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A new Era ~始まりのヒトと終末を告げるヒト~  作者: ラー
三章 ~ルークと立ち向かうべき真実

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10話

走り出す。望んだ動きではなかった。まるで背を誰かに突然押されたような駆け出しはなんとか転ぶことなく一歩目を踏み出した。手に握られた双刃剣が嫌に頼りなく思え、実は逃げてくる時に木の棒と入れ替わったのではないかと思うほどだった。一瞬の事だというのに、足元の泥濘も気に障って、体がブレる様な感覚すら湧いた。

狭い、息苦しい。暗闇に一人放り投げられてもここまでの寂しもない。そんなプレッシャーが眼の前の化け物、タルシアから滾々と湧いていた。


「ウォォォォ!!」

咄嗟に出たのは呑み込んでしまった恐怖が許容量を超えたが故に口から出た咆哮だった。弱者が虚勢を張るための威嚇だ。それが分かっているかのようにタルシアは羊歯の様な歯をカチカチと楽器のように鳴らす。決して、こっちに身構えているんじゃない。馬鹿がまた来た、そんな感情を貼り付けた様に見えた。そしてタルシアの前足が振り上げられる。


急ブレーキを踏む。前にそのまま行けば踏みつぶされてしまう。そして直ぐに跳べるようんい腰を低くする。次の瞬間、タルシアの前足が地面を叩くと共に、自分の足元が揺れる。慌てて横跳びすれば、尖った土塊が針の様に地面から突き出した。


飛び出した土塊は次々と突き出しては自分を追いかける。ただ、避ける事自体は難しさを感じない。遊ばれている様な感覚を覚えるほどには簡単で、兎に角逃げさえすれば当たりそうにはない。ただ、タルシアに近付こうとすれば突然眼の前に柵の様に突き出してきて、接近出来ない。双刃剣を投げる訳には行かないし、投げナイフも意味を為しそうに無い。やるにしてもあの鬱陶しい目を狙わなければならないのも手を出すのを躊躇わせた。


再びタルシアが首を擡げる。今度は角に魔力が集まる気配がした。今の攻撃も終わっていないのに、追加は耐えられない。

「ミラ!」

光球を放って貰って目を誤魔化す。何処までこいつが目に頼っているかは分からないが三つもあって使っていない、ということは考えられなかった。しかし、中々ミラの光球が飛んでこない。


一瞬、後ろへ目をやるとミラは一歩も動いてはいなかった。恐怖で身が固まってしまったのか、迷い子のような面持ちで杖を両手で握りしめているのが見えた。歯噛みする他にない。思い返せばこんな魔物と突然遭遇して襲われれば体が固まってしまう事もあるだろう。彼女はまだ、一人前ではない。その事が頭からすっぽりと抜けていた。そしてその間にも相手の角が発光し、周囲へ拡散するように紫電が走る。


「イッッッ・・・!ミラ!ボウっとするな!プロト、やれぇ!」

紫電に左手が焼かれる。幸いだ。死んでいないならどうとでもなる。足元から突き出した土塊に足を掛け、乗ってしまうことで回避しつつ、また跳んで木に登る。下からは埒が明かない。少なくとも、ミラがハッキリしないことには、相手の魔法を回避する術が無かった。


プロトは流石と言うべきか、咄嗟に声を掛けただけで火球をすぐさまタルシアに向けて放った。森ではあるが、相手が相手だけに手加減は出来ない。それに危険と引き換えにウィリアムへの緊急信号を出したと思えば悪くはない。火球の行く末を眺めながら木を飛び移る。タルシアの目はジッとこちらを見ていた。


新たな杖になってから強化されたプロトの火球は人を軽く呑み込む程度には大きかった。当然熱量は高く、地上から幾分高いところを通ったが、それだけでも地面の泥濘が一瞬乾燥したんじゃないかと思うくらいだ。それこそ生木だって運が良ければ一瞬で火が付くだろうとか思うほどだったがタルシアはチラリと火球を見ただけで、迫る火球を角で振り払ってしまった。まるでウィリアムがβの魔法を阻んだ様に、火球は両断され、途端に力を失って解けてしまった。両断されても火球としての力を発揮したならまだ納得できそうだったが、まさに掻き消えた、というような消え方だった。これは見たことがない。


最悪の予感、ひょっとしてタルシアに魔法が効かないんじゃ無いか、そんな予感がフッと頭を掠めた。ただ、角を態々使ったあたり、直撃なら効果はあるかもしれない。それが難しい事を除けば。そして何故かタルシアはこちらから目を完全に反らす事をしてくれない。一体何がアイツの目を惹いているのか見当がつかない。今も木の上にいる自分に力が籠っていると分かる程度には熱い視線を感じた。背筋が凍ってしまいそうだ。


「プロト!来た方向以外に火付けてくれ!ミラ!光球!」

仕方ない。相手を押す、という方向はもう無理だ。だからウィリアムに早く来てもらうしかない。結構な時間が掛かって尚、声も聞こえないのは不安だ。それでもアイツが死んでいるとは思えなかった。


プロトは素直に周囲に向かって火を放った。森の生きた木へ簡単に火が付くことは無いが繰り返せば間違いなく目立つ位には燃える。そして今度は正気に戻ってくれたミラが慌てながらも光球をタルシアへ放った。それに併せて自分も動き出す。左手に投擲用のナイフを取り出して目を狙う。当たる事は期待していないが次の行動までの助けになればいい。そして一気に木の間を跳んで裏に回った。


ミラの放った光球は殺意を感じもしなかったのか、タルシアは完全に無視した。そして自分の投げたナイフも容易く、角の先を振っただけで落とされる。其処へ、ミラの光球が光を放つ事で目くらましとしての役目を果たした。

周囲一帯、太陽の光が差し込んだような明るさで照らされ、ずっと焚き火の明かりしかなかった薄暗い森の中がハッキリと雑草も見分けられる位には明るくなった。一瞬だけ閉じた自分の瞼の裏側が赤くなり、熱すらも感じた。そして次の瞬間、更に迂回してタルシアの側面を目指した。二重の目くらまし、そして裏回りと見せかけての側面からの奇襲、それがパッと思いついた中では一番だった。


(とった!)

タルシアの側面に入って素直にそう思う。タルシアは自分とは逆の方へ顔を向けており、自分が立った場所が完全に死角になった。流石に間に合わないだろう。右手に力が籠り、後ろに回した双刃剣を遠心力も加えて振り下ろす。しかい、手に伝わった感触は酷く固かった。


嘲る様な声が眼の前で響く。歯がカチカチと打ち鳴らされる。まるでファンファーレの様で、これが冒涜的な音でさえ無ければ、祝福にも聞こえただろう。しかし現実は自分の渾身の一撃がタルシアの背から生えていた甲虫らしき足にアッサリと阻まれたという現実だった。


グルリ、そんな音が立ちそうな勢いでタルシアの顔がこちらへ向く。感情の見えない黒い三つの目は奈落の入口に見えた。そして次の瞬間、自分の体がフワリと浮いて、腹の辺りに重い衝撃と共に後方へ吹き飛ばされた。


「ガァァァ!??」

背中が木にぶつかったのか、嫌な音と共に、全身に電撃のような痛みと衝撃が走り、そのままずり落ちる。一瞬で状況が更に最悪へと転んだ。タルシアはこっちの行動など全部読み取っていた。そして見なくても対処できる、動きは良いおもちゃ程度にこちらを思っていたのだと、不思議とそう思った。何より自分があれだけの隙を晒して死んでいないのがその証拠だろう。今の攻撃も、間に武器が挟まっていたお陰で酷いものではない。これが運なのか、タルシアがわざとそうしたのかは判断出来なかった。いずれにせよ、すぐに立ちあがれそうには無い。


「ルーク!」

遠くで二人が自分を呼ぶ声がした。不味い、早く戻らなきゃ。そう思えば思う度に泥の中に沈んでいく様な感覚すらした。そして眼の前からゆったりとした足音と共にタルシアがこちらに向かって歩いて来ていた。


唇の無い剥き出しの口内は気色が悪い。何より全ての風貌が嫌悪感を湧かせる。ここまで来て、自分をサッサと殺さない理由が見当たらないが、このままではいずれにせよ、死ぬことだけが分かった。しかし今の一瞬の攻防で折れかけた心が立ちあがるにはまだ時間が必要だった。


「クソ、やろうが」

それでも約束がある。だから双刃剣を地面へ突き立て、何とか立ち上がろうと足掻く。それを見て尚、タルシアは冒涜的な笑みを隠そうとはせず、より深淵へと潜る様に頬を緩ませ、目の色を深くした。


火球が飛んでくる。しかし今度もタルシアは見ることなく、風を巻き起こしてあっさりとプロトをあしらう。ミラの光球も見ていなければ意味はなく、さっきの事を思い返せば意味があるとは言い切れなかった。


「駄目か・・・」

弱気が口をついた。そしてタルシアは止めを差そうとしたのか角を振り上げる。そして今まで一番嫌な気配のする魔力を角の先端に溜めながら、輩の様に嗤った。


「ルーク!逃げて!」

ミラの叫び。出来るもんならしたいが錆びついたブリキの様な体が軋んで言うことを聞かない。それでも、諦めながらも、体は生きるために動き出していた。その次の瞬間だった。タルシアがその角を振り下ろそうとしたその瞬間、炎の壁を豪胆に破りながら獣が乱入してきた。


「ウォォォォォ!!!」

聞いたことがないような怒声混じの咆哮を上げたのは待望、待ちかねたウィリアムだった。彼は一直線に自分たちの間に割って入るとタルシアの角へ大剣で下から跳ね除けた。そして此処で初めて体勢が崩れたタルシアへ、再び咆哮と共に横っ腹を大剣で殴りつけて、先程の自分のように吹っ飛ばした。


「ウィリアム、たすか、グエェ!?」

礼を口にしようとした瞬間、首根っこを引っ張られ、嫌な浮遊感と共に移動させられる。その直後、先程までの場所を突風が周囲を粉々にしながら走り抜けた。もう少しで全身がミンチになっているところだった。


「グズグズするな!話は後にしろ、まずはあれを倒す!」

そう言いながら自分を軽く放り投げたウィリアムは大剣を両手で構え直す。よく見れば彼の恰好は幾分ズタボロだ。まるで茨の中を無理矢理に突っ切った彼のような威容だった。


「プロト殿!遠慮はいらん、好きに魔法を放て!姫様、其処の小僧の回復を頼みます!」

ウィリアムはそう叫ぶと共に前へと飛び出していった。それから遅れて背中越しに暖かい魔力が伝わってくる。ミラの魔力だ。


「大丈夫、ルーク?」

「・・・あぁ、大丈夫さ」

酷く心配した声が聞こえる。だけどそれを聞いて自分はなんとなく、情けなくなってしまった。遠くからはウィリアムが戦う音、それに混じってプロトの魔法の光が見えた。其処に自分が居ないことが酷く惨めに思えてしまった。それは戦いの場から離されてしまったがゆえに出てきた心持ちだった。宣言したことが守れない。守ろうとした人をきちんと助けられない。それだけがこの状況で憂鬱に映った。

良ければ評価、ブクマ等してもらえれば幸いです。

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