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A new Era ~始まりのヒトと終末を告げるヒト~  作者: ラー
三章 ~ルークと立ち向かうべき真実

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11話

「もういいよ、ありがとう」

戦いの音に打ちのめされている間に、ミラの治療で大分体が楽になった。完治とは言えないが行動するのに無理はない。だから立ち上がった。

「え、でもまだ」

突然治療を中断して立ちあがった自分にミラが何処か困惑したような声を出す。さっきまで死にかけていたし、ウィリアムが来た以上、当初思っていた勝利条件は整っていた。戦闘音は先程とは比べ物にならない程度には激しくなっていて、自分がずっと遊ばれていた事が良く分かった。苛立ちもある。同時にホッとしてしまった自分にも腹が立った。だから治療を中断させなければならなかった。

「ごめん、俺行くよ」

落とした双刃剣を拾い上げる。心なしかいつもより重い。まるで休めと、相棒までもがそう言っているようにも感じた。自分の心の弱さだ。振り払って肩に担ぐ。

「危ないわよ、ルーク!大丈夫、ウィリアムなら負けないわ」

ミラの心配する声と彼女の手が自分の足を止めさせる。彼女の言うことは正しい。それに自分を本当に心配しているのが良く分かった。今、強引に手負いの自分が戦線に加わればウィリアムの動きを阻害するだろう。もしかしたらプロトとも上手くいかず、魔法を受けてしまうかもしれない。そもそも、タルシアの遊びにも耐えられなかったのだ、今度こそ一瞬で死ぬかもしれない。そうなれば正しく無駄死にだろう。それでも、そこまで分かってなお、足を止めたいとは思わなかった。


「うん、分かってる。でも、ごめん。俺、行きたいんだ」

意地だった。きっと冷静なら、或いは第三者だったなら、止めとけと口にした。ボードゲームなら、不利を受け入れて、諦めた。でも自分の人生だったから。何時までも、まぁいいやで済ませたくなかった。それにウィリアムは言ったんだ、「グズグズするな!話は後にしろ、まずはあれを倒す!」って。それは俺が倒れたまんまとは思わなかった、ってことだ。この状況であっても、俺がしっかりと戦いに加わるっていう確信が無けりゃ、出てこない言葉だった。だから行かなくちゃならない。これ以上、そうこれ以上、仲間の期待を裏切りたくない。それだけが今の原動力だった。ましてや新しい弟分の友も頑張っているのだ。何時までもしょげていられなかった


心臓に火が入った様な感覚があった。錆びついた関節の錆が禿げて元に戻った様に滑らかに動き始める。何ならいつもより軽い、まるで風に舞う綿毛になった様な感覚だった。手に持った双刃剣は羽の様だった。クルクルと風車のように回していつもの通りに肩へ回す。

周囲に延焼した火に炙られたからか、全身が熱くなる。頭の奥はスゥっと冷たい風が抜き抜ける。いつもより視界すら晴れ渡る。

「ルーク・・・?」

驚愕交じりのミラの声が聞こえる。どうしたと思う自分が頭の片隅に湧くがそれを意図的に無視する。全部が終わった後でいい。振り払うように駆けだした。


視界の端、燃え盛る森が一気に後ろへ引き延ばされて流れていく。明らかにいつもより速い。疑問が泡のように湧いては熱に炙られて割れて消える。もう眼前と言ってもいい程に近付いた戦場ではウィリアムがタルシアと正面から武器と肉体で打ち合い、プロトとタルシアの魔法が入り乱れていた。彼らの周囲は既に森が消えてくり抜いた様に開拓されて劇場のようになっていた。

足を下手に踏む入れようものなら怪我では済まないと思わせるほどで、ウィリアムとタルシアだから真ん中で踊る事が許されていた。そこへ無粋な程に真っすぐと飛び込むために足を早く回した。なぜ、そんな疑問も全てを後ろへ置き去りにした。


「オラァ!」

力強く叩きつけられた毬の様に跳ねて、双刃剣を両手で振り上げてタルシアの背中目掛けて飛び掛かる。タルシアはウィリアムと戦っていた影響か、こっちへの反応が少し遅れた。それでも背中の足を巧みに使ってきちんと防御と反撃を用意した。そして双刃剣と足がぶつかる。

普通に考えるなら宙にいる自分と地に足を付けたタルシアならこっちが力負けするのが道理だ。ましてや体格差もしっかりとあるのだから、弾かれないと変だし、自分もそうなるだろうと思っていた。当然頭の中では次の行動を考えていたが想像と結果が大きく違った。


ぶつかり合ったタルシアの足が軋んだ。そして巨人に踏まれたみたいに本体がよろけたのだ。ぶつかり合った音もいつもより重く、刃の先がしっかりと堅い外皮に食い込んでいた。熱にうだった状態でも思わず目が丸くなったのが分かった。そして自分の手に毛が生えているのが見えて、一瞬だけ意識に疑問が差し込まれた。しかし、直ぐに意識を眼の前の戦闘に戻す。足でタルシアを蹴り飛ばして後ろへ跳んで距離をとる。直後、タルシアの振りかぶられた角を中心に雷撃が周囲にばら撒かれ、全身が逆立った様な感覚がした。その感覚に従うまま、雷撃を一足飛びに避けていく。不思議な感覚だった。今までなら直撃しても変では無い。ただ、突然に分かる様に、躓いた時に方程式を与えられたような感覚だった。


ウィリアムと目が合った。彼の顔がいつもより良く見える。表情には珍しく驚愕したような顔をしていたように見えた。視点も自分の顔を中心にその周囲を往復する。しかし、直ぐに意識を眼の前の魔物に戻した。

「サポートしてくれ!」

恥も外聞も無く、そう声を掛けた。そして彼が走り出すよりも先にタルシアへ迫る。視界の隅に長い毛がチラリと映る。一瞬、別の敵が来たのかとも思ったがそれが自分のものだという自覚も同時にあった。意図的に無視する。手の中で双刃剣を回して隙を伺った。


タルシアは先程までと違い、こちらを明確な敵として認識していた。嘲るような顔は止めたのか、不気味な歯をカチカチと鳴らしながら自分の方に目を向ける。三つの目はグルグルと渦潮のように回り、背中の足がガチャガチャと軋んだ。そして次の瞬間、背の足が伸びて鎌のように変形すると草を刈り取る様に振られる。


「よっと」

しかし今の自分にはそんなものが当たるとは少しも思えなかった。ギリギリまで鎌を引き付け、鎌の横腹を転がる様にして避ける。そのまま地面へとスムーズに足をつけると再び前へと駆ける。そして丁度いい所で一足にタルシアに向かって跳ぶ。

頬や体を掠めるようにして他の鎌の足が通り過ぎていくのを何処か別の場所のように眺めた。まるで自分だけが別の時間に生きている様な、そんな感覚が全身を支配していた。通り過ぎていく鎌の凹凸の一つ一つすら見る余裕があった。


空中で身体を自在に回し、全ての攻撃を避けて背中へ到達する。しかし頭の位置が下を向いていてこのままなら時機に通り過ぎてしまう。その一瞬の時間で全身を更に回す。自分はスクリューの一部になった、そんな心持で両手に持った双刃剣をファンの様に回転させた。


普通に考えればさっきの渾身の一撃ですら、外皮に傷が入った程度の相手に、こんな曲芸を仕掛けても何の意味もないだろう。しかし、全能感に溢れた今なら可能だと思えた。そして回転しながらも目はしっかりと狙いを付けた。

回転する双刃剣は軌道を自在に替えた。そしてその行く先はタルシアの背に生えた鎌の様な形に変わった足の伸びきった関節だ。例え冒涜的見た目のタルシアであっても魔物は魔物だ。一個一個のパーツまでもが歪なのではない。自由に動く脚なら必ず関節があった。勿論、ある程度は甲虫じみた堅い外皮に守られているが機動力の為の隙間があった。其処へ双刃剣の刃を差し込んで、切り裂いた。

一回で全ては切り落とせなかった。しかし一番威力が出た瞬間の脚は一本切り落とすのに成功した。成果は少ない、でも、ダメージを通せた、という事実は大きかった。戻されたタルシアの足を後目に来た方向とは別の方へと跳んで下りる。当然、タルシアは自分へと注目をする。しかし、それを許さないのはウィリアムだった。彼は、あの瞬間、一方的に言われた事でもきちんと対応してくれた。


タルシアの頭の方で鉄が凄まじい勢いでぶつかった様な轟音が響く。それはウィリアム渾身の一撃がタルシアの角に振り落されて、角が耐えきれず切り落とされた音だった。これで相手の魔法は覚束なくなる。また、ウィリアムと目が合った。彼は自分の次の行動をしっかりと見ていた。突然始まってしまったがここまでで一番、連携が取れていた。笑って返してやる。


地面を蹴り上げる。このまま相手が対応出来ない内に仕留めたい。もう恐怖はなかった。やることにも大きな変化は無いのだ。結局のところ留めはウィリアムに任せて攪乱し続ければいい。それに必要な速度と機動力を理由こそ不明だが今は持っているのだ。それが大事で、何時尽きるか分からないのだから今、全力を尽くす。


怒り狂った蜂のようにタルシアの周りをブンブン跳びまわる。前に後ろに斜めに横に、兎に角、攪乱しては削る様に双刃剣を振った。一番はウィリアムの攻撃を警戒しているのは明らかだったが、顔の様な柔らかい部分へ自分の攻撃が届けば流石に対応しなければならず、その隙を皆逃すようなウィリアムでも無かった。次第に、タルシアはその身を削られ、遂には四足の一本を自分が削り切った瞬間に体勢を大きく崩した。

「やってくれ!」

自分がそう言うが早いか否か、既にウィリアムはタルシアの正面に佇んで大剣を大きく振りかぶっていた。漸く出来た大きな隙、そこへピッタリに併せる嗅覚は凄まじい。やっぱり凄い奴だと思わざるを得ない。振り下ろされる彼の大剣を見ながら安心感を覚え、邪魔にならない様に離れた。


決着、そう呼ぶべきだ。ウィリアムの振り下ろしはこの忌々しいタルシアを頭から背中を一直線に両断した。苦悶するような絶叫が開拓されてしまった森に響き渡る。まるで最後に呪いを振りまいているのではないかと思うような声に鳥肌が立つ。しかし、タルシアはグズグズに泥のように溶けて地面へと潜り込んでしまった。死んだのか?それとも・・・嫌な予感があったが少なくとも当面の危険は無くなった様に見えた。


「終わりで良さそうか?」

「あぁ、タルシアに死は無いがここまで崩せば暫くは復帰しない。若い個体で助かったと言うべきだろう」

まだ周囲を警戒するように見まわしながらウィリアムがそう言う。

「あぁ、そうなのか。本当に面倒なやつなんだな」

「まぁ、その話は後で良かろう。それよりミラ様はどうした」

「おいおい、俺には何もなしか?」

いつも通りのウィリアムだ。そう思ったらなんだか気が抜けてしまった。同時に凄まじい虚脱感に襲われて足元が覚束なくなる。

「あれ・・・なんか、身体が・・・」

耐えられず膝をつく。手からも双刃剣が離れ、自分を覆うように色褪せた毛が無数にバラバラと落ちて積もるのが見えた。

「・・!・・・・・!?」

何か声が聞こえた気がするが目をもう開けられない。音も聞こえない。今、自分がどうなっているかも分からず、一気に意識が遠退いた。

良ければ評価、ブクマ等してもらえれば幸いです。

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