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銀翼のキセキ・外伝

「銀翼のキセキ外伝 もう一人のクロネッカ」第31.5話:退屈な襲撃

作者: 刹那メシ
掲載日:2026/10/10

 材木屋から出てきたオルガは、二百ニーリルを超える丸棒を持っていた。腕を上下させて重さを確かめる。支払いを済ませたアルキュオネは、馬車の待っている方とは逆の方に歩き始めたオルガに気付いた。雑多な店舗がところ狭しと立ち並ぶセスク地区は、夕闇に覆われつつあった。

「オルガ、こっちよ」

「いや、まだ買い物があるんで」

 アルキュオネは眉を顰めた。

「棒だけじゃないの?」

 振り返ったオルガはすぐには答えずに、アルキュオネの背後、店舗の立ち並ぶ路地に目をやった。その視線につられてアルキュオネも後ろを見たが、彼女が何を見たのかは分からなかった。オルガに視線を戻すと、彼女は笑った。

「青の貴公子が本当に欲しいのは槍なんですけど、病院には持ち込めないんで。でも、棒だけだと勝手が違いますからね。何か付けとこうと」

「何かって?」

「まあ、鉄っぽいものっすね」

 そう言うと、オルガは棒を差し出した。

「アーネ様、これ持っといて下さい」

「え?……ええ……」

 アルキュオネに棒を渡すと、オルガは、黒マントのポケットから、四つの筒が連なったような黒い金属製の器具を取り出した。筒の中に指を入れるとそれを握り締める。両手に嵌めたオルガは、それらを打ち合わせた。鋭い金属音が響く。

「それ……どうするの?」

 物騒な動作に、アルキュオネは身を引いた。

「今から使います!」

「使う?」

「おい!」

 不意に男の声がした。驚いて振り返ると、白装束を着た三人が立っていた。一様にフードで顔を隠し、胸には赤い龍頭の紋様が縫い込められている。それは、主に代わる法の行使者を名乗る、救世団の紋章であった。アルキュオネは慄然とした。思わず後ずさると棒を握り締める。先日、救世団に襲われ、血だらけで病院に運ばれてきた女性の姿が脳裏を掠めた。

「ほら来た!」

 オルガは楽しそうに微笑んだ。

「クロネッカだな?」

 フードから覗く目が鋭く光る。

「だったら?」

 オルガが睨み返す後ろで、思わずアルキュオネが叫んだ。

「ち、違います! 人違いです!」

「いや、アーネ様!」

 苦笑したオルガが振り返っている間に、三人は短剣を抜いた。

「主への反逆者、悪の大魔王に連なるものは、残らず天誅を加える!」

 凶悪な宣言にも、オルガは臆する様子はなかった。

「女二人を男三人が刃物で襲うとは……とんだ腰抜けだな!」

「……お前も女か? そうは見えんが……」

 左手の男が嘲笑する。

「よーし……お前からだ」

 そう言うと、オルガは飛び出した。左手の男は、オルガの方から襲い掛かることを全く想定していなかったようだった。鋼鉄を纏った拳が深々と腹に打ち込まれ、思わず屈んだところに、もう一方の拳が炸裂した。裂けた頬から血が飛び散る。男が倒れた後に、アルキュオネの足元へと彼の短剣が転がってきた。彼女は、棒を抱えたまま飛び上がった。

 倒れた男の背を踏み付けると、オルガは叫んだ。

「よえぇな、救世団は! そんなんで世直しできるんか?!」

「このアマ!」

 残る二人は短剣を掲げて彼女へと襲い掛かった。

 その後、何が起こったかは、アルキュオネには分からなかった。黒い服と白い服が入り乱れ、短剣が風を切る鋭い音、鋼鉄が肉に食い込む鈍い音、それから、多分、オルガの笑い声が聞こえただけだった。再び静寂が訪れるのに、十秒(ビス)もかからなかった気がした。

 地面に這いつくばって呻く三人を見下ろしていたオルガは、不意に天を見上げて叫んだ。

「つまんねー!」

 突然の騒ぎに、近くの店々から店員や客が顔を出す中、彼女はアルキュオネのところへと戻ってきた。手を差し出す。

「アーネ様、棒を」

 アルキュオネは目を瞠ったままだった。オルガと倒れた三人に交互に目をやる。

「棒を下さい」

 オルガはもう一度手を差し伸べた。ハッとしたアルキュオネだったが、棒を握った両手は震えたままだった。

「……手が離れない……」

 オルガは肩をすくめた。

「……じゃあ、持ってて下さい。行きますよ」

 彼女は何事もなかったように歩き始めた。慌てて続こうとして、アルキュオネはもう一つ、異変に気付いた。

「待って、オルガ!」

アルキュオネは情けない声を上げた。縋るようにオルガの顔を見る。

「……あ、足も動かない……」

「はあ?」

 大きく息をつくと、彼女はアルキュオネのところへと戻ってきた。手を振り上げると、アルキュオネの尻を叩く。突然、束縛が解けたように、アルキュオネは前につんのめった。慌てて杖代わりに棒を突く。

「オルガ、痛い……」

 眉根を寄せるアルキュオネに、オルガは微笑んだ。

「でも動けたじゃないすか。次が来る前に行きましょう」

「次?……」

 その意味するところを悟ったアルキュオネは、オルガへと駆け寄った。青ざめた顔で、彼女の背中へと寄り添う。

「次はもう少しつえぇ奴がいいなぁ」

 天を見上げながら話すオルガに、アルキュオネは激しく首を振った。

「いや、もうたくさん!……」

「銀翼のキセキ外伝 もう一人のクロネッカ」をお読み頂きましてありがとうございます。物語は終盤に差し掛かっていますが、オルガを活躍させる場面がなかったな、と思いましたので、物語の余白を埋めてみました。お楽しみ頂ければ幸いです。

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