18話
「まぁ・・・素敵ね」
街、というべきかは今まで住んでいた所と在り方が違いすぎて判断に付かないが、人が住んでいるという意味では街としか言いようのない場所を歩く。
「うん、凄いね」
ミラとプロトが見ているのはアルニカ様式とでも呼ぶべき家の外観だ。アルニカの家は国の外壁と同じように編まれた草木で出来ていて、なおかつ地中と繋がっているように見えた。それこそ、伸びてきた蔦をそのまま編みこんで象った様な見た目だ。そして所々から花が咲いていて、それが彩りとして機能していた。
「どうやって作ってんだろうなぁ?」
言ってしまえば植物、それも生きたものをこうも見事に操るのは今までの知識の外だ。ただ、家の形は外とは大きく違う。
「成程・・・あの者の移動方法はここでは主流のようだな」
ウィリアムが呟く通りにコッロと同じ見た目の者が彼と同じように自分の手足を使って壁をスルスルとよじ登っているのが目につく。それだけでなく、アルニカの中央には塔の様な物がまっすぐ伸びていて、そこから蜘蛛の巣のように線が国中に張り巡らされていた。そしてその線を伝ってコッロと同じ蔦毬族が移動しているのが見えた。その影響か、高いところにも無数に小さな住居らしき物が点在している。まるで大きな木に成っている木の実の様で、花のお陰で色とりどりな事も相まって綺麗だ。
「にしてもこうなってくると宿も大分怪しいなぁ・・・あると良いけど」
ある程度アルニカの中を観光の様に見渡しながら不安を口にする。ちょっとパッと見た限りでは宿らしき物が見当たらず、それだけでなく、多種族も見当たらない。間違いなく貿易をしているはずなのに、それに当たる種族が見当たらないのは不安要素だ。最悪、国のどこかでテントを張って泊まるのが当たり前、なんて言われてしまうかも知れない。
「食事も、これだと怪しく見えるね・・・でも公爵が何も言わなかったから、補給は出来るんだと思うんだけど」
ミラもしきりに目線を周囲へ飛ばしている。しかし、看板のような物は無く、似たような景色がひたすらに続いている事もあって迷路に迷い込んだ気分だった。
「吾輩が聞いてこよう」
ウィリアムがそう切り出して輪から離れる。手の打ちようが無いと成ればそれしかない。彼が近くにいた蔦毬族へと声を掛けるのを少し離れたところで見守る。
「待たせた。宿はあるようだ。補給も出来るだろう。それらしきものが見当たらないのはこちらは国民が住まうエリアで、反対側に来訪者向けの場所があるらしい」
「へぇ、そうだったのか。じゃぁ行こうぜ」
「あぁ、あの中央の塔を目指して歩けば迷うことも無いだろう」
帰ってきたウィリアムの言葉に頷く。確かに、塔は良い目印だ。陽の関係もある。やや早足に向かった。
ウィリアムが聞いて来た方向へ向かうと次第に街の様相が変わっていく。先程までは何方かと言えば閑散として、美しい花畑のような雰囲気だった街並みがやや無骨、とでも言えばいいのか、自分達から見て、利便性が高くなった様に見えた。
家らしき物は球体型から四角の物が増え、地面にしっかりと着いている。上空には左程蔓が敷かれる事はなく、アルニカの上部がよく見えた。喧噪も増え、異国情緒は満載だがどこか見慣れた雰囲気もある。いわばアルニカ版の市場、といった所だろう。ただ、異種族らしき者の数は少なく、花の様に色とりどりの体表をした蔓毬族とそれに似た種族が入り乱れている。ただ、それが何の種族なのかは見たことが無いから判断が付かない。幾らか蟲種もいるようだが、外ではあまり見たことがない造形だ。彼らに共通しそうな物と言えば全体的に口が窄まっている、或いはパッと見では見当たらない事だろうか。まさかプロトと同様に食事をしない訳でないだろうとは思うけど、その先は見当が付かない。
「凄いわ。住人迄カラフルなのね」
ミラが感嘆の声を漏らす。実際蟲種の羽付きは色とりどりな物が多く、蔦毬族の体も色々な色が混じっているからか、まるで子供の描いた画用紙の上のようだった。むしろ揃いの色の外套を纏っている自分たちが酷く浮いて見える。もしかしたらミラの七色の髪も此処なら目立たないのではないだろうかと思えてしまう。
住人達の姿に暫し目を奪われた後、本来の目的通りにまずは宿へと向かった。幸い、宿自体は簡単に見つかり、店主に補給に向いた店の紹介までしてもらえた。
「ここも、全部蔦なんだね」
プロトが興味深そうにベッドを眺めながら零す。外壁と同様に、ベッドは蔦を編んだような見た目そのままに床から生えていた。形も不揃いで、箱の様な見た目の物も有れば、花の様な形をしたものまである。必然的にそれぞれの体のサイズに併せたベッドを振り分けたが、もしウィリアムのような大型で、合うベッドが無かったらどうなるのだろうか、とは疑問に思う。
「まぁ、でも寝心地は良さそうだぜ?何の葉かはわかんないけど、すっごい柔らかくて軽い!」
ベッドに敷かれていた大きな葉っぱを手に取る。どうやらこれが此処の布団らしく、自分の体程度なら、ミノムシのようにすっぽりと覆えそうだ。下にも同様の物が敷かれてあって、手触りも高級な絹を使った物の様に滑らかだ。
「フム、確かに悪くない。ミラ、様も問題はありませんか?」
「えぇ、勿論よウィリアム。それに私だって野宿位はもう何度もしてるのよ?」
騎士、姫コンビにとっても納得の行くものらしく、不満は誰も持ち合わせずに済んだ。案外、この宿の具合で喧嘩になることはある。他所の連中とは勿論だが、身内同士でも居心地の悪いところにいると自然と悪態だって出てしまう。特に睡眠なんて気持ち良ければ良いだけ良い。
それから、手分けして市場を巡って買い物を済ませた。ミラにはウィリアムが付き、自分はプロトとアルニカの市場を回った。アルニカは外向けの市場であってもこの国の文化と種族に偏りがあるせいで、彼ら向けの物が非常に多い。まず、肉や魚と言った物は何一つ無く、殆どが保存の利いた野菜だ。それも殆ど味の付いた物ではなく、乾燥させた様な物で、塩気はない。正直自分の好みとは大きく外れているがミラにとっては悪くないだろう。後は炒った木の実や葉物同様乾燥させた果物も種類が豊富だった。後は蜜が極めて多い。
この蜜はどうやら彼らの主食でもあるのか、それぞれの好みに併せて細分化されていた。何処の、何の植物から、どのような手段で取ったのか、どんな栄養を与えたか等、上げれば切りがないほどで自分には良く分からなかった。他にも体の調子に併せて変える事もあるようで、本格的に蜜が主食で無いなら理解しきれないだろうと思った。また、場合によっては多種族にとって毒にもなると聞いては手が出ることはない。
そしてそれぞれえ買ってきた物を分配して荷に詰め込む。自分たちが食料を担当して、彼らには水結晶を筆頭に雑貨や医療品を買ってきてもらっていた。成果を聞けば、どうやらアルニカは森の中にあるだけに、薬の種類も豊富で、騎士団長だったウィリアムからしても納得の行くものを買えたようだ。
「後は二人の杖か。一応、残金も見とこうか」
そう言えばミラに渡していた財布が渡される。中を見れば思ったよりは減っていない。少しだけ心配していたが、思ったよりウィリアムが買い物上手だったのだろうなと思う。・・・ミラには悪いが、彼女に買い物が出来るとは思えなかった。金の事を学んだことは有れども、庶民的な金勘定は知らなさそうだ。何時か教えてみるのも良いかもしれない。
「うん、これなら高くなけりゃ行けるんじゃないかなぁ・・・公爵がなんか、奮発してくれたし」
自分の持ってる本体の財布にはまだ十分な金が入っている。無駄遣いは出来ないが今後を思えば戦力強化は見過ごしにくい。
「でも、良いの?私は別に・・・プロトみたいに攻撃魔法が出来る訳ではないわ」
「ボ、ボクも今の杖で十分だよ?」
「いや、こういうのは余裕があるうちにしとくもんだ。後からいきなり手に入るもんでも無いしな」
「私も、賛成です。手段は余裕があるうちに増やして置くべきです。ミラ様にしても杖があった方が遠距離から回復させる、という事も出来ますし、もしかしたら回復以外の力、例えば解毒、のような能力が増える可能性は十分にあります」
珍しくウィリアムが自分の意見に素直に乗る。彼自身、戦場を生きてきただけにこういった事には労と財を惜しまない性格なのかもしれない。
「ま、まずは見てみようぜ。それから考えても良いさ。兎に角、今日はもう遅いから、明日。明日、宿の奴に聞いて見ようぜ」
そう言えば、二人は何処か戸惑いは有るように見えたが、一応の納得はしたのか素直に頷いた。
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