宮野家の秘密
「お父さんとママが別居してる家にはね、愛人が住んでるの。
お父さんの所には若くて綺麗でなホステスさんが、ママのところには男前な若い俳優さんが住んでるの。
そんな家に私の居場所なんてなくて、私はどっちの家にいても部屋に閉じこもるしかなかったの。
他にすることがないから勉強して、頭ばっかり良くなって、家の外じゃ猫かぶってみんなに愛想良くして嫌われないように必死だった。
そんな自分がすごく嫌いだった。
それでも私は10年間我慢してた。
その我慢が限界になったのが去年の冬の始めの頃だったの。
その月はママの家に住んでたんだけどね、ある日ママが用事で留守だったの。
ママの住んでるマンションには私と俳優さんの二人きりになっちゃって、少し嫌だったけどその時はいつもみたいに部屋に閉じこもってればいいと思ってたの。
だけど……」
宮野さんはそこで言葉を切った。
何かに怯えるような目をして息が荒くなった。
俺は咄嗟に、なんの考えもなしに立ち上がって、宮野さんの隣に座った。
そして、宮野さんに掴まれていない方の手でそっと肩に触れた。
「言いたくないことなら、無理することはないよ。
辛いことなら思い出すことはない。俺は気にしないから」
「ううん、聞いて。ちゃんと話したいの。
私のこと、ちゃんと知って欲しいの」
宮野さんは、震える唇で三回大きく息を吸って吐き出した。
それだけで落ち着いたようには見えなかったけど、宮野さんはまた話し出した。
「前からおかしいなとは思ってたの。ことある事に手がお尻とか胸とかに当たることがあって。
だけどそんなこと本人にはいえないし、ママにはもっと言えなくて、それで気のせいだと思うようにしてたの。
だけどその日、二人きりの夜あの人が急に私の部屋に入ってきて、私は勉強してて気付かなくて、後から口を塞がれて、それで、気付いたときにはベットに縛られてたの両手と両足を」
宮野さんの肩においた俺の手に勝手に力が入った。
こんなにも小さくて少し力をかければ壊れてしまいそうなこの女の子は一体どれほどつらい経験をしてきたんだ?
あの屈託のない笑顔の裏側に何があるって言うんだ。
憤りと怒りと悲しさが溢れたけど、俺は一言も宮野さんにかけることが出来なかった。
「服は着てた。そういうのが趣味だったみたい。
あの人はカメラと大きなハサミを持って私を見下ろしてたの。
カシャって音と眩しい光の後お腹の下辺りに冷たい感触がして服が切られていくのが分かった。
口には布が押し込まれてて声が出なくって、代わりにいっぱい涙が出て、でもそれであの人はもっと喜んだの。
私、もう駄目だと思ったの。これで私の人生は終わったって本気で考えた。
その間にも服はどんどん切られてて、後は下着だけってなってた。
あの人はそこで手を止めていっぱい写真を撮ったの。
もうどうにでもなれって思った。
だけどその時、ママが帰ってきたの。
予定より早くママが帰ってきたからあの人慌てちゃって、だけど慌ててどうにかなるわけでもなくママに見つかったの。
私は助かったと思った。これで解放されるって。
でもね、違ったの。私は忘れてたの、ママにとっての優先順位は私よりあの人の方が高いって事を」
宮野さんの目から溢れ出る涙は止まることなく宮野さんの頬を伝っていた。
宮野さんの顔はぐちゃくちゃで今にも崩れてしまいそうだった。
俺はそんな宮野さんをじっと見つめていた。
目を逸らすことなく、じっと。
「ママはね、私の部屋に入ってきて私を拘束していた縄をほどくと私の顔をぶったの。ほとんど裸だった私に一言も言葉をかけずにただぶったの。
それでこんなことを言ったの。
『あなたが誘惑するからこうなるのよ。全部あなたのせいよ。
あなたなんて養子に貰うんじゃなかった。私は本当の自分の子供と暮らしたかったのよ』
私はその時初めて自分がお父さんとママの本当の子供じゃないって知ったの。
そこからのことはよく覚えてなくて、気がついたらお父さんの家の前に居た。
私は持ってた合い鍵で中に入って、置いてあったお金を全部持って逃げたの。
修学旅行までは、そのお金を使ってホテルを転々として何とか生活してた。だけどそれも限界になって、とうとうお金がそこを尽きちゃって、お正月限定でお寺に住み込みのアルバイトがあったから昨日まではそこに居たんだ。
だけど、高校生っていうのがバレちゃってお寺追い出されちゃったの。
それで仕方なく昨日はマンガ喫茶に泊まったの。
そこのインターネットでお金を稼ぐ方法を調べてたら、たまたま出会い系みたいなサイトに行き着いちゃったの。そのサイトを眺めてたらなんだかもうどうでも良くなっちゃったの。
そこにプロフィール書き込んだら、直ぐに会いたいって人が出てきて、今日会うことになったの。
会って私は、私を滅茶苦茶にするつもりだったの。
滅茶苦茶にして、それで死ぬつもりだったの。でも、できなかった。
男の人の手が私に触れたとき、私は怖くなったの。
何が怖かったのかは分からないけど、とにかく怖くなって逃げ出した。
夢無君に会ったのはその時よ」




