19話
魔法使いの杖、剣士で言えば剣、鍛冶屋なら金槌、料理人なら包丁と言った位置づけになる。いわば必須の道具だ。無いなら同等の代用品が無ければ始まらず、役も名乗れない。勿論、無くても魔法を行使することは出来る。しかし、それは剣士が鍛えた肉体で殴るに近い。本来の実力とはかけ離れてしまうのだ。特に杖は魔法をサポートする要素が強く、杖の質が実力に直結することもある。また魔法によっては専用の杖が無ければ行使も出来ない事もある。つまり、杖が無いミラは実力以前の問題を抱えていて、プロトは新たな可能性の模索が今回のメインだ。尤も使うには別の加工が必要だから、この国で解決はしない。
「店主が言ってたのは・・・この辺りだと思うけど・・・」
賑わう大通りを巡りながら店を探す。少しばかり見慣れない風景は何かを探す時に不便が際立つ。せめて看板位は目立つ様にしてくれれば良いのだが、この国では看板の表示が大国とは違って分かりにくい。昨日の宿だって人に聞いたから簡単に見つかったのであって、看板自体は意味の分からない記号の組み合わせと花飾りで示されていた。あれでは初見は分からないだろう。とことん外部からの人間に優しくない国だと思うと同時に少数民族の小国はこんな物だという納得もある。
「アレではないか?」
ウィリアムが指を差した方へ視線を向けると、何とも奇妙な形をした建物があった。そして確かにあれが杖屋だろうと簡単に推測も出来た。どうやらアルニカでは珍しく、分かりやすい店のようだ。
「ほんとだ。一杯杖が・・・生えてる、のかな?」
プロトが言うようにその建物は杖がたくさん生えていた。或いは成ってるとでも言うべきか、まるで杖が生える木としか形容しがたい建物があった。
「本当に木の実みたいだな」
建物の近くまで来て成っている杖を見上げる。どうやら他の建物のように花が咲いているのではなく、杖が成っている。形も様々で、長いものに短いもの、螺子くれたものに真っすぐな物と無数にあるのに、そのどれもが同じ形をしていない。但し、色だけは緑色で統一されていて、未成熟な果実にも見えた。
「私、杖って職人が一本一本木から削って作ってるんだとばかり」
ミラの言葉に頷く。というか普通の武器は職人の手で一から作られる物だ。だから型に流し込むだけの粗悪品なら兎も角、基本はオーダーメイドの一点ものだ。ただし、そう言う意味では成っているのも似たようなもの、と言えなくは無いかもしれない。
「まずは入ったらどうだ?疑問も店主に聞けば分かるだろう」
確かにその通りだ。嵌め込まれた様な扉に手を掛けた。
カランカラン、鉄や錫とは違うが小気味の良い乾いた音が響く。扉に付けられた鈴の様な木製品が鳴ったらしい。それから少しばかり空いてから店主が顔を出す。
「いらっしゃいだヨ」
既に見慣れた蔓毬族の姿だ。しかし頭には葉ではなく、大振りな花が咲いている。ここに来るまでも同じように花が咲いているのはそこら中にいたが、何か意味があるんだろうか?そして特徴的な外観と比べて内部はこざっぱりとして、精々が蔦に応じて凸凹としている位だ。
「あぁ、二人の杖を見繕いに来たんだが・・・」
そう言ってミラとプロトを前に押し出す。そうすれば店主の黒い瞳が二人へ向いた。
「何の杖が欲しいんだヨ?ウチはどんな杖でもあるヨ」
傾げられた首、感情は読めないが何処か機嫌良さそうに頭の花が揺れる。
「あ、あの。私は聖属性の杖なのだけど・・・」
「聖だヨ?珍しいんだヨ」
まずはミラが答えれば店主は頭を風に揺られる草のように揺らす。
「はい。・・・ありますか?」
「当然あるヨ。後は合うのがあるかどうかだけだヨ。でもウチはこの国一番だヨ。だからあるヨ」
自信の籠った返事が返ってくる。例え表情が読めなくとも、彼には確信めいた物があると分かる程度には声に力があった。
「そっちは何が欲しいんだヨ?」
「ぼ、ボクはこれに似たのが欲しい、です」
そう言いながら出したのは彼がずっと背負っていた杖だ。初めてあった時から同様にいかにもな魔法使いの杖だ。癖も無く、最悪鈍器にもなりそうだ。
「?・・・これ、杖のかヨ?見たことないヨ」
しかし店主の反応は想像とは違った。どんな杖だってあると豪語したにも関わらず、何の特徴も無さそうな杖を見たことがない、と口にした。
「え?」
当然プロトも驚きがそのまま口から流れる。しかしそんなプロトが目に入っていないかのように店主はプロトの杖をクルクルと回し、手の蔦を開いてはペタペタと触り続ける。新しいおもちゃを貰った赤ん坊みたいだ。
「ん~やっぱり変なんだヨ。ウチで作ったものじゃないヨ。でも、良くは出来てるヨ。おもちゃみたいなもんだけどヨ」
全員が固唾を飲むような雰囲気の中、店主は一通り触って満足したのか杖をカウンターに置いた。
「まぁ、似たようなのも見当が付くヨ。4属性満遍なく使えればいいんだヨ?」
「あ、はい!火と氷と雷、土の4つです!」
「分かってるヨ。それじゃ、着いてくるヨ」
色々聞きたい事があったが店主はこちらを一切気にする素振りが無く、既にカウンターの後ろにあった扉を開いて行ってしまう。
「と、兎に角、行ってみましょう?」
ミラがそう言って扉の奥へと消えていく。流石に彼女一人だけ行かせる訳にはいかない。全員で顔を見合わせて直ぐに扉へ向かった。
扉の向こうは階段になっていて、外壁に沿って登っていた。顔のすぐ横には外から見たのと同じように杖が成っていた。
「二人に合うのはもっと上だヨ」
店主は意外と言うと失礼かも知れないが全員が来るのを待っていてくれたようで、その傍にはミラも立っていた。そして彼に連れられる儘に上へと登る。
「二人ともちょっと珍しいからヨ。下だと足りないんだヨ」
「足りないって何が足りないんだ?」
「杖の栄養だヨ」
本当に植物みたいだ、と思ったが店主が口にするうんちくを聞く限り本当に木の実と変わらないようだ。また、これは杖に限った話ではなく、あらゆる木工製品が同じで、こういった木に成るらしい。それを上手く育てるのが此処でいう職人を名乗る者の仕事のようだ。他にも金属の木や苗なる物もあるらしく、苗で有れば一株に付き一本、武器が生えるようだ。初心者にもおススメらしく、成功するかは兎も角、木に比べれば育てやすいようだ。ちなみに育つ武器は店主曰く、その者に尤も合った物、らしい。あまりにも他国と在り方が違いすぎる。そもそも頭の中は育てやすい武器が生える金属の苗とは何ぞやで一杯だ。
「このあたりだヨ。どうだヨ?ビビっと来るのはあるかだヨ?」
こちらの疑問も全て適当に答えながら状態だけはスルーし続けた店主と自分たちが結構登った先、それこそ陽がよく当たり、街並みも小さいと思える位には登った所で店主がうんちくと足を止める。
「ビビっと?」
「そうだヨ」
プロトが首を傾げたのに併せたように店主も首を傾げる。
「さっきの話と同じだヨ。此処での所有物は全部、直感だヨ。本当に必要な物は必要な人の元へ、だヨ」
「必要な物は必要な人へ・・・ですか」
ミラは店主の言葉を聞いて壁の方、杖が突き出し、或いは吊るされている方を見やる。そしてプロトも戸惑いながらも同じように外壁へ視線を向けた。
「見つかったら言うといいヨ。無ければまた移動だヨ」
その言葉と共に、数えるのも億劫な杖と向き合う時間が始まった。
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