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宮野夫妻の企み

「あ~あ、やっちまったな。ワイはもう知らんで」

「叶ちゃんは本気なのよ。私達にはどうしようもないわ」


 この部屋と隣の部屋とを仕切る襖から顔だけを突き出してビッツとキリーがそんな事を言った。なぜか、トビーとリッシーの姿はない。

 首だけの二人の幽霊を、俺は当然無視していた。

 宮野夫妻には幽霊が見えないのだから、ここで反応すると俺は誰もいない襖に話しかける痛い奴になってしまう。

 俺は目線だけをビッツ達に合わせて、引っ込んでろと合図を送った。

 だが、二人は合図に気付かないのか、それとも気付いていて無視しているのか、一向に頭を引っ込める気配を見せない。

 俺は仕方なく、目線を宮野夫妻に戻した。

 こっちはこっちで、ビッツ達とは反対に黙ったままだ。

 てっきり、速攻で怒られると思っていたので、この無反応は正直拍子抜けだ。

 いくら俺が宮野家の事情を知っていると言っても、ただの他人であることに変わりはない。

 そんな他人にいきなり親権を放棄しろなどと言われれば、普通は怒るだろう。

 いや、それよりも先に呆れるだろうか?

 このガキは何を言っているんだ?と。

 だが、夫妻の様子を見る限りどうもその反応とも違うようだ。

 お互いに目配せしあった後、信雄氏がおもむろに口を開いた。


「親権を放棄すると言うのは無理な話です。

 私達に向けられた信頼と社会的地位を裏切ってしまいますから。

 ただ、我々と千尋が離れて暮らした方がお互いのために良いということも重々承知しています。

 そこで、我々から提案があります。

 君、叶くんといったね?

 叶くん、千尋と婚約していただけませんか?」


 信雄氏が何を言っているのか理解できなかった。

 こんにゃく?違う、婚約だ。

 婚約?婚約とはつまり結婚すると言うことだよな?

 誰と誰が?俺と宮野さんがだ。


 ……。


「え~ぇ!?な、なな何言ってるんですか?

 俺と宮野さんが婚約?

 どうしてそんな話しになるんですか!」

「一番合理的な方法だと思うのだけどね。

 親権を放棄するなんていう乱暴な行為よりも、有意義だと思わないか?

 君と千尋が結婚すれば千尋は成人を待たずして、自立した大人になる。

 結婚して家庭を保ったなら、私達の家に居続ける意味なんてなくなるのだから」


 信雄氏の言っていることは、確かに一理あるように思う。

 だけどその論理は根本的なところで間違っている。


「結婚とか、そういう話しを本人抜きで話すのはおかしいと思います。

 そう言うのは、千尋さんの意向を聞いてみないと」

「と言うことは、君はそれでも良いということですね?」

「いや、だからそういう事じゃなくて」


 確かに宮野さんと結婚できるのなら喜んでする。

 でもそれは、晴れて両思いになれた暁に叶うものであって、こんな意味の分からない状況で叶って良いものではない。


「とにかく、私達が伝えたかったことは伝えたので、そろそろおいとまさせていただきます。

 私達は暇ではないので。それに、ここに長くいるのも居心地が悪いですし」

「え、あ、ちょっと!」


 俺は止めたが、宮野夫妻はそそくさと部屋を出て行ってしまった。

 結局、話をしたのは信雄氏だけで、春美さんは一言も言葉を発さないまま帰ってしまった。

 結果から言えば、俺が話したかったことの半分もはなせないまま、相手のペースで終わってしまったという事だ。


「でも、いきなり結婚なんて言われてもな」

「結婚してまえばええやんか」


 俺が頭を抱えていると、目の前にいきなりビッツが現れた。

 その目は少し怒っているようにも見える。


「結婚って、宮野さんの気持ちを聞かずに!」

「千尋ちゃんの気持ち?そんなもん、自分ははじめっから考えてなかったやないか。

 あのこの気持ちなんか無視して、自分がやりたいから両親呼び出して、勝手に親権やなんや言うとったんはどこのどいつや?

 おまえは気づいてないかもしれんけどな、自分勝手な感情であの子を振り回したって事にかけては、お前もあの二人も同じ何やぞ」


 ビッツの決して怒ってはいない、それでも言い知れない強さのあるその言葉に、俺は心を打たれた。

 いや、打ち砕かれたと言った方が正確だろう。

 自分のやってきたことがそれほどまでに愚かなものだと言うことを、俺は今初めて知ったのだ。

 俺は自分の感情にまかせて、とんでもないことをしようとしていた。

 もしあの時、信雄氏が断っていなかったら、俺は一生かかっても償えない罪を犯してしまっていただろう。

 宮野さんから両親を取り上げるという大罪を。

 宮野さんの両親がいくらヒドくても、それによって宮野さんがどれだけ苦しんでいたとしても、俺が何かできる分けてはない。

 そんな事は前から分かっていたのに、頭が干上がっていた俺は、その考えを押し込めていた。

 自分にも何かできることがあるんじゃないか?何もしていないままではだめだ。

 そんな勝手な言い訳の上に成り立っていたのがさっきまでの俺だ。


 だけど、俺は今目を覚ました。


 今俺がすべき事は結婚云々の話をすることでも、ましてや親権の話しでもない。

 宮野さんを家族から遠ざける方法を考えていたのでは、いつまで経っても埒があかない。

 俺が真に考えなきゃいけないのは、宮野さんの両親をどうやって仲直りさせるかだ。

 宮野さんを幸せにするのは、絶対に後者なのだから。


「でも、仲直りさせるにはどうしたらいいんだ?」


 十年近く壊れ続けていた家族を、どうやったら元に戻せる?

 愛の渇き切った関係を修復するには、どうすればいい?


「その事について、僕から少しお話があります」


 そう声をかけてきたのは、さっきまで姿が見えなかったトビーだった。













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