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A new Era ~始まりのヒトと終末を告げるヒト~  作者: ラー
二章 ~ルークと迫りくる帝国の闇と実直の騎士~

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16話

始まった徒歩の旅は意外と言うと違うかも知れないが想像よりも良いペースで進んでいた。アスケラの周りは肥沃な大地に大森林が国を囲むようにして覆っており、徒歩で国境を出ようとすれば、国の中央を離れれば離れるほどに段階的に難易度が上がっていく。森の難易度は純粋に深さであり、人の手から離れた土地はその豊かさとは裏腹に厳しさを内包していた。特に最初こそ、王都の近くに点在する村々の為の道があったものの、一番端の村を通り過ぎてしまえば未開としか言いようのない景色だった。何せ通常は飛空艇でしか他国に出ないのだから整備等する訳もなく、帝国の山脈と同じで天然の要塞なのだからそれも当然だった。

そうなれば歩くだけでもかなりの消耗を強いられる筈だったが、これに関しては新たな仲間、ウィリアムが騎士として積んだ経験と彼自慢の膂力で邪魔な物を退かし切ってくれたお陰で割とスムーズに森の中を進んでいた。もし彼が居なければ今の半分も進めていたか怪しい。それだけでなく、魔物への対処もピカ一と言っても良かった。

金鬣(きんりょう)族は生まれ持って体が大きく、力持ちが多いがそれだけでなく、嗅覚や聴覚も獣種らしく優秀だった。また多少暗くとも目が利く事もあって、警戒のアンテナが極めて鋭い。自分にはまったく分からずとも、彼が突然立ち止まり、周囲を警戒するようにキョロキョロとした後、暫くすると実際に魔物が飛び出してくることの何と多いことか。お陰で先頭を歩く彼が立ち止まれば魔物が近くにいると認識してしまい、反射で準備が出来るにまで至った。とはいえ、彼が大剣を振るえばそれだけで全ての敵が塵に変わってしまうので此処に至るまで、ウィリアム以外は一度も武器を振るうことは無かった。

(もう、アイツだけでいいんじゃないか?)

そう思ってしまうほどにウィリアムは強い。また騎士の経験が明らかに今の状況に噛みあっており、本当に彼一人で何とでもなってしまっていた。とはいえ、これは素直に有難く、彼には感謝を告げる日々だった。


「いやぁ、ウィリアムのお陰で順調そのものだな」

旅だってから数日、暗い森の中で火を焚きながら全員で囲む。ウィリアムが道を開いて、なおかつ護衛のように振る舞ってくれる事もあって、後ろの三人は薪を集めながら歩く事が出来ていた。通常なら疲労と、見えない所からの奇襲を気にして火を焚いたり、笑う等出来ないことを思えば気分はハイキングだ。

「えぇ、本当に。ありがとう、ウィリアム」

「いえ、当然の事です。・・・だ」

自分の言葉にミラが乗り、ウィリアムがまだ慣れない雰囲気で返事をする。彼の言葉遣いはもともと帝国の騎士団長という立場からするとそこまでカッチリとしたものではなかったがそれも彼の生まれからすれば当然の事で、なおかつ、彼が立場が上になるにつれ、必死になって学んで身に着けた事もあって中々解れなかった。もっとも、彼が真面目な性格なお陰で少しずつ平民のモノに近付いている。これなら少し返事が遅れたりはするかもしれないがアルニカに着くころには様になっているだろうと思えた。それが分かっているだけにミラが最初の頃の様にウィリアムを詰める様な事もしない。

「で、でも。ウィリアムさんのお陰なのは間違いないよ」

プロトもウィリアムを褒める。それに対してウィリアムは「いや、吾輩は当然の事をしただけである。プロト殿もこうやって薪を集めてくれたではない・・・ただろう?十分だ」とミラ相手よりはいくらか上からだがそれでも対等の相手のようにプロトへ言葉を返した。

「まぁまぁ、そんな謙遜すんなって。褒められたら素直に誇れよ」

バシバシと彼の肩を叩けば表情が歪み虫を見る様な目でウィリアムがこっちを見てくる。

「・・・ルーク、お前はもっと努力すべきではないか?仮にもリーダーなのだろう?」

他の二人と比べて何倍も荒っぽい口調が返ってくる。やっぱりと言うべきか、あまり好かれてはいない。一応、認めてはくれているのは分かるが、それでも騎士なんてモノをする奴と盗賊な自分では少しだけ相容れない部分がある。それに金鬣族は集団の中で上に立とうとする気質が強い。彼より弱く、現状役に立っていない自分がリーダーな事に無意識に反発もしているのだろうと思った。勿論彼の態度で気分が悪くなる様な事は無い。他人との関係なんてそんなものだとよく知っているし、自分もこの数日でちょこちょこ揶揄っては笑っていたのだから、納得の行くところだ。それに本当に仲間、とは互いに思ってはいないと言えばいない位の間柄だ。一緒にいる時間もまだ短い。

「ハハハ!俺もそんなに旅が得意って訳じゃないからさ」

そう言って笑えば彼はこれ見よがしに溜息を吐く。不思議なもので、一番仲が良いとは言えない間の二人の会話が一番、目立たない口調だった。その調子で他の二人とも喋れば良いのにとは思うが、彼なりに何か思うところと難しい所があるのだろうなと思った。そんな自分たちをミラとプロトが顔を併せながら不思議そうに見ていた事には気が付かなかった。


森の夜はミラを除いた三人の二人体制で夜番だ。一人は寝て、後の二人が警戒、これが現状最も盤石の構えだった。流石にウィリアムも寝ている間はどうしようもないし、それはプロトもそうだ。かと言ってイレギュラーへの対応や、事故を思えば一人が起きて後が寝るのは難しい故にこれ以外無いとも言えた。勿論、ミラは最初、この案に多少ゴネたが彼女はまだ課題が多い。それが分かっているだけにウィリアムとこれだけは手を組んで彼女に呑ませた。そして夜が明ければ再び全員で森の出口、さらに言えばアルニカの入口へと進む。


「・・・うーん、そろそろ着いても良いと思うんだけどなぁ」

休憩中、頭を捻る。その言葉に全員の視線が集まる。

「予定だともう着くの?」

「多分な。つっても俺もアルニカは初めてだから・・・国も特徴的だって聞くし、公爵が言うには「入り口は分かりやすい」って言ってたから・・・まぁ分かりやすい入口って何だよ、って話だけどな」

ミラに言葉を返しながら頭を更に捻る。このアルニカ、国の前に『美しき森』と付くように、何と森の中に国がある。つまり、人の領域ではない所に無理矢理に国を作った、ということだ。何かあって森が死ねば一緒に滅びる事が確定した国だ。これだけでも変な国なのは誰にでも分かるだろう。

「ウィリアムはどう?何か知ってる?」

「いえ・・・いや、聞いた事があるだけだ。流石に小国を仮想敵とは考えません・・・ない」

「じゃぁ、本当に誰も知らないってことだね・・・何か不安になってきたよ」

ウィリアムが首を振り、プロトが自分の体を抱きしめる。

「まぁ、森の中じゃ、早々交流なんて無いだろ。でも名産もあるんだぜ」

「確か・・・木製品よね?」

「そうそう!森の中にあるだけあってさ、木工が兎に角強いんだ。見たことは無いけど種族も森に適した奴等しかいないって話だ。そうだ、ミラの杖もそこで作ってもいいかもな!」

手を叩く。良い木製の杖は大半がアルニカ製と聞いた事がある。彼らは森と長く付き合いがあるが故に、それを活かして物を作り、逆に森に無いものを他所から仕入れて国を成り立たせてもいる。その中には当然、魔法使いの杖もある。とはいえ杖は作って貰っただけでは只の魔力と相性の良い枝で、そこから特殊な加工を別の国でする必要がある。だけどアルニカで用意すればその分安く、より良い杖本体を見繕えるかも知れない。

「プロトももっと良いのに出来るかもな」

「ふむ・・・まぁお前にしては良い案だ」

ウィリアムも素直に頷く。彼からしてもアルニカ製の杖は無視できない物らしい。

「ふーん・・・二人が言うなら・・・見てみようかな?プロトはどう?」

「う、うん。ボクも良いのがあれば・・・」

それから魔法使い同士、どんな物が良いかとアレコレと口に出し始める。とはいえ、ミラにはその知識がほぼなく、プロトも最初に持たされていた物を使っているだけに互いの話は空想の域を出ていない。

「ま、それも辿り着かなきゃ意味が無いんだけどな」

そして話は元に戻る。そう、アルニカの領域には来ているように思えるがその入り口はまだ見つかっていない。そろそろ荷の食料等を思えば見つけなくては不味かった。むしろプロトが食事をする体だったのなら疾うに無かっただろう。ただ、そのお陰でプロトが特殊というのはウィリアムに理解させられた。

「迷っている、ということは無いんだな?」

「あぁ、それはない。ほぼ真っすぐに来られてる筈だ。だから後は本当に入口だけなんだが・・・」

地図を読み間違えたとは思えない。流石にそんなヘマはしない自信があったし、ウィリアムが道を切り開いてくれたお陰で管理も楽だった。森は深いが探せば方角を読むのは簡単だ。


それから暫く全員で頭を悩ませたが、それらしき場所は分からない。仕方ないと諦めたその時だった。ウィリアムが突然に振り返り、武器を抜く。

「何者だ!」

彼の覇気が飛ぶ。これだけで大抵の相手は怯む。念の為と自分も武器を手に取るがそれらしき相手は見えない。

「・・・・ぼ、ぼぼぼぼぼくは、わ、わるい人じゃな、ないヨ」

何の動きも見せない相手にウィリアムが痺れを切らしたように一歩を進めた瞬間、プロトよりも遥かに頼りのないドモリにドモッた声が聞こえてきた。同時に大きな木の影から大きな葉っぱが一枚飛び出す。

「・・・姿を見せろ」

警戒をそのままにしたウィリアムがそう声を返せば、強風に煽られでもしたように葉っぱが震え、そのまま痺れてしまったように小刻みに震える。

「ぼ、ぼぼぼぼくは、コ、ココッロだ、ヨ。き、君たちがアルニカに、よ、用があるって聞こえて・・・・」

葉っぱの震えそのままに声が震えていて聞きづらい。名前もよく分からない。ただ、どうやらアルニカを知っているように聞こえた。

「ウィリアム、一度威嚇を止めて。ねぇ・・・もう一度、名前を聞かせてくれないかしら?」

ミラにも同じように聞こえたのか彼女がウィリアムを諫めて前に立つ。そうすればウィリアムも圧を放つのを止めて彼女の後ろに控えながら静かに警戒していた。

「ぼ、ぼくはコッロだヨ。皆がアルニカに行きたいって悩んでたように見えたから・・・」

「そう。私はミラ。よろしくねコッロ。それとごめんなさい。ウィリアムも悪気があった訳じゃないの」

「い、いや。ぼくも突然声、掛けちゃったヨ。そ、それでアルニカに行くなら、案内、するヨ?」

落ち着いて来たのか次第に流暢になっていく。どうやら悩んでいた時の会話を聞かれていたようだ。だけど、ウィリアムが声の聞こえる範囲で気が付かなかったのはどうしてだろうとも思う。だからか彼は今だに警戒心を一切緩めてはいない。

「まぁ、ほんと?私たち、道に迷っていたの。良ければ案内してもらえないかしら?」

しかし、そんな懸念を他所にミラは手を叩いて喜びを露わにする。それにピクリとウィリアムが反応したように見えた。まぁ、気持ちは分からないでもない。

「う、うん。良いヨ。ぼくたちの国に案内する、ヨ」

木の陰から一つの影が飛び出す。それは奇妙な見た目をしていた。頭には先程も見えていた大きな葉っぱが一枚、伸びていた。身長はミラの半分ほどで小さい。また全身がツルリとしていて凹凸らしき物がなく、手足も蔓のようだった。口らしきものは見当たらず、大きな二つのくりくりとした目が何の感情も浮かべずにこちらを見ていた。

「ぼ、ぼくたちはアルニカの民、お客さんを歓迎する、ヨ」

風に靡く雑草の様に手らしき物をウネウネさせながらコッロと名乗った彼?は森の奥へと意外にも器用に歩き始めた。

「どうせ、当ても無いし、ついて行ってみましょう?」

ミラはそう言うと彼の背を我先にと追う。それに慌てたのは自分達だ。

「おいおい」

そして呆れながらも先を行く二人の背を慌てて追った。


良ければ評価、ブクマ等してもらえれば幸いです。

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