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宮野千尋の告白

「何があったかは後で聞く、そんな事よりもワイにどないして欲しいんや?」


 男から目を離さんようにしながら、手探りで宮野ちゃんを引き剥がす。


(おいビッツ!宮野さんのどこ触ってんだ!)

(うっさい黙っとけ。叶も触った感触はあるんやろ、あと半年は使えるオカズやぞ)

(オカズとか言うな!!)


 叶には軽口を叩いたが、これは結構ヤバい。

 力一杯抱きついとるんが分かる宮野ちゃんの腕は、強引に剥がそう思たら剥がせるんやけど、相手が必死な分手間取ってしまう。

 その間に男はこっちに引き返してきよった。


「千尋ちゃん、約束が違うんじゃないかな?

 叔父さん、悲しいな。ちゃんとお年玉もあげたでしょ?

 こんなの酷いよね?」


 さっきまでの薄ら笑いよりも不気味な面で、男はふらふらと近付いてくる。

 こんなん、もはや人間やない。


「あんたがこの子に何したかは知らんけど、この子はワイに助け求めてきとるんや。

 ワイは助けてって言うた奴は全力で守ったる。もしあんたがホンマにこの子の叔父さんやとしてもな。

 やから、お前!自分の口でどうして欲しいのかを言え!ワイはお前の願いを聞いたる」

「わ、私は自由に成りたかっただけなの。

 だけど、今はそんなのいらない!私を助けて、それだけで良い!」


 涙を流した宮野ちゃんはワイの胸にしがみついて震えとった。

 何があったのかワイには分からんし、知る必要もない。

 宮野ちゃんは自分の口でちゃんと助けを求めた。ワイはそれに答えるだけや。


「千尋ちゃん、そんな甲斐性のなさそうな男に頼まなくても、私が千尋ちゃんを自由にしてあげるよ。

 さあおいで、私と一緒に楽しいことをしましょうよ」


 狂った目で近づいてきた男は、右手で宮野ちゃんの肩をつかんだ。

 その瞬間、宮野ちゃんの体がビクッと震え、ワイでも分かるくらいに固くなった。

 ワイは宮野ちゃんの体を庇って抱きかかえて男から引き離した。

 そんでもって、がら空きになった男の腹めがけて思いっきり右足を蹴りこんだ。


「うぐ」


 男はあっけなくそれだけで倒れてもた。

 反撃してくる様子もない。

 ワイは男が目を覚まさんうちに、宮野ちゃんの腕引っ張って駆け出した。

 頭ん中で叶がギャーギャー喚いとったけど、ワイは無視して天獄荘まで走って帰った。

 ワイのやることはもう終わった、あとは叶の仕事や。



♦♦♦♦♦



 何なんだ?一体何なんだこの展開は??

 宮野さんが泣いていて助けてって言って、ビッツが俺の体で男の人を倒して、それでそのあと宮野さんをうちに連れてきて・・・


 どうして俺は今、宮野さんとこたつに入っているんだ??


 ビッツは部屋に入るなり俺の体から出て行って消えてしまった。

 残された俺は、体にすがりついてくる宮野さんを庇いながら部屋に入りこたつに座らせて、熱いお茶を出すことくらいしかできなかった。

 しばらくして、宮野さんは泣きやんだけど代わりにとてつもない気まずさがやってきた。

 狭い部屋に憧れの宮野さんと二人っきりだというのに、俺はちっともうれしくなかった。


「お、お茶足すね」

「いい」


 沈黙にたまりかねて宮野さんの前に置かれた湯呑に手を伸ばすと、宮野さんがそれを遮った。

 そして、その手で湯呑にのびていた俺の手を握るとそのまま胸の前まで引きよせた。

 宮野さんの手はすごく冷たくて小刻みに震えていた。


「あの、なにを」

「ごめんなさい。でももう少しだけこうさせておいて。

 私今、すごく怖いの」


 宮野さんは俺の手を握ったまましばらくじっとしていた。

 俺の手でも分かるくらい宮野さんの手にぬくもりが戻った頃、宮野さんはぽつぽつと話し出した。


「こんな話、夢無くんは聞きたくないかもしれないけど聞いてくれるかな?」

「なんでも話してよ、俺には聞くことしかできないけど」

「それで十分だよ。

 あのね、始めから話すと長くなるんだけど、こんなことになった切っ掛けはずっと前から始まってたんだ。

 夢無くんは、私の両親のこと知ってるかな?お父さんは弁護士でママは普通の主婦なんだけどね、実はずっと前から別居してたんだ」


 別居。宮野さんの口から飛び出したその単語に俺は困惑した。

 宮野さんの両親に面識があったわけではないが、それでも噂に聞く限り宮野さんの家族は仲睦まじい絵にかいたような仲のいい家族のはずだ。


「驚いてるよね。当たり前だよね誰も気づかないんだもん。

 お父さんとママは誰にも分からないように振舞ってたから。

 表向きはエリート弁護士に完璧主婦を演じてたのよ。夫婦仲も良好で一人娘を愛しているって自分たちを偽ってたのよ。

 でもね本当は全然違うの。二人の間には始めから愛なんてものはなかったのよ。当然私に対しても。

 私の両親が別居を始めたのはね、私が小学校に上がった年なの。私はそれ以降ひと月ごとに二つの家に代わりばんこに住んでたの」


 宮野さんは唇を噛んでうつ向いた。

 やっと乾いた涙の跡に新しい涙が流れて俺の手を握った宮野さんの手にぽたぽたと落ちた。

 俺はそんな宮野さんに何もしてあげることができなかった。











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