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A new Era ~始まりのヒトと終末を告げるヒト~  作者: ラー
三章 ~ルークと立ち向かうべき真実

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9話 

「やべぇやべぇ!あんなのいるなんて聞いてないぞ!」

前にプロトとミラを見ながら一度振り向く。その先には例の魔物と相対するウィリアムが立っているが魔物は水の中にいて、桟橋は完全に荒波に呑まれて消えてしまった為に打って出ることは出来ない。尤も、あの魔物に挑むのは聊か無理難題に見える。ウィリアムなら分からないが少なくとも自分が出来る事は無さそうだ。洞窟の氷の龍とかとは大きく格が違うように見える。きっと人通りが消え、このあたりの魔物がぶつかり合って、生き残った奴がまた年代を重ねたのだろうとしか思えない。幸い、あの魔物はウィリアムに焦点を絞っているから、こちらには来ないだろう、とは思える。ただ、口から吐き出される水に呑まれたら分からない。それにアイツがもし、陸に上がれるとすれば・・・最悪だ。少なくとも地上に顔をだしている以上、水中だけとは思えない。


「わ、わわわ・・・」

前を走るプロトが転びそうになるのを背中を押して支えてやる。森の中は足場が悪い。人通りが無ければ森も栄えてしまう。というか、このまま進むと迷いかねないし、森の魔物がこの騒動でわらわらと出てくる事を思えばより気が重い。今もウィリアムが迎え撃っただろう水の線が森を雑多に切り開く。きっと森の主も怒るだろう。間違いなく森の魔物が出てくる。それでも後ろに道がない以上、前に進まなければならない。


「絶対、生きて戻ったらサルーグの連中に文句いってやる!」

”使わないからと言って嘗て世話になった旧道を放置するのは徳に欠けた行為だ、お前たちの商いも同じように見られるぞ”とでも脅してやろうとすら思う。それぐらいにはこの事態は腹ただしい。もう一度。後ろを振り返るが木々に覆われ、大河は見えない。それでも戦闘の音、大体は木々が薙ぎ倒される音が響いている。ウィリアムは大丈夫だろうか。


それから必死に走り続け、遂には水の音だけでなく、地面を這いずり回る様な地響きすらも聞こえ始めた頃には絶望が胃の底から這い上がって吐き出しそうになった。それでも必死に先に逃げていけば漸くと言った頃に音が止んだ。ただ、それが離れ切ったからなのか、戦いが終わったからなのかは分からない。


「ハァハァハァ・・・ど、どうなったんだ?」

膝頭に両手をつきながら、霞む目で地を眺める。森の湿気と自分の汗が混じって、変な熱が全身に毛皮の様に纏わりつき、服すらも張り付いている。足元と言わず、膝下は跳ねた泥に雑草が根を張っている。

来た道を振り返っても強引に通ってきた事が分かるだけで真っ暗だ。背丈の高い木々が鬱蒼と、迷子を心底震えあがらせてやろうとしているようだ。影は複雑に入り乱れ、僅かな陽射しが光虫のようにポッポと、置かれていた。迷子の道しるべにも思えたがどうやっても森のいたずら、更に奥に人を引き込もうとする悪霊の仕業の様に見えた。


「ハァハァハァ・・・音は止んだけど・・・ハァハァ、ウィリアムはどうなったのしら?」

「それに、ここどこなんだろう・・・もしかして迷子に、なっちゃった?」

ミラとプロトが来た道と周囲を心細そうに見ながら呟く。返事というよりも思わず出てしまった不安が言葉になったような響きがあった。しかしそれに対する答えは何処にもない。


「分かんないなぁ・・・とりあえず、固まろう。ウィリアムがそんな簡単にやられるとは思わないし、俺たちが逃げさえすれば、アイツなら十分に逃げられたとは思う。それに俺たちが通った道も、ほら、木々が折れて目印になってる筈だから、その内追いつくさ。それより、俺たちはウィリアムと合流するまで何とかしなきゃな」

周囲を改めて見渡すが何処も同じ景色に見えてしまう。上を見ようにも木々に閉ざされて方角も分からない。これは出るのに苦労するだろう。予定の道も大きく外れた。本来はもう少し大河沿いに北上する予定だった。とんだ災難だ。


「・・・ちょっと危険だけど火も使おう。魔物も来るだろうけど、ウィリアムが少しでも見つけやすいように。それに森の魔物なら俺たちの位置位分かってるだろうからな」

背中から荷を下ろして簡易コンロを出して焚き火の用意をする。このままだと冷えた汗で風邪だってひきかねない。なら火を焚いた方が良い。視界も確保出来れば疲労はあっても負傷が無い状態で、このメンツなら魔物にも十分に対応出来る。後はウィリアムと合流して回復を図ってから再行動する事になる筈だ。緊急時はまず逃走、次いで合流だ。


焚き火が周囲を照らす。火の明かりは魔物に追われ、道に迷った心の弱いところをじっくりと温めてくれる。お陰で息が深く、静かになるころには冷静にと唱えなくても良い位になった。森の魔物たちは意外にもまだ仕掛けてはこない。火に怯え、影からこちらを見張っているのか、はたまたあの魔物の勢いに押されて逃げたのか。その判断はつかないが都合は良かった。ただ、それでも何処からか見られているような感覚が背筋を蛇のように這いずり回っていた。ミラが攫われた時を思い出す。あの時の様なヘマはもうしたくない。


「・・・なかなか来ないね」

プロトが所在なさげに呟く。全員の目が来た方を向くが、足音の一つもしない。戦闘音がしない以上、ウィリアムの性格なら一直線に此処へやってきそうだと思えるが、まだ遠いのだろうか。・・・嫌な予感がフッと頭の片隅に湧いては陽炎の様に消えていく。大丈夫な筈だ。


「・・・何の音?」

ミラが顔を上げる。同時に武器へ手を掛けて彼女の顔が向いたほう。来た方向とは別の方角へ顔を向ける。凶兆がのっそりと闇から這い出てきた。そんな予感がする。正確な事は分からないが森の深いところから何かが来る。なら敵か?喉が静かになった。


「俺の後ろに来て。プロト、背中は頼むよ。ミラは光球を合図出したら頼む」

無言で彼らが頷く気配を背中に感じながら、焚き火越しに闇の先へ目を凝らす。足音が次第に大きく聞こえる。歩く感覚が酷く短く雑多だ。とてもウィリアムの足音じゃない。そしてどうもこちらに近付く意思がある。今も時折止まっては伺うように足音に変化がある。それは引っかかった獲物を品定めする様な感覚だった。


深い森が静かに揺れる。焚き火の向こうは暗く沈んで想像を掻き立てる。この森の事を知らないのも恐怖に拍車を掛けた。聞こえる足音を鑑みるにここも四つ足魔物の森だろうとは見当がつく。これがミラが攫われた時の森であればもっと違う音と気配がする。何方がマシと言うことはない。ただ、この状況で単独で行動する魔物は碌でも無いだろう事はハッキリとしていた。


ひょい、そんな気軽さで鬱蒼とした草木の間から一本の枝分かれした角が飛び出した。この森で生きていくのにまったくもって不釣り合いに思える程の大きさをしたそれは装飾を凝らした魔法使いの杖のように奇怪な形をしていて、少なくとも真っすぐ突き刺すことは不可能な程に螺子くれ、曲がりくねっていた。ただ、それが飛び出した位置が明らかに高い。其処らの家の天井よりは高い位置から突き出してきた。同時にその特徴は有名だった。恐怖が足元から登って口から悲鳴として飛び出しそうになったのを奥歯を噛んで堪える。逃げられない。ここで逃げれば本当にウィリアムと合流が難しくなる。少しは此処で耐えなければならない。そうすればウィリアムが生きてる前提にはなるが絶対に合流できる。右手に握る双刃剣が嫌に震えた。


魔物の顔が茂みから出てくる。想像していた顔だ。初めて見たが言い伝えに間違いは無かった。氷を丸のみしたかのように腹の底から冷えた。後ろからはミラが絶叫しようとしたが息が吸えず噛み殺されたような悲鳴を漏らしたのが聞こえた。仕方がない。この魔物は冒涜的だ。何を考えてこんな形になったのか想像がつかない。


突き出した顔は目が三つだった。こちらから見て左側に縦に二つ、横と縦に並んだ目と反対側には斜めになった大振りな貝位の瞳がギョロギョロとこちらを見ている。闇を溶かしこんだような瞳に丸い円が二重に映っている。動かない、瞬きもしない。まるで弓矢の的の様な目は真っすぐに自分たちを見ていた。

シカの顔を叩いて真っすぐに伸ばしたような顔の下には口があった。しかし唇のような物はなく、大きな弧を描いた軌跡に、成形したレンガを並べたような歯とそれを支える肉がぬらぬらと凹凸を焚き火の明かりに照らされている。歯の表面は割れており、その隙間から触手らしき物がわらわらと顔を出している。顔だけでも生物とはとても思えない。

体に当たる部分は大半が鹿と言っていいだろう。ただし大きく、蹄に当たる部分は先が割れていて、毛も白く、靴下を履いている様だった。そして背中の辺りには翼を模したように甲虫の足のような物が四本生えてギチギチと蠢いている。尾の部分は綿毛の毬の様な物体が一本のロープの様な尻尾の先に垂れ下がっていた。


「な、なに、アレ?」

驚愕が露わになったプロトの疑問が零れる。そうか、あれを知らないのか。そう言う意味では彼は実に若い。眼の前の魔物に釘付けになりながら何処か遠いところでそう思った。絵本の一つでも読んだ事があれば、或いは歌劇か、噂か詩か。何かそう言った文化的な物に触れた事があれば、見たことが無くても直ぐに思い当たる。何より既存の生物と明らかに違う。あれは失敗作だ。神が粘土を捏ねて成形した後、手から零れ落ちてしまった物を放置したような造形のそれはタルシア、或いはファルス等と呼ばれる魔物だ。そしてこいつが此処に居たから森の魔物は出てこなかったのだ。分かっていれば火など焚かなかった。本当に運が悪い。


「・・・とんだバケモンさ。さっきの大河の奴と大差ない。あっちが水ならこっちは陸のバケモンだ。最悪、来た道戻るぜ」

肩に双刃剣を乗せる。素直に退けるとも退けられるとも思わない。今もニタニタと、嗤う様に歯をカチカチ鳴らすタルシアは愉快そうに首を揺らす。侮っているのだろう。蔑んでいるのだろう。そう言った感情がありありと映っていた。この森が死んでいないのもこいつが気まぐれに主を生かしているからに過ぎない。知恵が他の魔物より遥かに回るから、そう言った事もする。逆に言えばそこに打開策もあるだろう。力の程は分からない。しかし、立ち向かわない選択肢は無かった。


「いくぜ。ミラ、プロト。覚悟しろ」

嫌に脈の速い心臓を叩いて叱咤する。額の汗を拭いながら恐怖で引き攣った頬を持ち上げる。笑え。そう思っていないと恐怖で無い尻尾すらも股に丸まってしまいそうだ。条件は逃げる隙の確保かウィリアムの到着、望まなかった戦闘が今、始まった。

良ければ評価、ブクマ等してもらえれば幸いです。

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