ホテル街での遭遇
どうして宮野さんがこんな所に?
どうして化粧をしてるんだ?
どうしてそんなに胸元の開いた服を着てるんだ?
どうして目を逸らしたんだ?
どうして、どうしてそんなに悲しい目をしてるんだ?
目の前に現れた宮野さんに、俺は動揺した。
何があったのか、宮野さんに問い詰めたかった。
昨日の巫女のアルバイトの事とマンガパラダイスでのことも一緒に宮野さんに聞きたかった。
でも、それは出来ない。今俺の体はビッツが使っている。
ビッツに頼んで聞いてもらうことも出来るのだが、それも今は無理だった。
ビッツは今、目の前に立っている中年風の男性と対峙していた。
普段の俺なら絶対に出来ないような鋭い目をして。
♦♦♦♦♦
「なんですかあなたは?千尋ちゃんのお友達かな?」
男は気持ち悪い猫なで声でそう言ってきた。
年は30後半から40半ばと言ったとこか。細身で顔も細長い、その上眼鏡を掛けて、高そうな黒のスーツを着てビジネス鞄を提げとる。エリートサラリーマンのような印象の男やった。
頭がええことを鼻にかけとるタイプの人間やと、ワイは咄嗟に判断した。
(叶、この女と知り合いなんか?)
(クラスメイトの宮野さんだと思う。でも信じられない、あの宮野さんが何で……)
叶はその後もうじうじ言っとったが、そんなんは関係ない、知り合いかどうか分かればそれでええ。
「私は質問してるんですよ。あなたは誰なのかと?」
「ワイか?ワイはこの子の彼氏や!
ワイの大事な女になんかようですか?」
ワイがそう言うと、薄ら笑い浮かべとった男の目が一瞬怯んだ。けど、それはほんの一瞬ですぐにそれは値踏みするような高い位置からの視線になった。
(ちょ!!何言ってんだよ!宮野さん困惑してるじゃんか)
(アホ!クラスメイト言うたら相手されへんやろ!こういうのはハッタリが大事やねん。
初めに相手ビビらせな話し合いなんか成り立たへん)
(だからって彼氏とかあり得ないよ!この男の人が誰だか分からないのに)
叶がピーピーうるさかったが、ワイはその声を無視して目の前の男に集中した。
「千尋ちゃんに彼氏がいたとは驚きましたね。
で、その彼氏がなんでこんな所に居るのですか?
見たところ高校生の様じゃないですか。ここそんな若い男の子が来るような場所じゃありませんよ」
「それは分かっとる。気い付いたらここに迷い込んどってな、今出ようとしとったとこやねん。
それよか、自分らこそなんでこんな所居るんや?
成人した男が女子高生連れてくる場所や無いやろ?
いや、可能性はあるな。今のご時世、金があればなんでもヤれるからな」
男がまた怯み、目が泳いだ。
だがそれでも、叶みたいなひ弱な高校生に負けるわけないと思っとるのか直ぐ元の顔に戻った。
もしここに立っているのが本来のワイの体やとしたら、この男は間違いなく逃げていただろうが。
「あなたは何か勘違いをしているようだ。
私と千尋ちゃんの関係はいかがわしいものではない。ただの叔父と姪っ子だよ。
今日はたまたまこっちに来ていてね。ほら、今はお正月だろ?千尋ちゃんにお年玉あげなきゃいけないからね。
それでわざわざ遠くからやってきているんだ。そうだよね千尋ちゃん?」
「え、あの……」
急に話を振られた女の子ははっきりと動揺しとった。
迷った目が、ワイと男とを行き来する。
「ほら、言ってあげなさい。
優等生な君は、何も疚しいことをしていないだろ?
私とここにいるのも、買い物帰りの近道に通っただけだよね?」
気味の悪い笑顔を崩さない男のその言葉に、女の子は力無く頷いた。
(ほら!宮野さんの知り合いじゃないか。それなのにビッツは彼氏とか言っちゃってくれちゃって!
三学期から俺は不登校だよ!)
(叶、この子の名前は"みやの"言うんか?)
(そうだよ、宮野千尋。俺のクラスの委員長なんだからな)
叶はずっと怒っていた。やけにムキになっている様子やからこの子に片想いでもしてるんやろう。
やけど、今は叶の気持ちを尊重しとる暇はなかった。
目の前の男が嘘を吐いてるのは分っとったし、何かしらの事情があることも察した。
そんな状態でおめおめと下がるなんて事は出来んかった。
それになにより、ワイは目の前の男が気に食わんかった。
「ほら、この通りだからさそろそろ言ってくれないかな?
私たちも買い物帰りで疲れてるんだよ」
男は勝ち誇った顔でワイを見下してきた。
少しイラッとしたけど、この程度で高校生に勝ち誇るやなんてたかがしれとる。
この男の器も大したこと無い。
「へぇ買い物帰りね。そやのになんで買い物袋のひとつもぶら下げてないや?
自分が言うとったとおり、今は正月や正月の買い物言うたら福袋やろ。
正月に買い物行ったのに、福袋一つ買わんかったんか?」
男のがしまったという顔をしたが、ワイはこれぐらいで手を引くほど優しい男やない。
「それに、なんやその格好。そんな堅苦しい格好して買い物行くんか?あん!?」
世界中どこ探しても、姪との買いもんをスーツでする叔父はそう居らへんやろう。
「なにが言いたいのかさっぱり分からないね。
私達は急いでるんだ、失礼させてもらうよ」
明らかに焦ったような男は、宮野言う女の子の腕を掴むと足早に立ち去ろうとした。
ワイは当然追いかけようとした。やけどその前に宮野ちゃんが男の手を振り払った。
そんで、何でかは知らんがワイの(正確には叶の)体に抱きついた。
「お願い、助けて叶くん!」




