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必殺技・小悪魔スマイル

「叶!お前叶だよな。

 ったく、いきなりどっか行っちまったから、めちゃくちゃ心配したんだからな。

 親戚の家に行くんだったら行くで、ちゃんと俺かかぁちゃんに言ってから出て行けよな。

 叶が何にも言わねえから、もう少しで捜索願出すとこだったんだからな」


 俺が座っていたベンチを飛び越えて俺の前に回り込んだ健一は、巫よりも早口でそう言った。

 だが、その言葉に巫のような攻撃性は無かった。


「しっかし、大丈夫か?

 聞いた話、かなり遠い親戚なんだろ。そんな所にいきなり居候するってのは、けっこうキツいんじゃね?

 もしその家に嫌気がさしたら、いつでも俺んちに来ていいんだぜ」



♦♦♦♦♦



 俺の家つまり天獄荘202号室の玄関に、巫と俺の旅行鞄を持った黒岩さんが現れたのは六日前のことだった。

 黒岩さんが、その筋肉質でゴーレムのような体に似つかわしくない、繊細で細やかな動作で俺の鞄を廊下に降ろすと、巫が何の躊躇いもなくそれを踏みつけた。言うまでもないことだが、その時巫は靴を履いたままだった。

 その時の俺は、前夜の幽霊騒動で一睡もして居らず、体力、精神ともにライフゲージゼロの状態だった。

 そんな、精も魂も尽き果てた俺に対して、やはりどこか楽しそうな笑みを浮かべた巫が何の前置きもなく話し出した。


「あなたの家族は夜逃げをして行方知れず。

 その事実を知ったあなたは、何の考えもなしに山崎家を飛び出した。

 十二月の寒空の下をさ迷っていたあなたは、そのあるかないか分からないほどの脳みその片隅に埋もれていた記憶を無意識のうちに辿り、一軒の民家の前に立っていた。

 その家は、遠い昔母親の実家の法事の際一度だけ訪れたことがある、母親の祖父の兄弟の孫、つまり母親のはとこに当たる女性が住む家だった。

 あなたは無意識のうちにその家のチャイムを押し、その直後気を失って倒れてしまった。

 あなたが倒れる音を聞きつけた住人によって保護されたあなたは、現在その親戚の家に居候している」


 巫は、そこまで一気に言い終えるとドヤ顔で俺を見下ろしてきた。

 心なしか、巫に踏まれた俺の鞄の凹みもさらに大きくなった気がする。


「いきなり人の家に押し掛けてきてなんなんだよ。

 観察だかなんだかに影響出るから俺には関わらないんじゃなかったのか?」

「あら、私が昨日言ったことを覚えているなんて、あなたはエジソンの生まれ変わりか何かなの?」


 何度も言うようだが、今の俺にツッコむ体力は残っていない。


「これは、あなたの事よ。

 あなたの隣人である山崎家を飛び出した後の、あなたの行動と現在の状況。

 あなたの家があった場所のご近所と学校には、このデマ情報を回したわ」

「デマって……なんでわざわざそんな事を?」

「あら?本当のことを言った方がよかったかしら?

 惨めにも自殺しようとしているところを私に止められ、私の親切のおかげで生き長らえ、第二の人生を私に観察されるために生きています。

 そう伝えた方が良かったかしら?学校やご近所さんに」

「お心遣い感謝いたします!!!」


 自分の置かれている奇妙な状況については、把握しているつもりだったが改めて言葉にされるとさすがに落ち込む。

 もし、本当のことを知られでもしたら俺は生きてられないだろう。自殺は出来ないけど。


「だから、あなたも綻びが出ないように注意するのよ。

 私の観察が不特定多数の人間に知られるのはまずいのよ」


 巫はそれだけ言うと、来た時と同様いきなり玄関を閉めて帰っていった。

 俺はと言うと、幽霊と巫のダブルパンチに完全にK.O.されていた。



♦♦♦♦♦



「う、うん」


 あの日巫が来た後の出来事のインパクトが強すぎて、俺は今俺が親戚の家に居候していることになっていることを忘れかけていた。

 辛うじて返事できたのは、健一の頭越しに睨んでくる巫の視線のおかげだ。


「そうか、そらならいいんだ。

 ところで、この綺麗なお姉様はどなただ?」


 俺のあんな生返事で、健一は一瞬で興味を失ったようだ。

 すぐ俺の肩に腕を回すとそう耳打ちした。

 健一はお調子者である上に、かなりの女たらしだ。(女を誑し込んだことは一度もないが)

 どうやら、新年モードの巫をクラスメイトだと認識していないようだ。

 無理もない。前述した通り、今の巫と普段の巫は月とすっぽん、いや新月と満月の差があったのだ。

 だから俺は、クラスメイトも認識できない哀れな元隣人に巫の正体を教えてあげることにした。


「はあ?なに言ってんだよ、コイツは……」

「初めまして。私は叶君の親戚の美里と言います」


 どうやら、間違っていたのは俺の方らしい。

 彼女は俺に罵詈雑言を浴びせるクラスメイトで命の恩人の巫美里さんではなく、俺の親戚の美里さんなのだそうだ。


「っておい!どーいうつもりだ!」


 久しぶりのツッコミです。


「叶君はちょっと黙ってて」


 俺に残った僅かなツッコミエネルギーを凝縮した渾身のツッコミを、巫は軽く受け流した。

 そして、いたずらっぽい目を健一に向けると小悪魔スマイルでこう言った。


「実は今叶君と二人で初詣に来てたの。あなたは叶君のお友達?

 そうなの。でもごめんなさい、今日は叶君と二人で初詣する約束なのよ。

 今日のところは、私に叶君を貸してくれないかしら」


 言わずもがなな事だが、これだけ言っておく。

 完全体の巫が放つ小悪魔スマイルをまともに受けて、首を縦に振らない男子はこの世に存在しないというとこを。













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