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A new Era ~始まりのヒトと終末を告げるヒト~  作者: ラー
二章 ~ルークと迫りくる帝国の闇と実直の騎士~

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23話

「ウォォォォ!!!」

始めに動いたのはウィリアムだった。無理矢理に堰き止められた川が決壊した、そんな印象を受ける程に激しい彼の咆哮が周囲に響き渡る。並の兵士ではこれだけで気絶の一つでも起しそうな咆哮は後ろにいた自分でも思わず身震いしそうだった。それを支えてくれるプロトとミラ、二人の仲間がいなければ身が竦んだに違いない。


ウィリアムは咆哮もほどほどに勢いよく駆けだす。元より彼にとってはちょっとした勢い付けのようなものだったのだろう、立っていた地面が陥没するほどの勢いで駆けだした彼は真っすぐにβの元へと進んでいく。しかし、βは空の上。そこいらの家屋よりも幾分高い位置に留まっていて届きそうには見えない。自分も威勢の良いことは言ったがどうすべきかは思いつかなかった。一体、ウィリアムはどうするつもりなのだろうと彼の行動の行く末を見つめた。


駆けるウィリアムは触れるもの全てを砕きながら、βが滞空する少し手前まで進んだ。余りにも彼が速かったからかβはまだ何の行動も起こしてはいない。焦りは見えないがそれでも一歩遅れた事がハッキリと分かった。そしてそれをウィリアムは逃さない。


「ハァ!!」

ウィリアムは大きく踏み込んでから溶けたと思うほどに沈み込む。彼の巨体が半分どころか平たくなったように見えるほどにしゃがむと無理矢理押さえつけられたバネが跳ねるように、彼も一気に跳び上がった。


「えぇ・・・」

戦いが始まった直後にも関わらず、ましてや味方の行動なのに口から困惑が零れてしまう。それほどまでにウィリアムの行動はあまりにも強引で、直球過ぎた。しかし、彼にとってはそれが当たり前で最善だったのだろうことは直ぐに分かった。


跳びあがったウィリアムは投げやりの様な軌道であっという間にβの前へと辿り着く。これには流石にβも予想外だったのか、或いは油断していたのか、目を丸くしたようにも思えた。ウィリアム只一人だけが当然の顔をしていたに違いない。その証拠に、ウィリアムは両手で持った大剣を勢いよくβへと振りかざした。


「墜ちよ!」

振られた大剣はウィリアムの膂力によって、空中にいるにも関わらず確かな勢いでβへと振り下ろされる。ここに来てようやくβにも力が入ったのか、その黒翼を勢いよくはためかせ、これまた強引に体を捻じった。元々空はβにとって有利な位置、ましてやウィリアムと違って風を掴むための翼があるのだ、急に動くこと自体に難はない。それこそ何手か遅れても問題は無かった。しかし、相手は帝国最強にして無敗の騎士団長ウィリアムだった。


「ぐ、おおおおオ!!」

βから苦悶の声が響く。彼の自慢の黒翼の左翼が中ほどから切り離された。それでもまだ飛ぶことは出来るようだが幾らか不安定に見える。これならまったく手の届かない所に飛ばれる、或いは高速で動かれ続ける様なことは無くなったとみてもいいだろう。たったの一回の攻防でこれだけの戦果を作ったウィリアムの力に思わず目を丸くしてしまったが、それを作り出したウィリアムの顔に歓喜はない。彼は自分が振った大剣の勢いで地上に落ちながら苛立たし気にβを見やる。その周囲には黒い羽が旬を過ぎた花びらの様に舞っていた。ウィリアムの表情は今ので相手を倒し切れなかったのを悔やむ様に歪む。


「火よ!」

自分が今の攻防に呆気に取られている間、後ろにいたプロトが魔力をしっかりと練った魔法を打ち出す。いつも見るよりは幾分大きく見え、頭上を越えていく僅かな間にもしっかりと熱いと思う熱量を額に感じた。もしかしたら新しい杖もサポートにしたのかもしれない。そして放たれた火球は真っすぐに、体勢を崩し気味のβへと向かう。


「舐めるなヨ!」

それに激高したのはβだ。彼は体勢を崩したまま、両手を正面で開き、魔力を手の平の中で暴れさせる。魔力は直ぐに形を作り、夕暮れを固めた様な色合いの玉が出来上がる。そして両手が前に突き出されるとその玉はプロトが放った火球へと飛び、ぶつかると同時にプロトの火球を打ち砕いた。


「やべ!」

βの火球は止まらない。プロトの物よりも小さかったが密度が違うのか、プロトの火球の中心を抉る様にして通り抜けると、真っすぐにこっちへ迫ってきた。その線上にいるのは当然自分達だ。急いで後ろの二人を引っ張って、横へと逃げる。幸い、二人も駆けだす準備は出来ていたからか動き出しはスムーズで、火球の直撃は避けられた。


地面にぶつかったβの火球はその見た目にそぐわない結果を起こす。まず、炎柱が上がったかと思うと其処を中心に周囲を円形に焼いた。爆発を起こすというよりは炎が意思を持って周囲を焼き尽くしにかかったと言うべき有様で、爆風こそ少なかったが範囲内は一瞬にして真っ黒に焦げてしまった。まるで火口から吹き上げる溶岩のようにも見えた


(当たったら終わりだ・・・ま、ウィリアムが前にいる限り、避けれるかな)

足を止めて前を見ればウィリアムが再び跳びあがってβを狙う。しかしβも今度は警戒を厳にしているのか簡単には当たらず、宙を舞って攻撃を避けながら魔法を構える。ウィリアムは強いが翼を持っている相手にはやや分が悪そうだ。まぁ、翼がある相手に空中でダメージを与えられているだけ、彼の強さが確かな物だという証明にもなっている。


(俺はどう動くかぁ・・・威勢の良い事言ったはいいけど)

状況を見ながら思考を回す。プロトは魔法でウィリアムの援護が出来る。彼が持つ大剣は何かしらの加工をされているのかβの魔法を受けて尚、その輝きは欠片も失われてはいない。だから極論彼の実力と併せて隙は無いが、それでも落ちる時や着地などの些細な所をより安全に出来るならそれに越したことはない。現に今もプロトがそう言った隙に魔法を放ってβとウィリアムの一対一にならない様に牽制していた。単純な連携だが、だからこそ即興でも成立しつつ効果を発揮した。

最後方のミラは未熟な杖を握りしめながら少し離れた所でいつでも動けるように構えている。魔法の狙いにならないように、なっても兎に角逃げられる位置で、誰かが傷ついたら回復させられる様にしているようだ。一番機動力に欠け、戦闘経験が少ない事が自分で分かっている彼女は彼女の気質からすれば歯がゆいだろうが邪魔になってしまわない様に控えていた。それも一つ、立派な動きだと思う。そう言う意味では現状一番足を引っ張っているのは自分だ。

空に飛べない。魔法は使えない。動ける体はあるがどうにもβに対する有効打を持ち合わせていなかった。事実、βは会話こそ自分にも向けたが今は警戒を向けていない。何も出来ない事が分かっているかのようで腹立たしいが、戦闘中でもよく見えていると言わざるを得ない。

心の中で燻る苛立ちと、頭の焦燥感が募る。何かすべきだがその何かが分からない。余計な事をすれば邪魔になって、今の均衡を崩すだけになってしまう。周囲を見てみるが見晴らしの良い丘陵帯には使えそうなものは見当たらなかった。


「あぶなっ!」

少しぼんやりとしてしまったのが良くなかったのか、βの魔法が飛んで来て慌てて避ける。彼の魔法は大規模ではないが火力が兎に角高そうに思えた。そしてプロトと同様に多彩な属性を使い分けてくるのも面倒だ。特に雷は速く、距離が無いと自分では避けられそうに無い。プロトやミラは言わずもがなだが其処はウィリアムが上手く相手の後方に回ったりして相手に魔法を出させないようにしていた。自分に飛んできたのは中間位に立っていたのとぼんやりしていたからだろう。


本格的にどうすればいいか手詰まり感がある。いっそ武器か石でも拾って投げてみるかと思うが焼け石過ぎて頷きにくい。

「お、そうだ。やってみっか」

一つ思いついた策、と呼ぶには杜撰すぎるが思いついたネタがあった。もしかしたら良い奇襲になるかもしれない。失敗したら丸焼けは避けられないかも知れないが、やる価値はありそうだ。


一度屈伸してから低く構えて、地面を蹴った。行く先は真っすぐ、攻撃のタイミングを伺いながらβの魔法を避けているウィリアムの所だ。

真っすぐに走ってくる自分は直ぐに戦っていた二人の注意を良く惹いた。勿論、動きを止めて、顔を向けるなんてマネはしないが戦力外の奴が勢いよく乱入して来れば気にはなる。そしてβが邪魔するなとでも言いたげに片手を持ちあげて、その手のひらに魔力を集めれば紫電が迸り始める。避けにくく、一度当たれば戦闘不能に持ち込める雷を選んだらしい。ウィリアムもその隙にβへ跳び込むか、自分への攻撃を防ぐかで少し悩むような動きをする。しかしβは片手で魔法を行使しながらもう片方も別の魔法を構えているのが見えた。その威力は両手で編んだ時ほどでは無いだろうが明確な殺意は籠っているように見えた。どうやらβは同時に複数の魔法が行使できるらしいと嬉しくない情報が付け足された。それでも自分の足は止めない。というより止めたら本当に邪魔になってしまう。ウィリアムへ助けはいらないと手を振って加速する。


βの魔法が完成し、雷の槍が鋭く自分へと飛来する。本物の雷よりはハッキリと遅いがそれでも瞬き一つすれば何周りも大きく見えてしまうほどの速度がある。当たれば自分は運が良くても動けなくなりそうだと思いながら眼の前に飛んできた雷へ跳び込むようにして地を蹴った。

後ろは難しく、目的を思えば横も望ましくない。だから前に転がった。普通に戦っているなら絶対にしたくないがウィリアムもいるだけに大丈夫だと判断して前へと転がり込んだ。そして坂を転がる毬の様に跳ね回って跳びあがる。後方では地面に叩きつけられた魔法の爆ぜるやかましい音が背を叩いた。しかし、自分の体を焼くことはなかった。


「ウィリアム!」

全速力で彼の元へ駆けながら名前を呼ぶ。空いた左手は上を指さすがこれだけでは流石に分からないのか、ウィリアムが片眉を顰めたのが見えた。しかし彼の即興性に掛けて近付くと同時に踏み込み、彼の丁度手前で落ちる位に跳んで足を揃える。そして視線を上へと向けた。


「無茶をする・・・ハァァァ!!」

此処まで来れば流石に分かったウィリアムがぼやくように呟き、大剣の腹を自分の足底に当てる。それにしっかりと乗って、彼が振り上げた勢いに乗って蹴りだす。そうすれば自分の体が放たれた矢のようにβへと跳んだ。狙いは彼の体、αの時のように、彼を地上に引き摺り落とそうと思ったのだ。


「阿呆ガ!」

当然それを只で見過ごしてくれる訳がない。真っすぐに跳び込む自分へβが魔法を放つのが見えた。それも威力の高い雷だ。仲間の助けが得られないタイミングだ、その選択は正しいだろう。でも読めている。突貫でも無策じゃない。手に握りしめていた双刃剣を魔法が放たれるよりも先に、βの手の間へと投げ込む。

先程から戦いを見ていて気が付いた事だがこのβ、魔法を構えて放つ瞬間は絶対に動きが止まるのだ。空中を飛んでいるから分かりづらかったが魔法を放つ際は必ず滞空、もしく落下中にしか魔法を放たなかった。もしかしたら翼が壊れかけているのもあるかもしれないが、兎に角自由に動き回りながら魔法を打つことはしなかった。いくら速く、攪乱するように動けども、魔法を使う瞬間だけは必ず止まっていた。だから其処が狙い目だと思った。おまけに手のひらで魔法を作る機構担っているから妨害も案外狙いやすい。そして狙い通りに双刃剣はβの魔法が放たれる瞬間に刃とぶつかって暴発した。


「捕まえたぞ!」

βが暴発した魔法に手こずった瞬間、彼の体に組みつく。魔法の残滓があったせいかやや体が痺れるような感じもあるが許容内だ。

「離セ!!」

しがみ付く自分を振り落そうとβが体を激しく揺らす。しかし一人で落ちてやらない。勢いよく動く黒翼をしっかりと握ってから抱え込んだ。

「落下は初めてか?ま、直ぐに終わるぜ」

翼が無ければ落ちるのは当然の事だ。そして本格的に暴れるβと共に地面へと落下した。

良ければ評価、ブクマ等してもらえれば幸いです。

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