20話
「ちょっと暇になっちゃったなぁ」
階段の端に腰を下ろす。ここの住人が壁や高所を移動するのが当たり前な事もあってか、結構な高所だというのに手摺も柵も付いていない。まるで崖の先に足を投げ出すような形になってしまったが、景色は悪くない。眼の前にはアルニカで一番大きな大樹が悠然と佇む。まるでこの国の住民を見守っているようにも見えた。
「・・・ルーク。お前に聞きたい事がある」
足をブラブラさせているとウィリアムが話しかけてくる。珍しい事もあるもんだと顔を向けると腕を組んだウィリアムが傍に寄ってきて、横に立つ。
「なんだ?ミラの傍にいなくていいのか?」
いつも彼女の横に立っていないと落ち着かなさそうな事を交えて揶揄う様に言ってみるがそれを気にするような素振りはない。
「茶化すな。ここで何かあるようには見えん。それに何があっても吾輩の射程圏だ」
ミラたちは少し離れたところで杖を吟味している。自分では何かあった時に確実に間に合わない距離だ。でも前に見た彼の身体能力ならとも思えるし、ここに来るまでの道で彼の感知能力が高い事も知っているために出来そうだな、とも思えた。
「そ。で、聞きたい事ってなんだ?てっきり嫌われてると思ってたんだけど」
正直言って仲が良いとは言えない。互いに後の二人とは仲良く出来ているが自分とウィリアムだけはまだ蟠りがある。まぁ、ウィリアムがクソ真面目で騎士だった事を思えば盗人で楽観的な自分とは相性が悪い。そもそも彼の職務をおもっくそ邪魔してミラを攫った上、今もなお、一緒に着いて回っているのだから、面白くは無いし、好感を持つタイミングも無かった。
「確かにお前の事は嫌いだ。だが、それで全ての関りを断つようなマネはせん。何より、お前は皇女様に頼られている。ならば吾輩の一存でお前を害する様なことはしない」
憮然と、しかし疑う余地のない表情と雰囲気がウィリアムにはあった。まぁ、分かりやすく、帝国の上層にいたにも関わらず、真っすぐな奴だと改めて思う。思い返せばこういう所がきっと帝国の後ろ暗い部分に関わらせて貰えなかったポイントなのかもしれない。ここまでの旅でも彼は何一つ変わらなかった。これで実は全部嘘だったとかなら世界一の役者になれる。
「で、何が聞きたいんだ?」
「うむ、お前に聞きたいのはこの旅の目的、とでも言えばいいか・・・帝国の裏に誰かる、という皇女様の言葉をどう思うか、だ」
「あぁ・・・裏に誰かいる、ってやつか」
ミラが言うには帝国にはプロトを作り出す技術を流した奴がいるらしい。自分的には案外信憑性はありそうだが、実際のところ、帝国の技術力というものは詳しくない。もしかしたら出来るだけの技術がある可能性も否定できない。皇后の様子が変わったのだってそれ由来ということもありうる。とはいえ、ミラの言葉を嘘と断じるのも難しかった。
「そうだ。・・・こう言っては難なのだが、吾輩はそれなりの立場にいた。少なくとも軍事においては頂点と言ってもいい。その吾輩に一切知らせることなく、その様な兵器を作り上げることが出来るとはあまり思えなかったのだ。吾輩の部下たちからもそんな噂を聞いた事もない」
眉間に皺を寄せるウィリアムの表情は迷いが感じられた。まぁ無理もないと思う。自分だってボスが凄まじい悪事を為そうとしている、なんて家族以外にそう言われたら鼻で笑ってぶん殴っただろう。だから彼が自分の守るべき人に自分の守るべき場所を疑う様な事を言われれば迷うのも仕方がない。それにプロトの異質な部分こそ、旅で見てきただろうが確証とは言えない。かなり珍しい種族と言ってしまえば強引かも知れないが納得させられない訳ではない。それぐらいに兵器としてみるとプロトは人過ぎた。
「故に、お前の話を聞いてみようと思ったのだ。皇女様が信を置き、プロト殿との付き合いも吾輩よりも長いお前に」
成程、プロトにもよく話しかけていたのはその意味もあったのかと思う。
「そうだなぁ・・・」
顔をウィリアムからずらして空、は見えないがアルニカの天井に目を向ける。思えば結構な勢い任せにここまで来たのも事実だ。それにどうせなら仲良くなった相手の言う事を信じたい、という思いもある。だからそこまで深くは考えてこなかった。それに、何かあってからよりは疑って、の方がいいとも思えた。何時だって不幸と理不尽は突然だ。それなら納得いくまで考えて疑って、行動したほうが駄目だった時に納得がいく。
「まぁ、俺は、アンタも見ただろうけど、プロトの兄弟っぽい奴が壊れてんのも見たし、襲われもしたからなぁ・・・それにどうせなら、折角仲良くなった相手が助けてくれ、って言ったんだ。なら、助けてやるのが道理じゃないか?どうせ、やることもなかったからな。うん、それだけだ。俺には国とか、陰謀とか、そんなのは分かんないからさ。でも、女の子一人、困ってんの位なら助けられそうだな、ってのもある。それに、守る、って言ったからな」
うん、何度思い返しても世界規模の問題なんて自分にはどうこうしようもない。でもミラの旅を助けてやったり、プロトの悩みに寄り添うくらいは出来そうだと思った。だから此処迄来たんだとウィリアムに伝えてやった。上手くは言えない。そんな事はしてこなかった。
「ふむ・・・そうか」
それでもウィリアムは目を伏せ、静かに、腕を組んだまま口端を曲げる。どこか不機嫌にも、悩むようにも見えた。まぁ、裏に暗躍者がいるか、それとも、全部誇大妄想か、なんて疑問に、そんな事はどうでもいい。やりたいと思ったから来ただけ、なんて言われれば、そうもなるかと再び顔を天に向ける。
「・・・やはり、見極めがまだいるか」
暫く無言の間があった後、ウィリアムが独り言を呟く。近い位置にいたせいか、聞こえてしまったがこちらに聞かせようと思った訳ではなさそうだ。
「まぁ、そんな悩まなくたっていいんじゃないか?どうせ、此処でアンタの求める物なんて無いぜ」
「立場を考えよ。お前の言う事も一理くらいはあるだろうが、それで致命的な事になれば、吾輩は自身が許せん」
「堅苦しいなぁ」
そう言えばウィリアムは大きく溜息を吐いて離れる。どうやら話は終わりらしい。まともに話せたかと言えるかは微妙だが、それでも彼なりにこの旅に思うところは多そうだ。
(出来ればこっち側にいてくりゃ良いけど)
少なくとも彼が敵対したら終わりだ。今も、彼なりに納得するために旅に着いて来ていることは良く分かっている。だから俺たちじゃなくて帝国側に納得すれば、ウィリアムは最強の騎士団長として自分達へ再び剣を向けるだろう。
「ルーク、ウィリアム!杖が見つかったわ!」
そんな事を考えているとミラが一本の杖を持って階段を降りてくるのが見える。その後ろには店主とプロトも並んでいて、プロトの手にも杖が握られていた。フードの奥に見えるミラの表情を見る限り、良いものが見つかったらしい。
「よ、見つかって良かったな。なら後は買うだけだな」
そう言いながら立ちあがって服を叩く。そして二人の杖を改めて見た。
ミラの杖は若干螺子くれた見た目をしていて人の腕のような太さの蔦が絡み合った様な形をしていた。先端に当たる部分は蕾のように緩い楕円を描いて、春を待っているようだった。手もとは比較的細く、ミラの手でもしっかりと握れる太さだ。重量のバランスは多少悪いだろうが、慣れれば上手く扱えるだろう。それに対してプロトの杖はこれまた魔法使い然とした見た目の杖だ。一本の棒を曲げて?のような形になっていて、全体の長さはプロト自身よりも遥かに長い。先端の欠けた円の中心には何やら紙をグシャグシャにしたような物が付いていて、こちらも開花前の花の様にも見えた。
「うん。不思議なんだけど、確かに「これ!」って感じで見つかったの!」
ミラは自分の杖が見つかった事がよほど嬉しいのか声が弾んでいる。
「ボ、ボクも似たような感じ、かな?でもミラほどハッキリとはしなかったよ」
「でも、良いのが見つかったんだろ?」
「う、うん。これなら良いと、思う」
プロトも心なしか嬉しそうな声音だ。
「お嬢ちゃんは簡単だったけど、こっちのは大変だったヨ。やっぱりあんな変な杖、使ってるからだヨ」
店主がぼやく。どうやらプロトは難航したらしい。
「そう言えば変な杖って、何が変なんだ?」
あの時、店主が言うことはなかったが、傍目には普通の杖だった。
「ん?あの杖だヨ?あの杖は死んでるんだヨ。あれじゃ、決まった事しか出来ないヨ」
「死んでる?」
「そうだヨ。見たら分かるんだヨ。ウチの杖は皆生きてて、持ってる人と一緒に成長するヨ。だから本人の成長に併せて強くなるヨ。でもアレは死んでるから限界があるヨ。その代わりに範囲内なら誰が持っても同じ様な力を発揮するヨ。正直、何のロマンもない、おもちゃだヨ」
初めて聞く杖の在り方に目が丸くなるのを感じる。てっきり、杖を買ったらそのまま加工して普通に使うものだと思っていた。外で聞いた杖の話では杖を作った後、別の国、これから寄る二番目の国で使える様に加工してから使用するもんだと思っていた。勿論この加工はある程度大きい国なら何処でもいい。
「ウチのはこのまま、所有者が魔力を通し続ければいいヨ。そうすれば馴染んで、強くなれば花だって咲くヨ。勿論、その過程も加工すれば飛ばせるヨ。ウチではやらないけどヨ。まぁ、ちゃんと育てたのと比べると雲泥の差だヨ。だからおススメは大事に魔力を通しながら使うことだヨ。多分皆が知ってるのは加工済みの奴だろうけどヨ」
店主はそう言いながら頭の花を揺らす。成程、だから外で買うと加工が必須、という情報が流れるのかと納得する。誰だって最初から使い勝手の良いものが欲しい。
「さ、わかったなら会計だヨ」
そう言う店主に続いて店に戻る。杖は思ったよりは高額だったが、ミラとプロトが嬉しそうにしていただけに何とも言えなかった。
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