僕と彼女のアイコトバ
本作はタイトル、あらすじ、本文の三つで成り立っています。
順番は指定しませんが、合わせてごらんください。
「小学校で最初に習うのは『愛』って知ってる?」
これは始めに習うのはあ行――つまりは『あいうえお』であり、その頭にある『あい』の二文字を『愛』に掛けた洒落である。
続いてこれも洒落で、
「人間って、『H』の後に『愛』がくるんだよ」
これもまたアルファベットの並び順――『ABCDEFGHI』の『H』の次に『I』がくることに掛けている。
自分はこれまでこんな愛にまつわる洒落について、好意的な感情を抱いたことがなかった。
こんな言葉で女性を口説く輩を何度も見てきたせいか、下らないと一蹴することから僕の解釈は始まり、否定的な文字の羅列を辞書から引きずり出した。
しかしどうでもいいと思いながらも何故だか頭の片隅から離れてはくれなかった。心のどこかでシンパシーを感じていたのか、或いは憧れていたかもしれない。しかしそんな忘れられないという事実に、苦悶したこともあった。
そんな話を彼女にされるとは夢にも思ってはいなかった。
「素直になれないけど来てほしいのが『恋』で、素直にすぐ傍に行きたいのが『愛』なんだって」
なるほど――――
『来る』の命令形が『来い』だから『恋』、傍に行く――すなわち『逢う』の連用形が『逢い』だから『愛』とそれぞれの同音異義語を導き出すわけか。
彼女は、どことなく誇らしげに述べてから、愛らしくはにかんだ。何故だか彼女の口から聞くと、そんな下らないと一蹴してきたはずの言葉が甘美なもののように思えた。
そして一度僕から視線を逸らした後、彼女は顔を赤らめながら言葉を続けた。
「だからその……あなたの傍に――」
気付けば僕も赤に染まって、硬直していた。しかし彼女を置き去りにするわけにはいかない。火照った頭脳を冷却し、すぐさま喉奥から彼女に返す言葉を先走り気味に絞り出す。
「ずっと来てほしいと思っていました」と……