姫と下僕とプロローグ
なんとなく思いついたものです。よろしくお願いします。
部活、サークル……。趣味や傾向一つで人ってのは集まりを作り、独自にスケジュールを組み様々なことをする。
集まりってのはなんだっていい。運動、音楽、遊戯。この世の文化ってのは探すだけ無駄なくらい多いってもんだ。
俺みたいな高校二年生は、簡単な話部活や委員会ってのがそれにあたると思う。ちなみに俺は新聞部で、街で取材したことを学級新聞にして貼り出すとかまぁ他の運動部とかに比べれば薄っぺらいことをしている。
だが他者のイメージってのは別にしても割と楽しい物だ。俺みたいに他人と話すのが好きな奴からすれば、街のラーメン屋の店主やカフェの店員、公園などにいるおばあちゃんなんてのは良い話相手だし、ネタの宝庫だ。
とまぁ俺の環境なんてのは、この広い世界にしてみれば割と小さく、ちっぽけなものだ。学校の記事にはなっても、ネットの記事になって大勢の人に見てもらえるほど面白いものではない。
というにも最近はSNSなどの情報共有時代であり、面白いことやくだらないことを知らない他者と分かち合える時代だ。一昔前に比べ、自分の存在をアピールできる世の中と言えよう。
俺もそういうのは嫌いじゃない。というか俺自身そういう類が大好きな人間だ。てか言ってしまおう。もうね、アニメとか二次元とか大好物だ。
中学の時は軽く中二病だったさ。今でもひょっとしたら世界を救えてしまうんじゃないかとか思ってしまっているくだらない人間さ。
でも一昔前に比べれば、今の時代はそういう趣味も一般的になってきているだろう。少なくとも引かれるくらい偏見を持たれなくはなってきていると自負しよう。
そういう趣味の集まりだっていくらでもある。先ほどの話に戻るわけだが、俺が言いたかったのはそういうことだ。
――オタサー。言ってしまえばオタクのサークルだ。
オタクなんてのは今では普通の趣味嗜好を持つ者の総称だ。それこそ一昔前とは違って、偏見や差別の対象ではない。
そんな人達の集まり、サークルなんてのはいくらだってある。北は北海道、南は沖縄まで今ではネット掲示板一つで結成できる。
オフ会でのリアルタッチだってお手の物だ。文字だけで語りつくせない、だから実際に会って話してみよう。コミュニケーションで考えれば素晴らしき事この上ない。
そんなオタクのサークルに、俺は偏見一つ持っていないし、集まるなら好きな集まってどんちゃんやれという奴だ。
だが……。心ではそう思っている俺ではあるが……そのオタサーのせいで今、俺は非常に困ったことになっているのだ。
オタサーには弱点がある。多くのサークルに必ず付きまとうであろう弱点があるのだ。
それは、サークルの参加者の大半が、決まって多く男性で埋め尽くされてしまうということ。
では実際に会ってみましょう。会いました。ほとんど男子ばかりでした。
まぁ同姓でしか語り明かせないこともあろう。己の性癖とかちょっとアレな話とか、同姓でしか語れないものだろう。
だが、サークルの参加者はある日突然、口をそろえて皆言うのだ。決まったように言うのだ。
「――女子が欲しい」
そういうのだ。言ってはならない、思っていても口に出してはいけないのはわかっているが、言わずにはおけないのが男子の性なのだ。
人間なら異性を求める。どんだけ趣味に没頭していても人間恋をしたいという欲望はどこかしこにはある。
趣味嗜好ってのはそれを最大限和らげるもの、現実逃避の道具にしか過ぎない。まぁ言いすぎかもしれないが、そう言っても差支えないだろうな。
どんなオタサーでも一人でいいから女が欲しい。ならばもうどんな女でもいい、自分と同じ話が出来る女なら大歓迎だ。
そう言って探しに探して、ようやく見つけた原石。
その原石は、決まってこう呼ばれるのだ。――我らが姫と。
姫と呼ばれる者達。オタサーにとってあこがれの、けして揺るぎなき華の中の華。
自らが讃えられる姫ならばどんな女だろうが姫。野郎は騎士という自称しか名乗れないが、少女淑女は人から姫と呼ばれ崇められる。
崇められる姫。讃えられる姫。お宝のように扱われるそれは姫。
だが、俺の知っているオタサーの姫は。非常に……ひじょう~に問題のある人物なのだ。
常日頃、姫という存在を求める者達に問う。
もしある日、突然こんなことを言われたら絶対に頭を抱えるだろう。
「……この私のために、全力で世界を救ってください☆」
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俺の住む柳山市では知らぬ者がいないとされている。大型組織型オタサー。通称:カルヴァドス。
普通のオタサーは、せいぜいやることと言えば一緒にアニメを見たり漫画読んだり、フィギュアを買いに行ったり同人誌漁りに行ったり、ゲーセンに行ったりするのが主だろう。
仲間内だって順列を決めたりしないで、互いをハンドルネームなどで呼び合う愉快な仲だろう。
確かに姫に対してはどういう扱いをしているかはわからないよ。だがこのオタサー、まず集まったら必ず。
「諸君! 姫に対して敬礼ぃぃぃぃぃぃ!!」
もう何の組織だよこれ。敬礼じゃねぇよ、人間の尊厳とかなんのそのだよ。
まぁ人にはノリとかそういうのがあるんだろうけどさ。にしても毎度毎度やらされたらたまったもんじゃないよ。
そんな敬礼されて高い椅子に座りにっこりと皆に天使のような笑顔を送っているのが、我らがカルヴァドスの姫――如月レイ様。
身長は140~150くらいの小柄な、黒髪のツインテールのそりゃ文句のつけどころの無い美少女様だよ。
多分他のオタサーに比べても、この姫様は群を抜いて可愛いと思う。
「おはようございますみなさん。では今日もこの世界のためそして私のために、死ぬ覚悟で一日を過ごしましょう」
とかぶっとんだことをあっさりと言ってのける姫。
別にこれはキャラ付けとかではないし、痛い女とかじゃない。
この姫が言うこと成すこと……それらは全てが現実だ。
「あの……姫。わざわざ朝の五時に集まって皆苦労している所悪いんですが……。俺今日も学校です」
俺――星野潤。現在現役高校二年生が高校二年生成りに純粋な気持ちでそういうと。
姫はまたも天使のような笑顔で。俺には悪魔の笑顔にしか見えないのだがその笑顔を向け、言葉を返した。
「知ってますよ。別にぎりぎりまで参加して遅刻三分前に全力疾走で学校に向かえばいいことだと思いますよ?」
「あのすいません。俺の学校ここからバスで二十分かかります」
このドS発言もいつものこと。この姫様はおのれのサークルのスケジュールが順守されていれば他の連中はどうでもいいらしい。
だが他の人達にだって仕事や用事だってたくさんあるが。俺以外誰も文句の一つも言っていない。
「潤殿! 別に一日くらい学校サボっても大丈夫でござろう! 姫が許せばなんだって許せるのでござるよ!?」
「いやあの……今日期末テストで……。ぶっちゃけ夜遅くまで勉強していて二時間しか寝てないし……」
と、オタサーのメンバーである会員ナンバー1025の虎子龍太郎さん(28)が学生の気持ちを理解しない言葉を俺に投げかけてくる。
他のメンバーも、ギロリと俺を睨んでくる。
というにも、別に新入りの俺が子供の都合で発言しているからではない。
俺はなぜか……この姫に選ばれ、嬉しくもないのにお気に入りにされているからだった。
「そうなんですか? 夜遅くまで勉強とは大変ですね。勉強なんて授業を聞いていればおのずと頭の中に入ってくるものじゃないんですか?」
「いやまぁ頭いい人はそういうんですけどね……。予習復習はちゃんとしろと親に……」
「私は学生時代にそういう苦労をしたことが無いのでわからないんですよ。あ……学生時代とか言っちゃいましたね……」
「うっ……。そういえば姫は今年で二十四歳でしたnずくっ!!」
俺が思わず姫の年齢を口にすると、このオタサーで一番背が大きいと思われるゴーレムマキシ13さん(27)にげんこつを見舞われる。
「小僧! 姫は永遠の十四歳だと何度言えばわかる!」
「いってぇ! いや確かに見た目は小学生か中学生にしか見えませんけどあの二十四歳は! でもあんたらこそあれを十四歳扱いしてたら本当に職務質問される日が来るかもしれませんよ!?」
俺が頭を必死に抑えながらそう抗議をする。
目の前にいる如月レイ様は。見た目は本当に小学生か中学生にしか見えない。だが実際の年齢は二十四歳。あいつがポロリと口にしたのを俺ははっきりと覚えている。
こんな俺より七歳も年上。どんなに不健康な生活送っていたらあんな二十四歳が出来上がるんだか……。
「下がってもいいですよゴーレムさん。まぁ高校生の若さゆえの過ちという奴でしょう。そういう過ちって言うのは口で注意したり小さな武力でわからせるより……これ以上にない恐怖を植え付ける以外他に治療法がありません」
「あの~、姫~? さりげなくすごいこと言っている気がするんですけど……」
「というわけなんで……。私自ら今日のテストで名前すら書けないくらい痛い目に合わせてあげましょう」
「すいませんでした姫。許してください助けてくださいこの哀れな高校生をどうか見逃してくださいお願いします」
あの日から……俺はこのドSな姫に頭を下げる毎日。
全てが変わったあの日から……俺という存在はこの姫の所有物。
人間の尊厳なんて、このサークルに取り込まれてからどこかへ行ってしまった。
――だが……俺は選ばれた。俺は申しつかされた。
この姫に……世界を救う指名一つを……。