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A new Era ~始まりのヒトと終末を告げるヒト~  作者: ラー
三章 ~ルークと立ち向かうべき真実

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7話

ルークたちが魔物の山を踏破しようとする頃、帝国の動きは緩やかに見えた。帝都にはミラが旅立つ前と同様の空気を漂わせ、平時の様相だった。勿論ある程度頭が働く者であれば何かしらあった事は想像出来た。そうでなくともアガパンサス団が帝国から出ていく際には砲撃があったのだから大捕り物の類を想像できないということはない。当然街中での一斉検挙とも言える捜査はスラムの端までこの騒動の熱は響き渡ったが概ね帝都の住人はいつもの様子に戻っていた。それくらい帝都は時の流れが早く、活発だった。それと同時に世界一の大国という安心感も有っただろう。彼らの中ではあの時追われた相手は死んでいるだろうという認識位しかなく、自分たちの身にこれ以上何かが起きるとは少しも思ってはいなかった。


落ち着きを戻した帝都の住人とは裏腹に帝国の頂点、皇后の周りはやや荒れていた。元より癇癪持ちの彼女故に周囲の人間はある程度慣れてはいたがストッパーに近しいミラがいなくなった事、そして何かと苛立ちをぶつけられやすい立場にいたウィリアムの不在が彼女の怒りを周囲に分散していた。それに上乗せするように魔道部隊のαおよびβがルークたちに壊されてしまった事も怒りと苛立ちを積み重ねた。彼女からすれば折角できた虎の子を盗人と自分より下の者たちに壊されたという事実が我慢ならなかったのである。おまけに生かしてやったウィリアムが反抗したという報告は怒りの段階を一つ超えた。今、元々ウィリアムが持っていた部隊は完全に解体され、再編された。しかしそこにいた人の数が合わないのは誰もが口を噤む。誰だって火薬庫で火遊びはしない。それにこれ幸いと上の立場に成ろうとした権力者も幾分姿を消した。そう言う意味ではウィリアムいなくなった後でも重鎮の顔ぶれに変化は少ない。


帝国の謁見室は静まり返っていた。ルークたちが魔物の山の方に行ったことは既に把握されており、そこからムニオに向かうことは分かっていた。そのこと自体に帝国は焦りはない。なにせムニオに行ったところで自分たちの持つ魔道部隊の根本が無いのだ。あれは完全に此処で成されたことで初出のものだ。だからムニオに行かれた所で何かバレるような事はない。それにあそこの技術者集団にルークたちから魔道部隊の話が伝わった所で簡単に作れるようなモノではない。見た目こそ元々世界にあった技術の延長線の上にある様に見えるだろうがその実、まったく別のモノであるだけに焦る必要はないのだ。それこそアスケラにも回収されてしまったが、その人形からそっくり真似た所で宝石を埋め込まれた動かない人形が出来るだけだ。だから皇后の頭にその事に対する焦りも杞憂もなかった。今、彼女の苛立ちは自分の手の中にいたものが勝手に逃げ出して嚙みついている、という事と魔道部隊が思ったように戦果を出さなかった事だ。粛清した人の顔も名前も覚えてはいない。


そんな皇后を前に、謁見室にいる兵士や官僚は冷汗をひっそりと流し、背中に棒を入れたように真っすぐと背を伸ばして綺麗な置物のようになっていた。嘗て癇癪が凄かった時は難癖としか思えないことで次の日、何ならその日直ぐに仲間が消えた。その事に異を唱える事は出来ない。彼らは嵐の日の様に、自分に雷が落ちないことを祈るしか無かった。それは官僚らも同じで自分のミスでは無く、只の現状報告で消えた同僚を知っている。ただここに来て何の報告もしない訳には行かず、いつも震えながら、やや上ずった声で順番に皇后へ報告しながら死刑囚の様な面持ちを浮かべていた。彼らの願いはただ一つ、退室することだけだ。それさえ出来るならスラムで手持ちの金貨をばら撒いても良い、そう思うほどであった。


そして本日の報告が終わり、官僚らが扉の向こうへと消えていく。その顔は安堵に満ちており、普段は罵り合うような相手であっても思わず「今日も生き延びれた」そんな軽口を吐き出していた。彼らには皇后を相手にするなら皆、横並びで肩を組める。不思議な一体感があった。それは兵士らも同じで謁見室の当番は死番とも揶揄されるだけに一日の終わりの酒場で一杯奢られるという習慣も生まれつつあった。そして最後に謁見室に残るのは帝国の最重鎮と容易く交代の出来ない兵士達だけだ。


皇后を筆頭に双子の道化師、ブライヤ騎士団長、そしてその右腕と左腕だけが広い謁見室に留まっていた。全員の表情は固く、皇后に至っては噴火直前の様相だった。ブライヤの右腕と左腕はウィリアムの代理の様な形で呼び出されている事もあって相反する様に青ざめている。彼女たちが何か仕出かした訳ではないが、今にも処刑される囚人の様な顔色だった。それも無理なく、幾度も此処に残っているのだから皇后の怒りを既によく理解していた。


「おい。どうなってるんだ?私があの盗人を追えと命令してどれだけの時間が流れた?なのに何故、誰一人、末端の首すら私は目に出来てないんだ?えぇ?」

皇后としての立場の口調は既に影もない。目を閉じて聞いたのなら、スラムの奥深くを根城にする女主人の様なドスが利いている。心の弱いものならこれだけで息を引き取ってしまいそうだ。彼女に戦う力等一つも無いはずなのに、誰も逆らう事が出来ない、そう言った雰囲気が溢れ出す。そう言う意味では、彼女はまぎれもなく、頂点に相応しい力を持っている。決して簒奪者でも王冠を被っただけの者ではない。被るべくして王冠を被り、座るべくして玉座に腰かけていた。故に、彼女の言葉に答える者には悍ましいプレッシャーが圧し掛かる。


「・・・申し訳ありません」

ブライヤは目を閉じ、皇后の前に跪く。彼女の表情に陰りはないが僅かに疲労が化粧の奥に見えた。ブライヤはウィリアムと違い権力者側の存在であり、頭も良かった事で魔道人形の事について知っていた。その彼女からしても確かに魔道人形の実力は高く、世界を取る、という目的も達成できるだろうとは思っていた。しかし、ウィリアムが追放の様な形を取った辺りから天秤の傾きを感じ取っており、明確に敵対してしまったと推測できる様になってからは他国は兎も角、彼がいるだろうパーティに対しては不利を感じ取っていた。加えて、αが撃墜された時点でアガパンサス団への警戒も上がっていたし、βを送り込む事になった時もウィリアムの存在が見える時点で失敗まで換算していた。だから想像の範囲内でもある。だからと言ってそれで皇后が納得するわけではない。やはり、アスケラで留まらせる事が出来なかった事が大きい。今から大軍を送ってでも捕まえようとすれば間違いなくアスケラが邪魔をするだろう。流石の魔道部隊でもアスケラの航空部隊は簡単に御せる訳ではない。空は元より彼らの領域。それに対抗できる戦力として魔道部隊が生み出されたのだ。なのに初期型の方とはいえ、αとβがいわば一般にやられた事は罅となって食い込む。加えてアスケラが帝国に対して戦力を集めているのも間違いない以上、国として動くには相応の覚悟が必要だった。


「まぁ、落ち着いてよ皇后さま」

「まぁ、待ってよ皇后さま」

黙り込むブライヤに皇后の怒りが炸裂仕掛けるのを察知した道化師が口を開く。ウィリアムの反抗も嬉しくないのに、ここでブライヤまで何かあっては流石に面倒だと思った彼らは助け舟を出さざるを得ない。今はまだ、自分たちに彼女の怒りが向いていないだけだ。ともすれば次が自分達ではない保証はない。尤も彼らにもこれといったものは無い。だから一瞬だけ宥める、そう言う位の効果しか期待は出来なかった。


道化師の言葉もチラリと視線を向けただけで言葉を呑み込み切らなかった皇后が再び口を開こうとした瞬間だった。重く閉じられた謁見室の扉が重い音を立てながら開く。通常ありえない事だ。此処に入るなら最低でも門番の審査を受け、中に伺いを立てて許可を得なければ扉は開かない。しかしそれらを全て無視して確かに扉が開く。


「やぁ。ご機嫌は如何かな?皇后殿」

嫋やかな、低い女性の声にも、心地の良い青年の声にも聞こえる声が謁見室に響く。声を張っている訳では無いが風が吹いたかのようにそれぞれの耳に声が届いた。その声に全員の表情と雰囲気が和らぐ。それもそうだろう、皇后にとっては今の一番のお気に入りで、他の者にとっては今、皇后を一番宥めてくれる相手だ。感謝の念すら湧く。しかし、ブライヤだけは眉に薄っすらと溝を一瞬作り、戻してから入ってきた相手を見る。


入ってきたのは数年前にこの帝国の中枢に突然現れた男だった。何時から皇后と縁を紡いだかは正確ではない。ある日、今謁見室の中にいる面子ではブライヤと道化師だけに皇后から紹介された。その時の三人の感想を取り上げるなら「これは何だ?」であった。黒紫色の癖のある長髪を棚引かせ、魔法使いのローブを腰巻にした様な形の服に手足には防具らしきものを身にまとっていた。顔は目を細めた猫の様に魔性で孔雀の様な美しさが綯交ぜに成っていた。黄色味の混じった白肌は血管が透けて見えるほどには透明で毛の様なものは頭髪や眉といった部分を除いてまったくない。かと言って爪や牙は言うまでも無く、長い耳や羽も持ってはいない。つまるところ種族らしい特徴が一切なく、何処の生まれだとか、どういった思考を持っていそうなどの情報が全く見当たらないのである。まるでまっさらな粘土でとりあえず型を作ったような無垢さがあった。


男女何方ともつかない者は自分をノクスと名乗った。そして皇后から紹介を受けるにどうやら帝国に新たな力を齎すとのことで、当初こそ怪しさしかなかったが魔道人形の登場で彼の地位は裏に限って言えば天に登る様に一気に駆けあがった。ただ、何か嫌な予感でもあったのか、それとも皇后、或いはノクスの提案か、ウィリアムとミラにはこの事は伝えられず、他の面子だけでひっそりと計画が進んでいた。隠すこと自体は難しく無かったが何処からかこの事が漏れ、ミラの亡命に繋がった事は全員が把握している。尤もこの事にお咎めが無かった時点で何か異常な事が行われた事は想像に容易かった。


ブライヤが嘗ての事を思い出しているとその間にノクスは皇后を宥め終わっていた。既に緊張感の溢れる謁見室は鳴りを潜めた。ここ最近良くあるシーンだ。道化師はどこかホッとしたような雰囲気をしているがブライヤはますます眉間に皺を寄せる。其処にはノクスに対する不審と皇后と余りにも彼が近すぎるように感じたからだ。


言ってしまえばノクスは新参な上外部の者だ。それが国の頂点と親密、という時点で不審感を抱くには十分だ。ウィリアムであれば左程気にもしなかっただろうが貴族として生まれたブライヤにはこれがどれだけ異常かが分かっていた。しかしそれでいて動けない身が忌々しかった。そして話はあれよあれよと言う間にノクスが今後、ルークたちへの指揮を取ることに決まってしまった。皇后の顔を慌ててブライヤは見たがもう自分ではどうしようも無い事が良く分かってしまっただけに口を噤む以外に無かった。帝国の未来と共に死ぬ、そう覚悟を決めていたブライヤだったが此処に来て、得体の知れない悪寒をノクスに感じていた。

良ければ評価、ブクマ等してもらえれば幸いです。

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