「細かいことを気にするのですね。小さい男です。心もアソコも」

「あんた俺のアソコ見たこともないくせに適当なこと言わないでもらえる!?」


 と、なんだか自棄になったか漫才風なやり取りを少女と交わし。

 改めてテイク2。今度こそ臨場感頼むよ、こういうの高校生は結構こだわるよ。一人で体育館で跳び箱飛んでも嬉しくないよ。

 俺に対し、少女はこんなことを問う。


「では潤。どうしてこう世界を救う主人公というのは、俺TUEEEEEEE!! でチートでイケメンでハーレムだと思いますか?」

「んっんー。それが流行りだから?」

「はい残念死んでください」

「俺が死んだら世界どうなんの?」

「消滅です☆」

「死ねませんよねぇぇぇぇぇ!!」


 少女の罵倒。お前もウザいキモイ死ねのタイプの人間か、最後に死ねってつければ何でもいいと思っている人間だな!

 俺は死すら否定され、生きることを要求される現時点での高校生。

 そんな高校生に、少女は真剣な眼差しで答える。


「そんなものは決まっているのです。最強でなければ、チートでなければ、イケメンでなければ世界は救えないからです」

「俺、別にイケメンってわけでは……」

「三次元なんてイラストにして盛ればイケメンになります」


 すっげぇこと言ったよこの女!! つかその発想はなかったよあんた何もんだよ!?

 と、更に少女は語りつづける。


「すなわち、世界を救う立場にあるからこそ……"最強が与えられる"。だからそれは流行りでも何でもない、微妙な奴が世界を救っても、その世界(ブック)は見栄えを良くしないのです」

「……なるほど」

「この世界とは、神様が書き下ろした一冊の本にすぎない。ただ他の本と違うのは、特定のページが存在しないこと。すなわちページゼロというわけです」

「……なるほど……。ん? なるほどと納得はできねぇな」


 若干後半意味がわからなかったが。

 大体少女の言いたい事はわかった。けしてチートや最強は要素という枠ではない、世界を救う足る者故のたしなみだ。確定事項だ。

 ここで自衛隊がたまたま戦車でドラゴンを倒しても、神様が書き下ろした本のページが輝かしいものにはならない。

 この世界という神様の本。そこのページに書きおろすべきは……圧倒的最強が、圧倒的に世界を救う見栄えの良い場面である。


「……んで? それが俺だと?」

「その通りです。今この空想文化の実体化は、人に想像による能力――"想能力"を発現させた。全ての人間が能力を具現化できる。神様が都合よくそう書き加えた」

「……」

「その中であなたというちっぽけな存在は……第三の門(サード・ゲート)まで干渉した。たまたま、偶然。運命や必然なんてかっこよくなかろうが、それは最強となって世界を救う立場になったのです」


 そう、少女は俺に熱い視線を送るが……正直言います。まったくわかりません。

 なんだよ想能力って?(ゲート)ってなんぞや? 僕ちんまったくわからんちん。


「というわけで潤」

「なにがというわけなんだよ……」

「せっかく最強が手の内にあるんですから……。まず手始めに、知り合いの敵打ちから……やってみませんか?」


 そう言葉を投げかけられ、俺の胸は脈動した。

 最強が俺の手の内にある。せっかく、たまたま、運よく、偶然。

 それを俺が、断る理由があろうか。いや無いだろう。だって断ったっていずれあのドラゴンに焼き殺されるだけだ。

 どうせ殺されるなら、せっかくだし、仕方なく……。そんなやる気のない気持ち一つで。


 最強を、振るってやろうじゃないか。


「……なぁ、あんた名前は?」


 俺は少女に問う。その高貴なる名前を。


「――如月レイ。あなたが慕うべき……姫ですよ」


 そう、自身を姫と豪語する少女。

 その場に姫がいて、その姫を守れる立場にいてしまった俺。

 なんという偶然だ。運命なんていわねぇぜ。なんでも運命とかデスティニーとかちょっと単語を変えてフェイトとか言っちゃうとか逆に格好つかないし。

 俺みたいなちっぽけな最強は……偶然(アクシデント)って言葉で充分だ。あ、ちょっとかっこつけちゃったさ。


「想像による能力は必然です。潤、ただ迷うことなく……(ゲート)に触れなさい」


 そう、如月レイに言われ。

 俺はイメージで、その(ゲート)に触れる。

 かすかに感じる……そんな気がする。

 そこにあるのではない。そこにある気がする。

 俺が観賞できるという……第三の門(サード・ゲート)が。

 そして、自然と浮かんできた己の能力の総称。それを口にし……。

 いざ、最強による最高の世界救済が始まるのだ的な。


「――インボディメント・チートスキラー」

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